にゃんごろーは、お目目まんまるお口パカーのお顔で、頭上で「にゃごにゃご」動かしていたお手々を「ふよんふよん」と蠢かした。
小さな頭の中で、何かが高速で処理されているようだ。
今度はどんな頓珍漢に食いしん坊なことを言い出すのだろうと身構えるクロウだったが、予想に反して普通にまともな叫びが響いた。
「ミ、ミルゥしゃんは、いちゅも、しょんにゃ、きけんらおしごちょを…………!?」
叫びながらにゃんごろーは、両方のお手々を頬に当て、「ひょー!?」のお顔になった。それから、「ああぁああー!」と身もだえる。
「あぁー! しょうちょわかっちぇいちゃら、もっちょ、しっきゃりちょ、おみおくりぃをしちゃのに~!…………うにゃ! いみゃかられも、おしょくにゃい! にゃんごろーのこえよ! おしょらのむこーの、ミルゥしゃんまで、ちょろけぇ~~~~!!」
身もだえダンスをちょこまかと踊りながら唸り声を上げていた子ネコーが、両方のお手々を口元に当てて、腹の底から叫びを上げた。青い空の壁の、その向こう側へと。
「ミルゥしゃ~ん! きをちゅけちぇ、あんぜんに、おしごちょ、がんらっちぇねぇええええ!! ごりゅりれかえっちぇきちぇねぇええええええ!!」
「ご、ごりゅりれ……? ああ、ご無事で帰ってきてねって、言ってんのか。まあ、今日はそんなに危険な仕事じゃないはずだし、調子にのらなきゃ大丈夫だろ。ベテランと名乗るには、程遠いけど、新人ってわけでもないしな」
「ほ、ほんちょ!? しょ、しょっか。よ、よかっちゃ。…………れも、しょっか、しょっか。ミルゥしゃんは、きけんにゃまもにょをやっちゅける、しょらねこクリューなんら……。さしゅが、ミルゥしゃん。かっこいい! さしゅが! にゃんごろーの、トマトのめらみしゃま! しゅちぇき!」
ミルゥの身を案じて、お空の壁の向こうのお空の彼方に向かって、安全祈願を叫ぶ子ネコー。クロウが子ネコーの頭にポンと手を置いて、安心させてやると、子ネコーは「ほっ」とお顔を緩めた。それから、蕩けたお顔に両手を当てて、うねくねと体をうねらせながらミルゥを称えだす。
クロウは海中で揺らめく海藻のような動きを始めた子ネコーの眉間を人差し指の先でズヅンと突いた。
ミルゥのみを称える子ネコーに、一言、言っておかねばならないことがあるのだ。
「おい、ちびネコーよ。俺もその素敵でカッコいい空猫クルーなんだが? それを踏まえて、俺に何か言うべきことはないのか?」
「ふぁっ!? あー、ああ! しょんにゃこちょ、いっちぇちゃねぇ。…………えーちょ、うん! さしゅが、にゃんごろーのじょしゅ! えらい! しゅごい! じょしゅちょしちぇ、にゃんごろーせんしぇいのこちょを、しっかりまみょるよーに!」
「な・ん・で! ミルゥのことは過剰に褒め称えるのに、俺には上から目線なんだよ!」
「にゃ!? みょ!? ふぉっ!?」
ミルゥのことは手放しで褒め称える癖に、クロウのことは先生目線で助手扱いのにゃんごろーの眉間を、クロウはズシビシと突きまくった。年が近く、クルーになった時期もほぼ同じ、所謂同期であるミルゥとの扱いに差をつけられたことが気に食わなかったからだ。
クロウに突かれるたびに、にゃんごろーは小さなもふ頭を前後に揺らして奇声を上げた。クロウの指が引っ込んでいくと、眉間をコシコシしながら、「みょー!」とクロウを睨みつける。
どうしてズシビシされたのか、分かっていない様子の子ネコーにクロウは、ついついボヤいてしまった。
「おまえさー、俺のことだけ扱いが雑じゃねぇ? 俺だけ呼び捨てだしよ」
「…………にゃ? しょーいえば、しょーらね? んー、なんちょなく!」
コシコシの手を止めて首を傾げつつも、にゃんごろーは悪びれた様子もなく、「なんとなく!」と元気に言い切った。
完全に舐められている。
クロウは人差し指を、もう一度ズビシともふ頭に突き立てた。
「何だよ、何となくって。まあ、名前のことは今さらだから別にいいけどよ。扱いが雑なことについては、改善を要求する! ミルゥと同じ空猫クルーとして、俺のことも、もっと丁重に扱え! 年長者として、それなりに敬え! クルーの中では、確かに若いほうだけどな? でも、俺は! おまえよりは! 年上! なんだよ!」
お名前呼び捨てについては譲歩したクロウだが、扱いの雑さには我慢がならないと改善を要求しながら、指の先をグリグリする。
にゃんごろーは、人差し指攻撃から逃れようと、短いお手々でもふっとクロウの手首を掴み、「にゃごにゃご」奮闘しながらお目目を泳がせる。
おそらく、扱いが雑な自覚があるのだろう。そのことを謝るのではなく、うまく言い逃れる方法を模索しているようだ。
「にゃ!? にゅ!? にょ!? みょー、しょれはー、しょのー、クリョーはー、クリョーはー、しょのぉー…………あ! しょだ!」
何かいい考えを思いついたようだ。にゃんごろーは人差し指攻撃に抗うことを止め、満面の笑みで言い放った。
「クリョーはね、ちょーろーといっしょにゃの!」
「は? 長老さんと、一緒?」
「しょー! ちょーろーと、いっしょ!」
クロウは指の動きを止め、唖然とした顔で子ネコーを見つめた。
にゃんごろーは、「これなら文句ないでしょ!」と言わんばかりのお顔でニコニコとクロウを見上げている。問題はすべて解決したと言わんばかりのスッキリとしたお顔でもあった。