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第6章 にゃんごろ女の子ネコー

第122話 キラキラ子ネコー

 その子は、キラキラと輝いていた。

 にゃんごろーの心象的な意味ではない。

 誰の目から見ても、物理的に。

 その子は、キラッキラに輝いていた。



*********



 魔法の通路での見学会終了後。

 子ネコー一行は、マグじーじが魔法で開いた出口を抜けて、お船一階の通路へと出た。にゃんごろーもよく知っている、食堂と和室があるフロアだ。

 食堂から漂ってくるいい匂いに刺激されて、長老と子ネコーの激しい腹音に隠れてクロウの腹も空腹を主張した。幸いにも、カザンがチラリとほんの一瞬だけクロウに視線を流しただけで、他は誰も気づかなかったようだ。美味しい匂いに気を取られている子ネコーに気づかれる前に、クロウは腕に抱えていた子ネコーをそっと床の上に降ろした。通路に解き放たれた子ネコーは、ごはんの匂いに導かれるまま、勇んで和室へと向かおうとする。だが、そこへ長老が待ったをかけた。


「待つのじゃ! にゃんごろーよ!」

「え? ろーして、ちょーろー?」


 にゃんごろーは、大きく腕を振り上げ、小さいけれど大股な一歩を踏み出した格好のまま、不思議そうに長老を振り返った。

 ごはんに待ったをかけるなんて、長老らしくないからだ。我先に、とにゃんごろーを押しのけるようにして和室に向かいそうな長老が「待った!」をかけるなんて、らしくない。

 不思議そうな子ネコーに、長老はニヤリと笑ってみせた。


「みょっほっほっ。今日のお昼は、和室と違うところで食べる予定なのじゃ」

「えっ!? あ、もしかしちぇ、しょくろー!?」

「うんにゃ。食堂ではない」

「なんらー、ちがうのか…………。んー、じゃあ、おしょちょ?」

「お外でもないのー」

「はっ! ましゃか、もりへかえっちぇ、ネコーのみんにゃといっしょにちゃべるにょ!?」

「いーや、森にはまだ帰らん。お船の中じゃ」

「んー? わしちゅでもなくちぇ、しょくろーでもにゃい、おふねのなきゃ? んー、んー…………? わかんにゃい! ちょーろー、ろこぉ?」


 どうやら、今日はいつもの和室とは違う場所でお昼ごはんをいただく予定のようだ。長老も楽しみなのか、何時もよりもウキウキしている。和室へ向かいかけていたにゃんごろーは、長老ににじり寄って思いつく場所を上げていくが、どれも外れだった。

 焦れたにゃんごろーは、長老の白くて長いお胸の毛を掴んでユサユサしながら答えをせがむ。

 けれど、長老は安定の“いけず”っぷりを見せつけた。


「みょっほっほーん。それは、秘密のお楽しみじゃ。にゃんごろーは、初めての場所じゃ。楽しみにしておるがいい。にゃんごろーの憧れの、大喜びの場所じゃ」

「あ! サンリューム!」

「いーや。サンルームでもないぞい。ま、とりあえずは、お外へ向かうぞ?」

「え!? れ、れも、しゃっき、おしょちょじゃにゃいっちぇ、いっちゃよね?」


 楽しそうに尻尾を振り回しながら、長老は外のデッキに繋がる方向をもふビシッと肉球で指し示して、先頭に立って歩き出す。

 憧れの場所と聞いて、にゃんごろーにはもう一つ、思い浮かんだ場所があった。もしや?…………チラリと期待が走ったけれど、口に出す前に打ち消した。そこは、子ネコーにはまだ早すぎる、おとなの場所だと教えられていたからだ。どちらにせよ、お外に向かうということは、そこではないのだろう。やっぱり、そこはまだ、にゃんごろーには早すぎる場所だったようだ。

 前言を翻す長老の行動に振り回されて、にゃんごろーは困惑のお顔で長老の尻尾の後をちょこちょことついて行った。

 にゃんごろー同様、今日の予定は何も知らされていなかったクロウとカザンも、それぞれ不思議そうな素振りをした。クロウはあからさまに首を傾げ、カザンは一つに結わえた髪の先を微かに揺らした。けれど、二人とも、ネコーたちのやり取りに水を差したりはせず、黙って尻尾の後を追いかけた。ついて行けば、その内分ることだからだ。

 見学会の主催者であるマグじーじは、当然この後の予定を把握していた。こちらは長老同様にウキウキのホクホク顔で子ネコーの反応を楽しんでいる。

 ネコーたちの問答は、まだまだ続いていた。


「今日のお昼はなー、スペシャルなゲストをお呼びしてあるのじゃ。お船のデッキで待ち合わせをしているから、これからお迎えに行くのじゃ」

「はっ! ま、ましゃか! にゃしろー!?」


 スペシャルなゲストと聞いて、にゃんごろーが顔を輝かせた。飛び跳ねながら、今一番会いたい相手の名前を叫ぶ。


「ブッブー! はずれじゃ。にゃしろーが来るなら、見学会も一緒にやるわい」

「しょ、しょっかー。しょれも、しょーらね。うーん? じゃあ、ショラン?」

「ブッブー!」


 療養中のため、今は離れて暮らしている兄弟ネコーのにゃしろーに会えるのかと期待したのだが、残念ながらはずれだった。ガクリと肩を落としたものの、気を取り直して、別のネコーの名前をあげる。今度は、行商の旅に出ている長老の孫ネコー、ソランだ。

 だが、これもはずれだった。

 にゃんごろーはめげずに、会えたら嬉しい人たちの名前をあげていった。


「ミルゥしゃん!」

「はずれじゃ。というか、ミルゥはお船のクルーなんじゃから、別にお迎えに行く必要はないじゃろうが」

「うー、しょか。じゃあ、もりのみんにゃ?」

「それも、はずれじゃ!」

「ええ~? にゃんごろーの、しっちぇいるネコーにゃの? しょれちょも、ひちょ?」

「いんにゃ。にゃんごろーの知らないネコーと人じゃ」

「みょ、みょー! しょんにゃの、わきゃるわけ、ないれしょー! みょー! ちょーろーはー! みょー!」


 まさかの「知らないネコーと人」発言に、にゃんごろーは振り上げた両手をグルグルと回してプリプリと怒った。もちろん、長老は子ネコーの怒りなんてものともしない。それどころか、楽しそうに笑って、こんなことを言った。


「みょっほっほぅ。知らないネコーじゃが、にゃんごろーは大喜びすると思うぞ?」

「にゃ!? しらにゃいネコーにゃのに、にゃんごろーが、おおよろきょび……? あ、もしかしちぇ…………」

「ほうれ、到着じゃ! さて、もう来ておるかのー?」


 何時ものごとくの長老節に不審そうな顔をした子ネコーが、ハッとなにかを閃きかけた時に、長老が目的地への到着を告げた。

 デッキへと続くドアを開けて、外へと出て行く長老。

 期待に胸を高鳴らせて、にゃんごろーもその後に続き、キョロリと首を巡らせる。

 スペシャルなゲストは、もう来ていた。

 ドアの脇、にゃんごろーから見て左手の壁の前で、お迎えが来るのを待っていた。

 スペシャルなゲストは、二人。

 知らない人間と、それから。


 知らない子ネコー。


 全身をキラキラで飾り立てた女の子ネコーが、そこにいた。


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