にゃんごろーは、「ははー」とひれ伏していた。
長老に向かって、ひれ伏していた。
なぜ、そんなことになっているのかというと、話は少しだけ遡る。
長老の質問に大正解して、卵船に窓がないことを言い当てた、にゃんごろー。
その後、長老とマグじーじは、声だけが聞こえてくるムラサキに頼んで、青猫号の壁を窓に変える魔法を実演してみせてくれた。
大正解のにゃんごろーは、大歓声を上げた。
子ネコー大喜びの後、壁はまた元の濃いグレーに戻された。
少し名残惜しかったけれど、にゃんごろーは「もっと、見たい!」なんて駄々をこねたりはしなかった。
この後に、もっと素晴らしいことが待っていると信じていたからだ。
卵船に窓がないことを言い当てた後、長老たちは青猫号の壁を窓に変える魔法を見せてくれた。
ということは、つまり。
卵船にも、同じ魔法の仕掛けが施されているということだ。
ということは、つまり、つまり。
次は、いよいよ卵船に乗せてもらえるのだ。
そして、今度は。
卵船の壁が窓に変わるところを、卵の中から見せてもらえるに違いない。
そして、もしかして、もしかしたら。
そのまま、お空へ連れて行ってもらえるかもしれない。
もちろん、遠くへは行かないだろう。それくらいは、子ネコーだって、弁えている。
でも、ネコーたちの住処がある森の上を一周して帰ってくるくらいなら、有り得るのではないだろうか?――と子ネコーは考えた。
ネコーの住処をお空から見ることが出来るなんて、とても素敵だ。素敵すぎる。
炎上してしまった、発明ネコー・ルシアの研究所兼お家再建に頑張るみんなの様子も空から見えるかもしれない。
森に戻ってから「あの時、森の上を飛んでいた卵のお船には、にゃんごろーが乗っていたんだよ」と、みんなに話したら、きっと、みんなびっくりするだろう。
想像するだけで、嬉しくて楽しい。
喜びが爆発して、世界中に飛び散っていきそうだった。
きっとそうなるに違いないと確信して、期待を込めたお目目でワクワクと長老を見上げるにゃんごろー。
けれど、ニコニコ顔の長老から告げられたのは、無慈悲な一言だった。
「卵船の見学は、これでおしまいじゃ」
「……………………え!?」
最初は何を言われたのか、分からなかった。
長老の言葉が理解できなくて、ワクワク顔のままピシリと固まり、ただただ長老を見上げる。
しばらくして、ようやく可愛い脳みそに情報が届いた。
言われたことの意味を理解したにゃんごろーは、驚愕のお顔で小さく叫ぶと長老のお腹に縋りついて、今度は盛大に駄々をこねた。
「やにゃ、やにゃ、いやにゃー! にゃんごろーも、ちゃみゃろにのりちゃーい! のっちぇみちゃいー! のせちぇー! おねらいー! しぇめちぇ、にゃかをみりゅらけりぇみょー! ちょーろー! おねりゃいー!」
「うむ。それは、また今度じゃな」
「しょんにゃー!?!?」
半泣きウルウルで長老の長い胸毛を掴んでグイグイ引っ張りながら懇願したけれど、長老はニコニコしているのに素っ気ない。
お鼻の奥がツーンとしてきたその刺激で、にゃんごろーはあることを閃いた。
『きっと長老は、あの事をまだ根に持っているに違いない!』
そんな考えが、雷鳴のように天から降って来たのだ。
にゃんごろーは、長老から少し離れると頭を下げて、肉球をペタリと床につけて謝罪した。
「しゃっきは、ごみぇんにゃさいれしちゃ。おあいこっちぇ、いっちゃけりょ、にゃんごろーが、ちょーろきゃら、たべちぇって、いっちゃのが、しゃきらったから。にゃんごろーが、わりゅかっちゃ。しょれに、ごみぇんにゃしゃいを、まら、いっちゃにゃかっちゃ。おあいこれも、ちゃんと、ごみぇんねを、しにゃいちょいけにゃかっちゃ。らから、ごみぇんにゃしゃい!」
「ふぅむ…………」
にゃんごろーは、巨人さんびっくり事件の時に長老を身代わりに差し出そうとしたことを深々と謝罪した。
巨人さんと勘違いしてしまったランドルフとは、お互いに「勘違いしてびっくりしたこと」と「びっくりさせたこと」を謝り合ってからお相子で手打ちにした。
でも、長老とは、ごめんなさいをしないまま「お相子」にしてしまった。
長老は、そのことをまだ根に持っていて、にゃんごろーに意地悪をしているに違いないと考えたのだ。
意地悪はひどいけれど、ちゃんと「ごめんなさい」をしなかったにゃんごろーも悪かった。その点について、心から反省して謝るにゃんごろーだったが、長老からのお返事は芳しくなかった。
このままでは、本当に卵船の見学が終わってしまいそうだ。
卵船に乗るどころか、中がどうなっているのかを見ることもできないまま、終わってしまいそうだ。
そんなのは、嫌だった。
ここは、何とか機嫌を直してもらわなければならない。
子ネコーは、一生懸命考えた。
そしてついに、「これぞ!」という解決策に辿り着いた。
『そうだ、例のアレだ! 例のアレをやれば、長老も機嫌を直すに違いない!』
――と、子ネコーは考えた。
そして、早速、『例のアレ』を実行した。
まずは、床に頭をつけてしゃがみ込み、子ネコー団子になる。
それから、そのまま「ははーっ」と両手を前に、滑るように走らせた。
にゃんごろーは、長老の前でひれ伏したのだ。
きっと、これで。
長老の機嫌も治るはずだと信じて、子ネコーは「ははーっ」と盛大にひれ伏した。