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第131話 しゃかしゃまにゃんごろーとキラキラキララ

 店内は、明るい光で満たされていた。

 淡い水色の壁には、棚引く雲の模様が描かれ、そこここに羽を生やした青い猫が隠れている。

 雲をイメージした緩い曲線が可愛い白テーブルと鮮やかな青色の椅子。椅子の背には、白い羽根のマークが見えた。


 子ネコーふたりは、仲良く並んで長老の尻尾を追いかけていた。さかさか進んで行く長老の尻尾の先を、ふたりはゆっくりと追いかけていく。お腹は空いていたし、早くごはんを食べたかったが、初めて入った店内の様子も気になるのだ。長老とは少し距離が開いてしまって、にゃんごろーは少し焦ってしまったが、キララに「予約のお席は、逃げたりしないわよ」と言われて、それもそうだと思い直した。

 ゆっくりと足を進めながら、ぐるりと頭を巡らせる。


「これが、おちょなのおみしぇ…………」

「おとなっぽいって言うよりは、メルヘンな感じだけれど、いかにも青猫カフェって感じで、すてきね!」

「うん……。すちぇき。おしょらに、いりゅみちゃい。はれちゃひの、きもちのいい、おしょら……。おひしゃまがいりゅ、おしょら」

「そうね! お天気がいい日のお空へ遊びに来たみたいよね!」

「あおねこしゃんが、いりゅのもしゅちぇき」

「そう、そう! 雲のすきまに、青猫が隠れているのが、イイのよね! それも、こっちを向いているんじゃなくて、どこか遠くを見ているのが、すごくイイ感じ!」

「あ、ほんちょら……」


 店内には、何匹もの青猫が隠れていたが、キララの言う通り、どの青猫とも視線が合わなかった。みんな、遠くの何処かを見つめているのだ。


「うーん。どこかに一匹くらい、こっちを見ている猫がいないのかしら? ね! 探してみない?」

「う、うん! さがしちぇみりゅ!」


 キララの提案で、子ネコーふたりは、目線の合う青猫探しを始め、すぐに夢中になった。

 もふもふのお手々をにょにょっと伸ばしては、「あれはちがう」、「こっちもちがう」と言い合うのはとても楽しい。

 その内に、伸ばしたお手々とお手々が、もっふんこした。ふたりは、顔を見合わせて「にゃふにゃふ」と笑いあう。


「にゃふふ♪ キラリャといっしょにこれちぇ、よかっちゃ! こネコーどうし、ちゃのしい! ありあちょう、キラリャ!」

「うん! わたしも楽しい! わたしも、ありがとう!」


 ふたりは、お礼を言い合い、また笑い合った。それから、にゃんごろーは真っすぐにキララのお顔を見つめて、もう一度、お礼を言った。「にゃふにゃふ」しながらのお礼ではなくて、すこうしあらたまった態度でのお礼だった。


「キラリャ、ほんちょうに、ありあちょうね」

「うん?」

「しゃかしゃまのこちょ。おしえちぇくれちぇ、ありあちょう」

「ああ、そのこと。うふふ、どういたしまして!」


 急に「にゃふにゃふ」を引っ込めたにゃんごろーに、キララはどうしたことかと首を傾げたが、子ネコーの中惨事を防いだ“逆さま”のお礼だと分かってお顔を綻ばせた。


「しゃかしゃま! しゅてきにゃかんがえらよね。しょれをしっちぇる、キラリャもしゅてき! にゃんごろーは、しゃかしゃまにゃんちぇ、しらにゃかっちゃ」

「そんなに言われると照れるけど、気に入ってもらえたなら、嬉しいわ」

「うん! とっても、きにいっちゃ! キラリャに、しゃかしゃまのこちょを、おしえちぇもらえるまれ、あんなにくやしくちぇ、かなしかっちゃのに…………」

「うんうん」

「しゃかしゃまのこちょを、おしえてもらっちゃら、かにゃしいのが、うれしいになっちゃ! にゃんごろーも、しゃかしゃまになっちゃ!」

「にゃんごろーの気持ちも、逆さまになったかぁ。うんうん、それ、すてきね! にゃんごろーが逆さまになったって言うの、すてきな考えだと思う!」

「え? しょ、しょーお?」

「うん!」

「え、えへへ」

「うふふ」


 子ネコーたちは、お互いに褒め称え合い、笑い合った。「照れる」と言いつつも、キララは余裕のお姉さん顔で笑っていたが、にゃんごろーは完全にテレテレだった。もふもふお手々で、落ち着きなくお顔の周りを撫で回している。

 足元で繰り広げられる微笑ましく、どこかむず痒いようないやり取りを、人間たちは後ろから黙って見守っていた。

 ただし、残念ながらマグじーじだけは、この可愛いやり取りを聞き逃してしまった。屍となった長老が何かしでかさないか心配で、白いもふふさ尻尾の斜め後ろに張り付いてお世話係に徹していたためだ。


「キラリャは、しゅちぇきなこちょをしっちぇる、おなまえにまけないくりゃいに、キラキラなこネコーなんらね!」

「あ、あらあら? あ、ありがとう」


 真っすぐすぎるほど真っすぐにに褒められて、さすがのキララもはにかんだお顔になる。

 ふたりの後ろを歩く見守り部隊は、興味深そうなお顔で、声を潜めて感想を言い合った。


「ふぅむ。にゃんごろーくんは、まだまだ子ネコーと見せかけて、なかなかやりますねぇ。今、キララの好感度が確実に上がりましたよ?」

「まあ、ちびネコーがちびすぎて、“そういう”雰囲気には、まだまだ程遠いけどなー」


 ついつい余計な勘繰りをして、ニマニマ、ニヤニヤと囁き合うミフネとクロウ。カザンは、“そういうこと”には興味がないようで、二人の会話には加わらず「うんうん」と頷きながら、一人しみじみと感想を述べた。


「うむ。仲良きことは、美しきかな」


 クロウたちの会話など、まるで聞いていないのに、二人の話を締めくくるような一言でキレイに話を終わらせたところで、何やらマグじーじの声が聞こえてきた。

 みんなの視線が、屍長老のお世話に奮闘するマグじーじへと寄せられた。

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