今日のお昼はカフェを予約してある――――と聞いて。
にゃんごろーは、びっくりくりのクリクリ子ネコーになった。
カフェは、にゃんごろーの憧れの場所だった。
そのことは、長老もよく知っている。そうなるように仕向けたのは、他ならぬ長老だったからだ。そして、だからこそ。
にゃんごろーは、震える声で長老に尋ねた。
「れ、れも! カフェーっちぇ、おとにゃの、おみしぇじゃ、にゃいにょ? ほんちょに、こネコーが、いっちぇもいいにょ? こネコーは、はいっちゃいけみゃしぇんっちぇ、こネコーだけ、おいだされちゃっちゃり、しにゃいの?」
お胸の前で重ね合わせた肉球と肉球を落ち着きなくこねくり回しながら、不安と期待が入り混じったお目目で、にゃんごろーは長老を見上げた。
その姿を見て、クロウは「やっぱりか」と思った。
森のネコーたちとの付き合いは、まだまだ浅いクロウだが、にゃんごろーの今のセリフだけで見抜いていしまったのだ。長老が子ネコーにしたことと、その狙いを。
カフェとは、お洒落で美味しいお料理をいただくお店だと、にゃんごろーは長老から教わっていた。お洒落な美味しさとは、一体どんなものなのかと、にゃんごろーは興味津々だった。
そして、また。
カフェとは、静かで落ち着いたおとなの場所だとも教えを受けていた。子ネコー立ち入り禁止の、おとなのためのお店。それが、カフェなのだと長老は教えた。
子ネコーが入ってはならない場所と聞いて、憧れは募った。
青猫カフェが子ネコー禁制だ――――なんていうのは、長老のついた真っ赤な嘘だ。長老の、いつものヤツだ。
だが、にゃんごろーはそれを信じた。
信じて、そして。
夢想した。
子ネコーは、入ってはダメな場所。
おとなだけの場所。
きっと、そこは。
とても素敵なところに違いない。
そして、そこでは。
おとなしか味わえない、禁断のお料理が振舞われるのだ。
――――――――と。
こうして、カフェは。
おとなになったら行ってみたい、にゃんごろー憧れの場所となったのだ。
子ネコー禁制と言われたからこそ、より一層憧れは募った。
さて。それでは、なぜ。
長老は、そんな嘘をついたのか――――?
その答えは、クロウのお見込みの通りだった。
「むふふ。確かに、カフェは、大人のお店じゃ。騒がしい子ネコーを連れて行くことは出来ん! じゃが、お船でのお食事の時、にゃんごろーはちゃんとお行儀よくしておったからな。長老が、カフェのマスターに頼んで、特別に許してもらったのじゃ!」
「ちょ、ちょーろー!」
長老が「むふん」と胸を張って答えると、にゃんごろーのお目目からキラキラ光るものが溢れ出た。キラキラを飛び散らせながら、にゃんごろーは長老のもふぁもふぁなお腹に飛びついて抱き着いた。
「ちょーろー! ちょーろー! ありあちょー!」
「みょほほ。なんの、なんの。にゃんごろーのためじゃからの。その代わり、ちゃーんとお行儀よくしておるのじゃぞ」
「うん…………! うん…………!」
感激のあまり泣き出してしまったにゃんごろーの頭を、長老は満足そうなお顔で撫でてやった。ネコー好きのクルー二人は、「うんうん」と頷きながらネコー劇場に見入っている。マグじーじに至っては、もらい泣きしそうな有様だ。
そして、ネコー劇場初体験のキラキラ組たちは、困惑顔を見合わせていた。
「あら? カフェって、子ネコーが入ったらダメだったの? もしかして、わたし。無理をお願いしちゃった?」
「え? いや、そんなこと、ないと思いますけ、ど? どういうことなんでしょうね?」
「あー、大丈夫。子ネコーの入場制限とか、別にないから。あれは、ただの長老さんの仕込みだから、安心してくれ」
ネコー劇場を真に受けて、要らぬ心配をし始めたキララを見かねて、それまで傍観者に徹していたクロウが苦笑いと共に会話に参入した。青猫号クルーとして、船内施設の誤った情報が広がるのを見過ごすわけにもいかなかった。
キラキラ組の視線が、揃ってクロウに向けられる。どちらも、「それは、それで、どういうことなのか?」と視線で問いかけていた。
キラキラ組に見つめられて、クロウはたじろいだ。ネコー劇場初心者のふたりを見かねて口を出したはいいものの、さらなる説明を求められるとは、思っていなかったからだ。
さて、どうしたものか?――――と、クロウは天を仰いだ。