憧れのカフェに行ける喜びが爆発しすぎたにゃんごろーの感謝・感激の涙もすっかり止まって、いざカフェへ出陣!――――とは、いかなかった。
今度は、にゃんごろーが「待った!」をかけたのだ。
「カフェーで、おとにゃれいられりゅよーに、うれしぃきもちを、おちちゅかしぇにゃいちょ!」
「カフェで大人として振舞えるように、嬉しい気持ちを落ち着かせないと…………って、言ってるみたいだな」
にゃんごろーはみんなから離れ、デッキの真ん中方面へテコテコと進み出た。
これくらいの発声の乱れなら通じるかな、と思いつつも、先ほどネコー劇場の解説をしてやった名残で、クロウはにゃんごろー語初心者であるキラキラ組のために通訳をしてやった。
通訳を聞いたキラキラ組は、クロウに向かって「なるほど?」と頷いた。クロウへの視線に疑問形が含まれているのは、言葉の意味は分かったけれど、一体どうやって気持ちを落ち着けるつもりなのかが分からなかったからだ。
視線に込められた疑問符の意味を、クロウは正しく読み取った。けれど、口は開かなかった。ふたりの視線を受け止めて、「見ればわかる」とばかりに目線を流し、“答え”へと誘導したのだ。
デッキをステージにして立つにゃんごろーの元へ、全員の視線が集中した。
にゃんごろーは、みんなに背を向けたまま、空に向かって両手を上げた。
そして、歌い出す。
「にゃっ♪ にゃにゃにゃっ♪ にゃーん♪ にゃっにゃっにゃにゃにゃにゃっ♪ うー♪」
気持ちが高ぶり過ぎて、発声魔法にまで気が回らないのだろう。歌は言葉ではなく、鳴き声になっていた。さすがのクロウにも、にゃんごろーが何を言っているのかは分からない。けれど、子ネコーの喜びだけは、とにかく伝わってきた。
にゃんごろーは、空に伸ばした両手を、歌に合わせてリズミカルに横に振り、それから腰も振った。フリフリと揺れるお尻の動きに合わせて、お手々同様空に向かって伸びた尻尾も楽しげに揺れている。
お手々を左に、お尻を右に。
お手々を右に、お尻を左に。
フサフサの尻尾は、一拍遅れてお尻の後をついて行く。
お尻と尻尾がフリフリの、コミカルでリズミカルな子ネコーダンス。
「にゃ・にゃ・にゃ・にゃっ・にゃっ・にゃー♪ う・うー♪ にゃっ・にゃっ・にゃ・にゃ・にゃ・にゃ♪ にゃーん♪ にゃーん♪」
「にゃっ・にゃっ♪ にゃ・にゃ♪ う・うぅ♪」
いよいよ興が乗って来たらしく、にゃんごろーは前へ後ろへとステップを始めた。子ネコー親衛隊とキラキラ組が手拍子を始め、キララに至っては合いの手の鳴き声まで入れ出した。
長老も、調子の外れたリズムでもふぁもふぁ尻尾を揺らしながら、腹の音で「ぐっぐぐぅ!」と合いの手を入れている。
場の空気を読んで、この時ばかりはクロウも手拍子に参加した。最初は控えめだった拍手も、子ネコーの喜びにあてられて、次第にキレよくリズムカルになっていく。
「にゃにゃっにゃにゃ♪ にゃっおーん♪」
最後に、可愛くも高らかな鳴き声を響かせ、にゃんごろーは素晴らしいジャンプを決めた。
手拍子が拍手になる。
素晴らしいジャンプの出来を褒め称え、クロウも思わず拍手を贈っていた。
しかし、その拍手喝さいを掻き消す勢いで、
ぐるきゅるぐおーん!
と、盛大な音が轟いた。
長老ではない。にゃんごろーのお腹の音だ。
鳴り響く腹の音色と共に、喜びの舞は終焉を迎えた。
ごはんを寄越せと喧しく要求するお腹を押さえながら、にゃんごろーがしゃがみ込む。
「う、うぅ…………。し、しまっちゃ……。ちきゃらをじぇんぶ、ちゅきゃっちぇしまっちゃ…………。おにゃきゃが、しゅきしゅぎちぇ、うごけにゃい…………」
百点満点のジャンプを決めた子ネコーダンサーとは思えない情けない声とお顔で、にゃんごろーはみんなを振り返った。
マグじーじとカザンが「これは、いけない!」と駆け寄ろうとしたが、にゃんごろーのご指名は違った。
お顔だけをみんなに向けたまま、にゃんごろーが叫んだのだ。
「じょしゅぅー! でばんにゃ!」
にゃんごろー先生のご指名は、クロウ助手だった。