突然始まった魔法雑貨店キラキラの看板娘ネコー・キララと店員ミフネによるキラキラアクセサリーの即売会は、カザンとマグじーじがおすすめを一つずつお買い上げしたところで、急遽終了の運びとなった。
森の子ネコーたちの腹時計が、早くお昼にしろとやかましく要求してきたからだ。
「うぎゅ~。にゃんごろーのおにゃきゃが、ごはんがほしいっちぇ、しゃわいれりゅ~ぅ」
「長老のお腹もじゃ。予約の時間には、ちょいと早いが、店はもう開いておるからの。お買い物の続きは後にして、先に店に向かわんかい?」
それまで、興味津々でキララたちのやり取りに見入っていたにゃんごろーが、お腹を押さえて、切なそうなお顔で項垂れた。長老も切ないお顔をしている。長い毛が生えたお腹をもしゃもしゃとかき混ぜながら、長老は即売会の開催主であるキララたちに向かって提案した。他のメンバーの同意は得るまでもないと考えているのだろう。実際、その通りだった。ネコー好き二人は、項垂れるにゃんごろーを見て、「これは大変」という顔をしているし、クロウは元々即売会には参加していない。
さて、森のネコーたちの腹の音に、いいところを邪魔された形になったキララたちはと言えば。意外にあっさりと、長老の意見に賛同してくれた。
「あ! そうですよね! せっかく、お昼のお呼ばれしたのに、ごめんなさい! アクセサリーの販売は、食べ終わった後に人の多いところでやった方が、釣られて買い物してくれるお客さんがいるかもですもんね!」
「そうだね、キララ。では、マグさん、カザンさん。続きは、食事の後でお願いしますね」
ただし、賛同の理由は、看板娘ネコー&店員としての逞しすぎる商魂からきたもののようだ。けれど、看板娘ネコーの方は、それだけでもないようだ。逞しいセリフの後に、キララはポムっとお手々を合わせて嬉しそうにこう続けたのだ。
「うふふ! 青猫カフェのニャポリタン! 食べてみたかったんです! 青猫号のお客さんから美味しいって聞いてて! 楽しみ!」
「うむ。青猫号のニャポリタンは、絶品じゃ! 長老もおススメす……」
「え、えええええ!? ちょっろ、まっちぇ! ちょーろー!」
「なんじゃい? にゃんごろー?」
長老とキララが「青猫カフェのニャポリタン」で盛り上がりかけたところで、にゃんごろーが大声を上げて、二人の会話を遮った。小さな体をふるふると震わせながら、びっくりお目目で長老を見上げている。
キララと長老の視線が、にゃんごろーへと移った。キララは「あら?」と言うお顔をしていたが、長老はいつもの悪いお顔をしていた。わざとらしく「なんじゃい?」などと言っていたが、にゃんごろーが何を驚いているのか、最初から分かっているのだろう。
「お、お、おひりゅは、カフェーで、ちゃべるにょ? あの? にゃんごろーの、あきょがれの?」
「そうじゃよ?」
「にゃうっ!?」
びっくりくりに見開いたお目目を期待に輝かせながらにゃんごろーが恐る恐る尋ねると、長老はシレッと何でもないことのように答えた。にゃんごろーは体の振動をピタリと止め、歓喜の叫びを上げた。
にゃんごろーの食いしん坊ぶりを知らないゲストのキラキラ組は、そんなにゃんごろーを見て、不思議そうに首を傾げ、目をパチパチさせた。にゃんごろーもキララと同じようにカフェ初体験なのだろうな、くらいは予想がついたが、それにしても喜び過ぎだと感じたからだ。キララだって、初めてのカフェが楽しみで仕方がなかったし、はしゃいだ素振りを見せたりもしたが、もう少し、否。格段に落ち着いていた。にゃんごろーより少しお姉さんとはいえ、同じ子ネコーであるキララと比べて、にゃんごろーの感激っぷりは、少しを通り越して度が過ぎているようにふたりには思える。
対して、クルー組はと言うと。さすがに、もう今さらだった。
ネコー好き二人は安定の通常運転で、全力で“可愛い”を鑑賞している。残るクロウは、半眼で長老を見下ろしていた。にゃんごろーとは、まだ一度しか食事を共にしていないが、その一度だけで、にゃんごろーの食いしん坊ぶりは、これでもかというくらいに叩きこまれている。だから、にゃんごろーの感激ぶり自体は、そんなに不思議には思わなかった。「あこがれの」と言う割には、長老との“お昼を食べる場所問答”の時にカフェの名が挙がらなかったことが気になりはしたが、原因についてはおおよその見当はついている。
今日の午前中の見学会を通して、長老の長老ぶりについても、十分すぎるほどに理解させられていたからだ。
――――どうせ、これも長老さんの仕込みなんだろーな…………。
という、クロウの予想は、まさしく大当たりだった。