大盛り・ちゃかり・一件落着の果てに。
一同は、ようやくニャポリタンにありつけることとなった。
「もう、いいから。冷めちまう前に、食おうぜ?」
というクロウの一声により、一部を除いて中断していた食事が再開される。
にゃんごろーは、フォークを手にわくわくとお皿を覗き込みつつも、給仕の最後に店員がテーブルの真ん中に置いていった二つのアイテムも気になっていた。
赤茶色の液体が入った小瓶と、白くて丸い蓋つきの小ぶりなツボ。蓋には小さな隙間があって銀色の柄が頭を出している。
興味津々でチラチラしていると、クロウが小瓶の方へ手を伸ばした。指の先で蓋の下あたりを摘まみ上げ、テーブルの上でフリフリしながらカザンに声をかける。
「カザン、タバスコ使う?」
「いや。私は、このままでいい」
「ふーん? あ、ちびたち、粉チーズ使うなら、先にどーぞ?」
「いえ! 初めてのお店では、まずは、そのままの味を味わうことにしているので! 後で使わせてもらいます!」
「なるほど? となると、にゃんごろーもだな?」
「う、うん! にゃんごろーみょ、しょーしゅる! まじゅは、しょのままのおあじを、ちゃしかめにゃいちょ!」
カザンの返事を聞いたクロウは、タバスコなる小瓶の蓋を開けながら、今度は子ネコーたちに尋ねた。キララがハキハキと答え、にゃんごろーもそれに続く。
初めてのお料理はまずはそのままで!――――というのは、にゃんごろーのお豆腐流儀でもあるからだ。異論はない。キララも同じ流儀と知って、ちょっと嬉しくなってもいた。
おそろいだね!――――と子ネコー同士の話に花を咲かせたいところだったが、今はそれよりも、気になることがあった。確認したいことがあった。
『タバスコって、何だろう?』
今は、そっちの方が気になった。おそろいよりも、気になった。
初めて耳にするお名前だった。
粉チーズも初めて聞くお名前だが、こちらは知っているお名前の組み合わせなので、想像がつく。チーズを粉状にしたものなのだろう。とても魅力的だ。心にもお腹にも訴えかけてくるお名前だ。
だが、タバスコとは?
お名前からは、まるで想像がつかない。
どうやら、液体のようではある。
でも、何から出来ているのか?
どんなお味なのか?
タバスコ同様、未知にして魅惑の食べ物であるニャポリタンと組み合わせることで、どんなお味のハーモニーを奏でるのか?
興味はつきない。
タバスコそのものの他にも、謎はあった。
なぜクロウは、カザンにはタバスコを使うか聞いたのに、にゃんごろーたちには聞かなかったのか?
大変、気になる。
お豆腐子ネコーとして、これはなんとしても確かめなくてはならない。
確かめなくてはならなかった。
「ねえ、クリョー。チャラシュコっちぇ、なあに?」
「ん? あー、これは、辛いヤツだ」
「あー……。からいやちゅかぁ」
「そ。おとなになったら、試してみな」
「しょーしゅるっ!」
興味津々かつ、神妙なお顔でにゃんごろーが尋ねると、クロウはニャポリタンにタバスコをビャビャビャッと振りかけながら答えてくれた。
辛いヤツと聞いて、にゃんごろーはあっさりと引き下がった。辛いのは、まだ苦手だからだ。そして、納得した。辛いヤツだから、子ネコーにはおススメしなかったのだと、ストンと納得した。
満足いくまでタバスコを振りかけたクロウは、次に粉チーズのツボへ手を伸ばした。ツボを手前まで運びながら、今度は粉チーズの説明を始める。
「粉チーズは、固いチーズをすりおろして粉みたいにしたヤツな」
「やはり、しょーらっちゃか」
「さすがに、こっちは、説明するまでもなかったか」
「うみゅ! れも、しゅりおろしゅのは、わからなかっちゃ!………………いっぱい、かけりゅんらね……?」
「ん? おー。いっぱいかけるのが、好きなんだよ」
クロウは蓋を取り外すと、備え付けの銀の匙を利き手に持った。反対の手でツボを持ち上げ、大きなニャポリタン山の上に、サカサカザカザカと粉チーズの雪を降らせていく。
楽しそうな鼻歌が聞こえてきた。歌っているのはクロウだが、どうやら無意識のようだ。にゃんごろーみを感じさせる嬉しそうな顔で、粉チーズ雪を降らせまくるクロウ。
お皿の上の大盛りニャポリタンは、あっという間に粉チーズの雪山に早変わりした。
その間。
キララとミフネはフォークをスタンバイしたものの、笑いを堪えるのに必死で、ニャポリタンに手を付けられずにいた。
マグじーじと長老は、取り込み中だ。
カザンは、分かるものには分かる程度に目を細めてにゃんごろーを見つめている。
そして、サムライの視線の先で、にゃんごろーは――――。
ハラハラと心配そうなお顔で、クロウの粉チーズ雪山作成を見守っていた