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第137話 子ネコー同士のお話

 サムライが一人で苦悩している間、にゃんごろーはお腹を「きゅるきゅるぎゅるるん」と鳴らしながらも、キララとふたり、子ネコー同士のお話に花を咲かせていた。


 本ネコーのみが認めていない食いしん坊子ネコーのにゃんごろー。普段であれば、目の前に用意されたお料理に釘付け状態で、一体どんなお味がするのか、どういうルートで食べ進もうかと考えを巡らせるところだったが、この時は違った。

 お料理のことはもちろん気になるが、それ以上に。


 初めて出会った兄弟以外の子ネコーに興味津々だったのだ。


 しかも、相手は街で暮らしている女の子ネコー。

 森で暮らしていた男の子ネコーにゃんごろーとは、何もかもが反対だ。

 おまけに、たった今聞いたところによると、キララには姉妹がいるというのだ。

 男兄弟だけのにゃんごろーとは、これまた正反対だった。

 にゃんごろーは、キララの話に、熱心に耳を傾ける。


「キラリっていうの! 本当はね、今日もキラリと一緒に来たかったんだけど。キラリってば、恥ずかしがり屋さんで怖がり屋さんなのよねぇ。初めての場所とかだとしり込みしちゃって、大体いつも、わたしが先に偵察してくることになってるのよ! まあ、家族全員でのお出かけの時は、むりやり連れて行くけどね!」

「え? はじゅかしくちぇ、こわいちょ、おしりが、ごみびゃこにはいっちゃうの? ろーしちぇ、しょんにゃこちょに?」


 キラキラと妹語りを続けるキララだったが、にゃんごろーは“しり込み”の意味が分からなかったようで、不思議そうに首を傾げた。話の腰を折られてしまったキララだが、気を悪くしたりはせず、むしろ楽しそうに笑いながら、にゃんごろーの話に乗ってきた。


「やあねぇ! おしりをゴミ箱に突っ込んだりはしないわよ! それに、怖くて逃げてるんなら、おしりじゃなくて頭を突っ込むんじゃない?」

「ほぅほぅ。ごみびゃこを、おぼうしに…………。しょれは、おしゃれにゃの?」

「ふっ、ふふふふふふふ! ちがう、ちがう! 本当にゴミ箱を被ってるわけじゃないわよ! しり込みっていうのは、えーと、そう! 怖いから行きたくないって駄々をこねることよ!」

「あ、ああー! しょういうこちょらったんら! にゃるほろ、しりろみ。うみゅ、うみゅ。しょのきもち、わきゃる! にゃんごろーも、きけんにゃまみょのと、たちゃかえっちぇいわれちゃら、しりろみしちゃうみょん…………」


 にゃんごろーは、モフッと腕組みをして、「うんうん」と頷き出した。にゃんごろーも、しり込みは割と得意な方だ。本ネコーにも、一応その自覚があるようだ。

 キララの方は、にゃんごろーのしり込み癖の方はスルーして、にゃんごろーが覚えたばかりの『しり込み』という言葉を正しく使いこなしていることを褒め称えた。


「えー、すごい、すごい! さっきまで、ごみ箱をぼうしにするとか言っていたのに、ちゃんと使いこなしてるじゃない! 『しり込み』の使い方、ちゃんとあっているわよ?」

「え? しょ、しょう? にゃふふ。ありあちょう。キラリャのせちゅめーが、じょーじゅだかららよ」

「え? ほんと? え、えへへ。ありがとう」


 ふたりはお互いに褒め合って、照れ合った。

 子ネコー同士だからか、少々畏まっていたキララの口調も、段々と砕けたものになってきている。

 姉妹の話が出たので、にゃんごろーもにゃしろーのことを紹介することにした。ご本を読むのが好きな大人しい男の子ネコーだけれど、病気の療養のため、今は魔女の元に預けられていること。けれど、もうすぐ帰ってくるかもしれないことを伝えると、キララも喜んでくれた。


「よかったわね、にゃんごろー! いつか、四にんで会ってみたいわね!…………じゃない! にゃしろー君が帰ってきたら、ぜったいに四にんで会いましょ!」

「よにんで?」

「そう! 四にんで!」

「はわぁ……。こネコーが、よにんみょ、あちゅまりゅにゃんちぇ、しゅちぇき……」


 キララのキラキラと素敵すぎる提案を聞いて、にゃんごろーはお顔を「ほわわぁあん」とさせた。子ネコーが四人も集まるだなんて、夢のようだ。それに、確か。魔女のところには、もうひとり、男の子ネコーがいるはずだ。にゃしろーのお友達になった男の子ネコー。お名前は、確かルトといったはずだ。ルトも入れれば、子ネコーは五にん。にゃんんごろーの失われた兄弟の数と同じ、五にんになる。

 そう考えると、それだけで、嬉しくなってくる。


 子ネコーが五にん集まるという、ただそれだけで、嬉しくなってくる。


 にゃんごろーよりも先に、にゃしろーにお友達が出来たと知らされた時は、嬉しいような悔しいような寂しいような複雑な気持ちになったものだった。

 けれど、今は。本当に心から祝福できる。ふたりが友達になってくれたおかげで、五にんの子ネコーの会が結成できるかもしれないのだ。

 その子の勧誘はにゃしろーに任せるとして、まずはキララに新メンバー加入の許可を得ねばと意気込むにゃんごろーだったが、提案する前に出鼻をくじかれてしまった。

 キララがぽふっとお手々を合わせて、こんなことをお願いしてきたからだ。


「あ、でも! まずは、わたしとキラリとにゃんごろーの三にんからでも、いいかな? 知らない男の子ネコーふたりと一度に会うのは、キラリにはハードルが高すぎるかもしれないの! まずは、わたしとキラリとにゃんごろーの三にんで会うところからでも、いい?」

「う、みょ、みょちろん!」


 想定外の事態に言葉を詰まらせながらも、にゃんごろーは何とかうまく動揺を隠してお返事をした。気を取り直して、「四にんで会った後でいいから、もうひとり追加してもいい?」とお願いしようとしたのだが、今度も失敗した。

 横で話を聞いていたマグじーじから、「いただきますをしよう」という喜ばしいご提案を頂いたからだ。すぐに嬉しさでいっぱいになり、残念に思うことすらなく計画は一時中断してしまった。

 その後は、これまでのウダグダが嘘のように、スムーズにお昼ごはんへと移行していく。



 そんなこんなで、発案自体が宙ぶらりんとなった『五にんの子ネコー計画』。

 計画の始動は、もう少し未来のお話となる――――。



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