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第138話 涙注意報発令警報?

 サムライの苦悩が強制的に決着させられたのと、看板娘ネコーがポムッとお手々を叩いて「まずは、三にんで会ってみましょう」とお願いをしたのは、ほぼ同時だった。

 ニコニコデレデレと子ネコー同士のお話に耳を傾けていたマグじーじは、にゃんごろーがキララのお願いに応えたのを見届けると、にゃんごろーの肩を指の先でトントンと優しく叩いた。


「にゃんごろーとキララちゃんや。お話が盛り上がっているところ邪魔をしてすまなんだが、みんなお席に着いたからの。いただきますをしようかの」

「はーい!」

「はい!………………あ、え!?」


 待ち望んだ時間の到来を告げられて、キララとにゃんごろーは嬉しそうにお返事をしたが、にゃんごろーはその後なぜか、びっくりのお顔になった。びっくりくりに見開かれたお目目が見つめる先は、雲テーブルの上で出番を待っているスープとサラダだ。

 なぜ、にゃんごろーがびっくりしたのか分からなくて、マグじーじもびっくりのお顔になった。

 にゃんごろーは、スープとサラダを見つめたまま、呆然と呟いた。


「いたらきましゅをしゅるってこちょは、もしかしちぇ…………。おひりゅごはんは、これだけにゃの…………? こりぇが、おちょにゃのごはん…………。ちゅまり、おにゃかがしゅいちゅえるのを、がみゃんしちぇ、おしゃれにゃじかんを、ちゃのしむのが、おちょなだっちぇこちょにゃのか…………。はぅわぁぁぁあ。にゃ、にゃんちぇこちょら…………。にゃんごろーには、まりゃ、おちょにゃのおみしぇは、はやしゅぎちゃきゃもしれにゃい…………。これが、ニャポちゃんなんら…………」


 子ネコーの可愛い勘違いに、屍とサムライを除くテーブルのみんなは思わず吹き出した。吹き出しはしないものの、カザンもほんのりと口元に笑みを刻んでいる。屍は屍のままだった。

 けれど、のん気に笑っている場合ではなかった。

 子ネコーのお顔のお天気が怪しくなっていた。このままでは、涙注意報が発動されそうだったが、気配を鋭く察したマグじーじが、それを未然に防いでくれた。


「む、むふっ…………! ああ! いや、いや! 大丈夫じゃ! 勘違いをするでないぞ? ニャポリタ……んん、ニャポちゃんは、ちゃんと後から来るからの。安心するがよい」

「ふぇ…………? しょ、しょーにゃの?」



 にゃんごろーは、またマグじーじへとお顔を向けた。お目目をパチパチしている。にゃんごろーは首を傾げて、マグじーじに尋ねた。


「まだ、ニャポちゃんがきてにゃいのに、しゃきに、いたらきましゅを、しちぇもいいにょ?」

「うむ、いいんじゃ。食堂のごはんは、トレーの上に全部用意されたものが運ばれてくるんじゃが、お店によっては、順番にお料理が出てきたりするんじゃ」

「ほ、ほぅほぅ」

「その場合は、先に『いただきます』をしてもいいんじゃ。お店の込み具合にもよるが、ちょうどスープとサラダを食べ終わった頃合いに、次のお料理が運ばれてくるっちゅう寸法じゃ」

「ほほぅ。にゃるほろ」

「大体じゃ、これっぽっちのお料理で、腹を空かせた食いしん坊のルドルが満足できるはずがないじゃろう? カフェでお昼を食べるなんて言ったら、真っ先に反対されるわい」

「あ! ちゃ、ちゃしかに! しょれもしょうらねぇ」


 マグじーじの最後の言葉に、にゃんごろーは激しく納得した。まったくその通りだと頷きながら右隣を流し見て、呆れたお顔になった。

 屍長老は屍のまま、両方のお手々の肉球を合わせて、いつの間にか「いただきます」の準備を整えていた。みんなの話なんて聞いていないくせに、「いただきます」の気配だけは敏感に察知したようだ。

 にゃんごろーは、何かを諦めたお顔で前に向き直ると、自らもお手々を合わせて準備を整えた。


「うむ、では、合図はにゃんごろーにお願いしようかの。よいかな、キララちゃん?」

「もちろんです!」


 マグじーじは、それ以上長老の事には触れずに、にゃんごろーを「いただきます」係にご指名し、同じ子ネコーであるキララに了承を求める。

 キララはあっさりと快諾した。

 お姉さんらしく、にゃんごろーに大役を譲ってくれたのかもしれないし、そもそも「大役」とは思っていないのかも知れなかった。


「しょ、しょれれは、みにゃさん! おてての、にくきゅーとにくきゅーをあわしぇちぇくらしゃい!」

「はい!」


 にゃんごろーの要請に応えて、キララ元気よく肉球を合わせた。肉球のない人間たちも、手のひらを合わせていく。

 そろそろ、店内にはお昼を食べにやって来たクルーたちの姿がチラホラし始めたので、クロウは少々気恥ずかしく思っていたが、足並みを乱したりはしなかった。若干、頬を赤らめつつも素直に手を合わせている。

 子ネコーの期待に弾む声が、高らかに響いた。


「いたらきみゃ!」


 その声に覆いかぶせるように、いくつもの「いただきみゃ!」と「いただきます」が白雲テーブルの上で踊った。



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