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第98話 おいしいやちゅ?

 床に膝をついて、カザンは恭しく子ネコーを見つめていた。

 サムライのくせに、拝命を賜る騎士のようなポーズだった。

 神聖な儀式に臨む騎士のような厳かな声で、カザンは言った。

 相手役が、もふもふちょーんとした子ネコーなので、普通に「ごっこ遊び」をしているようにしか見えなかった。

 とにかく、カザンは言った。


「にゃんごろー、提案があるのだ」

「ちぇーあん?」

「ああ、その…………。いいことを、思いついたのだ。聞いてくれるか?」

「いいこちょ…………。うん、もちりょん!」


 提案の意味が分からなかったらしく、子ネコーが首を傾げ、神聖っぽく見える儀式は出だしから躓いたが、ままごと的に何とか持ち直した。

 子ネコーにも分かるように言い直したサムライは、挫けることなく先を続けた。


「私とクロウとにゃんごろーの三にんで、おそろいの会を結成…………いや、おそろいの会を作らないか?」

「きゃい……。おいしーやちゅ?」


 今度は、子ネコーに首を傾げられる前に言い直したカザンだったが、子ネコーは別のトラップに引っかかった。勝手に発動した食いしん坊トラップだ。

 サムライに、子ネコーの期待に満ちた眩しすぎるキラキラがキラキラと浴びせられる。サムライは目を細めながら軽く首を傾げ、それから軽く笑った。

 女たちには見せたくない笑顔だな、とクロウは思った。


「美味しい……? ああ、違う。その“貝”ではない。私が今言った“会”というのは、そうだな……。三にんで、おそろい仲間になって、たまにみんなで集まるのだ。そうして、修行の成果……修行をどれだけ頑張ったのかを、報告し合うのだ」

「しゃんにんで、あちゅまっちぇ、がんばりを、ほーこくしあう……」

「そうだ。一緒に修行をすることは出来ない代わりに、みんなで集まって、頑張りを報告し合うのだ。みんなにいい報告をしたいと思えば、修行の励みに…………修行も頑張れるだろう?」

「ほわぁああああ! ちゃ、ちゃしかに! がんばっちゃほーきょく、しちゃい! しょのちゃめに、もっちょ、いっぴゃい、がんばれりゅ! しゅごい! ニャニャンしゃん、しゅごい! しゅてきにゃ、かんがえらちょ、おみょう! ぱちぱち! しゅちぇき! にゃんごろー、みんなといっしょに、きゃいににゃる!」


 何か微妙に言い回しがおかしいが、子ネコーは、おそろいの会結成に大賛成のようだ。飛び上がらんばかりに喜んでいる。カザンはしばらくその姿を堪能してから、子ネコーをさらに喜ばせることを言った。


「ああ、そうだ。おそろいの会を開く時には、私がお茶とお菓子を用意しよう」

「え、ええー!? おちゃちょ、おきゃしが、ちゃべれりゅにょ!? い、いいにょー!?」

「ああ。もちろんだ。とっておきを用意しよう。楽しみにしているといい」

「ふ、ふわぁあぁあぁあ…………! ちょ、ちょっちぇおきにょ、おきゃし…………! きょ、きょれは、がんららにゃいちょ……! おいしきゅ、おきゃしをちゃべれりゅよーに、しゅぎょーを、いっぴゃい、らんらららー! ほー、ほわぁー! にょっ! にょっ! にゃっ!」


 おそろいの会を開く際には、カザンからお茶とお菓子が提供されると聞いて、子ネコーは今度は本当に飛び上がった。長老に尻尾を掴まれたままのため、宙に浮かんだ一瞬だけ、子ネコー風船になったように見えた。無事に着地を決め、風船からただの子ネコーに戻ったにゃんごろーは、奇声を発しながら子ネコーパンチをもふもふシュシュッと繰り出した。

 美味しくお菓子を食べるためにも修行を頑張ろう、と誓って気を昂ぶらせている。逸る気持ちを抑えきれないようだ。


 その傍らで。

 カザンは、はしゃでいるにゃんごろーを微笑ましく見つめ、クロウは事態についていけずに、思考停止状態に陥っていた。


 そして、おそろいの会には誘われなかった、残りのふたりは、というと――――。

 子ネコーの尻尾係をしていた長老は欠伸を噛み殺していたのだが、おそろいの会に茶菓子が供されると聞いて目の色を変えた。涎が滴るお口で「長老も会に入れてくれ!」と勇んで頼み込もうとしたのだが、マグじーじが、すかさずそれを止める。

 マグじーじは、じじっと長老を見つめて無言のまま首を横に振り、くいっと一杯やる仕草をしたのだ。


『カザンとクロウがにゃんごろーの面倒を見ていてくれる間、大人は大人で楽しもう』


 ――――と、仕草で伝えているのだ。

 長老は「ほっ?」と目を見開いた後、そこに込められた意味を理解し、破顔して頷いた。

 その時がよほど楽しみなようで、長老はご機嫌で子ネコーの尻尾を振り回し始める。風船になりかけた子ネコーには負けるが、年齢を感じさせない中々のはしゃぎっぷりだ。

 マグじーじは、仲良くはしゃぐネコーたちを見つめてツルリと頭を撫でる。

 それから、呆れたように、けれど優しく呟いた。


「やれやれ。相変わらず、仕方のない奴じゃのぅ…………」


 ――――と。


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