活発そうなお顔の、可愛い三毛子ネコーだった。
キラキラと輝いている。
物理的に。
と言っても、その子自身がホタルのように発光しているわけではない。
その子が見に纏うアクセサリーが、眩い陽ざしを照り返して煌めいているのだ。
頭にも、首元にも、胸元にも、手首にも、足首にも、腕にも、足にも、それから尻尾にも。色つきの透明な石を繋いで作ったアクセサリーが、キラキラと存在を主張していた。それから、羽織っているベストにも、透明な石で作った花や鳥を模したブローチがみっちりとひしめき合っている。
これでもか!――――と言わんばかりにアクセサリーを身に纏っていた。
少々を通り越してやり過ぎな気はする。その分、個性的ではあった。
けれど、やり過ぎたキラキラは、個性的なお洒落を極めるためのものではないのかも知れなかった。クロウには、そのキラキラに対して、どうしても気になることがあった。聞いてもいいのだろうか、と思っている内に、三毛子ネコーの自己紹介が始まった。
顔立ちから受ける印象通りのハキハキとした自己紹介だった。
「こんにちは! 本日は、お招きいただいて、ありがとうございます! 魔法雑貨店キラキラの看板娘ネコー、キララです!」
三毛子ネコーは、両手を頭上に上げて、アクセサリーを見せつけるようにしながら、丁寧なごあいさつを披露した。アクセサリーに負けず劣らず、笑顔も弾けている。看板娘ネコーの名に恥じない、見事なスマイルだった。
にゃんごろーも、慌てて居住まいを正し、深々ペコリと頭を下げて自己紹介のご挨拶をした。
「ネ、ネネ、ネコーの…………にゃにゃ! えっちょ、も、もりのネコーの、にゃんごろーれしゅ! よろしる、るるるるる、る!」
「あら? 森のネコー流のご挨拶なのかしら? ふふ。こちらこそ、よろしる、る!」
「る!」
「る!」
ネコーの子のにゃんごろーと言いかけて、相手も子ネコーだと気づいて、慌てて言い直すにゃんごろー。焦ったせいで、「よろしく」のご挨拶は、「よろしるる」とにゃんごろー流になってしまったが、看板娘ネコーのキララも片手を上げたポーズで「よろしる、る!」と返してくれた。
嬉しくなったにゃんごろーは、キララの真似をして片手を上げて元気に「る!」と声を張り上げる。すると、キララもまた「る!」と返す。
ふたりとも「る!」が気に入ってしまったようで、しばらくふたりで「る!」の応酬を楽しんだ後、仲良く笑い合った。
子ネコーたちの「る!」の共演が一段落したところで、キララの隣でタイミングを計っていた人間が、腰を屈めてにゃんごろーに自己紹介をした。
「あはは。早速、打ち解けたみたいで何よりだね。申し遅れました、僕は魔法雑貨店の店員で、ミフネといいます。にゃんごろー君、よろしく…………いや、よろしる、る!」
「にゃ、にゃんごろーでしゅ! よろしる、る!」
ミフネは、こざっぱりとした身なりの若い人間の男だった。にゃんごろーたちが戯れている間に、大人同士の挨拶は済ませていたので、ミフネはにゃんごろーにだけ話しかけ、最後の「る!」に合わせて小さく片手を上げた。もちろん、にゃんごろーも片手を上げての「る!」を返す。
「キララは、にゃんごろーよりも、少しだけお姉さんじゃな」
「キラリャおねーしゃん…………」
「ふっふふーん♪ そう! お姉さんよ! でも、キララでいーわよ? わたしも、にゃんごろーって呼ぶわね!」
「キラリャ!」
長老が、にゃんごろーの頭をポフポフしながら教えてくれた。にゃんごろーが、「お姉さん」呼びをすると、キララは嬉しそうに胸を反らした後、キララ呼びでいいと言ってくれた。言われた通りにもう一度お名前を呼んでみると、キララは「にゃふん」と満足そうなお顔で笑った。
「ふむ? それにしても、キララの方は随分と流暢に喋るな? お姉さんと言っても、にゃんごろーとさして変わらないように見えるのだが…………」
「まあ、人間の多い街育ちのネコーってものあるだろうし。それに、あれだ。看板娘ネコーとして、店の手伝いとか、してるからじゃね?」
「なるほど。そういうことか」
「それよりも、俺には気になることがあるんだが…………」
子ネコーたちの微笑ましいやり取りを見下ろしながらカザンが首を傾げると、クロウがそれに答えた。クロウの推測にカザンは「なるほど」と頷いたが、答えたクロウには、もっとずっと気になることがあった。
「なあ、看板娘ネコー。一つ聞きたいことがあるんだが?」
「どうぞ? なにかしら?」
聞いていいものか迷いつつクロウがキララに尋ねると、キララはクロウを見上げて愛想よく笑顔で応じた。躊躇いつつも、クロウはずっと気になっていた疑問を口にした。
「その…………。身に着けているアクセサリー全部に、値札が付いているように見えるんだが…………?」
「そう! そうなの! これ、全部、売り物なの! みなさん、気になるアクセサリーがあったら、遠慮なく言ってくださいね! 買ってもらえたら、わたしが喜びます!」
「ほう。では、おすすめを一つ頂こう」
「ワシも! ワシも!」
よくぞ聞いてくれたとばかりに、キララは全身を見せびらかすようにしてハキハキと答え、かつ、営業を始めた。
ふたりの質疑応答のとおり、キララが見に纏うキラキラには、どれも値札が付いていた。キララの全身を飾り立てている無数のキラキラは、お洒落のためではなく、営業のためだったのだ。それにしても、やり過ぎなのではとクロウは思ったが、効果は絶大のようだ。
ネコー好きの魚が二匹、早速エサにくらいついている。
店員のミフネは、すかさずキララのサポートに回った。基本の接客はキララに任せ、補足説明やお値段的なことなど、あくまでサポート役に徹している。おそらく、魚二匹の“ネコー好き”という特性を、バッチリ見抜いているのだろう。息の合った良い連携だ。
魔法雑貨店キラキラの二人は、なかなかに商魂たくましいようだ。
既に広げられていたお店が展開されて、ただの待ち合わせの場所だったはずの青猫号のデッキは、すっかり臨時即売会の会場となってしまった。
「お洒落じゃなくて、ディスプレイなのか…………」
キララたちにすすめられるまま、次々と商品を買わされそうな二人を見ながら、クロウは乾いた笑いを浮かべるのだった。