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第111話 空猫クルーのお仕事

 分かっていなさそうな子ネコーは、クロウの蛮行によって乱された毛並みを整えると、「はい!」と元気よく片手を上げて答えた。


「ミルゥしゃんが、しょらねこクリューにゃのは、しっちぇる! あしゃ、きいちゃ! ちゃんと、おぼえちぇる!」

「俺とカザンも、ミルゥと同じ空猫クルーなんだが……」

「しょーらっちゃの!? あー、れも、しょーかー。さんにんは、おしごちょの、にゃかまにゃんだもんね。しょーか、しょーか。みんにゃ、しょらねこクリューにゃんらー」

「そうか、分かっていなかったか…………」


 どうやら子ネコーは、本当によく分かっていなかったようだ。

 言われてみれば、はっきりそうとは伝えていなかった気もするな、とクロウはワキワキと準備運動中だった指の動きを止めた。きちんと伝えていなかったのか、子ネコーが覚えていないだけなのかは、よく分からないが、いずれにせよ分かっていないのならば仕方がないなと思った。

 だが、そうと分かったならば、空猫クルーであるクロウに対して言うべきことがあるだろうと期待を込めて、クロウは子ネコーを見下ろした。

 しかし、クロウの想定以上に子ネコーは分かっていないようだった。


「でも、しょれが、ろーしちゃの? にゃんれ、クリョーがそりゃねこクリューだちょ、にゃんごろーのあたみゃが、ぐしゃぐしゃにしゃれるにょ!?」


 にゃんごろーは、「むぎゃっ!」と両手を振り上げた。「ちゃんと説明して!」と言わんばかりだ。


「もしかして、おまえ。空猫クルーの仕事が何なのか、分かってないな……?」

「むっ! ちゃんと、わかっちぇるよ! ミルゥしゃんに、おしえちぇもらっちゃもん! こまっちぇいるひとをたしゅけりゅ、だいじなおしごちょれしょ!」


 にゃんごろーは、振り上げたお手々を振り回して、「ばかにするにゃ!」の意を表明した。「にゃんごろーは、怒っているぞ!」の意も込められている。

 クロウは「ふむ」と頷いた。長老からいろいろと聞いているものだとばかり思っていたのだが、ミルゥから大雑把な説明を受けただけのようだと理解した。

 しょうがないので、子ネコー向け空猫クルー講座を急遽開催することにした。


「ミルゥの説明も間違ってはいないが、大雑把が過ぎる。いいか、空猫クルーの仕事はなぁ、魔法遺物の調査とか…………あー、まあ、魔法関係の何でも屋さんだ! で、その中でも、俺やミルゥやカザンは、対魔獣専門で、あー、危険な魔獣を狩るのが主な仕事だ!」


 子ネコー向けに翻訳したせいで、ミルゥの説明を大雑把と評した割には、ふわっとした説明になった。それでも、クロウが一番伝えたかったところは、ちゃんと伝えられたはずだった。

 クロウは、しゃがみ込んだまま腕を組んで「どーだ!」とばかりに胸を張った。


『ただのお肉にすぎないにゃんごろーとは違い、魔獣を狩るお仕事をしている自分は、一味違うお肉なのだ!』


 ――――ということを、クロウは伝えたかったし、伝わったものと信じて疑わなかったが、子ネコーは持ち前の食いしん坊を発動させ、美味しい聞き間違いをしたようだ。


「きけんにゃまんじゅうを、かうおしごちょ!? おいししゅぎちぇ、きけんにゃおまんじゅうってこちょ!? クリョー!! もっちょ、くわしきゅ!」

「うわぁあ! ちょっ! やめろ! 俺の膝の上に涎を零すんじゃねぇ!」


 美味しすぎて危険なお饅頭を買い集めるのが空猫クルーの仕事だと聞き間違い&勘違いをした子ネコーは、涎を溢れさせながら身を乗り出した。クロウの膝頭にお手々を乗せ、涎の洪水が絶賛発生中のお顔をズズイと近づけ、詳しい説明を求めてきた。

 クロウは慌てて子ネコーの頭に手を当て、押し返す。危うく、膝頭に涎を零されるところだったのだ。垂らすどころの話ではない。盛大に零されるところだった。

 クロウの膝は既に子ネコーの涙でじっとり濡れているが、それとこれとは話が違う。涙は許容範囲内だが、涎を零されては堪らない。


「てか、饅頭を買う仕事じゃねぇよ! 魔獣だ! 魔獣! 魔法を使う危険な獣のことだよ!」

「ふぇ? まりゅー…………?」


 涎の発生源である食い意地を鎮めるべくクロウが声を張り上げると、押しのけられてもへこたれずにズイズイグングンと突進を続けていた子ネコーがピタリと動きを止める。子ネコーの動きが止まっても、クロウは用心深く子ネコーの頭から手を外したりしなかった。

 クロウに頭を押さえられたまま、にゃんごろーは「じゅるりん、ごっくん」とお口いっぱいに溜まった涎を飲み込んだ。


「まじゅーっちぇ、もしかしちぇ、まほーをつかう、こわいけもにょのこちょ? おとにゃのネコーでも、ゆだんしちぇちゃら、やられちゃうっていう…………?」

「そう、それ。正解!」


 ポカン顔で見つめてくるので、もしや魔獣を知らないのか、と思ったが、そういう事ではないようだった。「にゃごにゃご」と両手を蠢かしながら尋ねてくる子ネコーにクロウは正解を言い渡してやる。

 子ネコーは、お目目をまあるく見開き、お口をパカッと開けたお顔でクロウを見つめ返した。


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