にゃんごろーは、キリリとお顔を引き締めたのち、パカリとお口を大きく開けた。
フォークに巻き付けるニャポリタンの量をはかるためだ。
なるべく、たくさんお口に入れたい。
でも、巻き巻きをしすぎてお口につっかえるなんて論外だ。お口の周りが夕日に染まってしまう。そんな子ネコーっぽいことは、したくない。
だからと言って、お口の中に入り切ればいいというもわけではない。モガモガするのはみっともないし、フガッとのどに詰まらせてしまうなんて、絶対にごめんだ。
お上品に見える最大巻き巻き量を割り出さねばならない。
上品さと、はしたなさのギリギリのラインを割り出すために、参考とすべくパッカリさせたお口だった。
決して、巻き巻きが終わるまで待ちきれなくてのパッカリ待機ではない。
ギリギリさを見極めるための、崇高なパッカリなのだ。
至高の巻き巻き加減を見出すためのお口パッカリを目撃して、お口に含んだニャポリタンを吹き出しかけたものがいた。
元祖端っこマスターのクロウだ。
「んっ、んぅっ、み、水…………っ!」
「クロウよ。お行儀が悪いのではないか?」
「あらあら、大変。大丈夫かしら?」
「しっかりー。傷は浅いですよー?」
水を求めてもがき苦しむ声も、それを窘める声も、ほんのり心配する声も、面白がっている声も、パッカリお口で真剣に命題に取り組んでいるにゃんごろーのお耳には届かなかった。声はすべて、もふ毛の上をスルスルと滑るように流れ、通り過ぎていく。
その見事な集中の甲斐あって。
試行錯誤の末、ついに会心の巻き巻きが完成した。
お豆腐なお腹は、その一口が待ちきれないと盛大に太鼓を鳴らしたが、にゃんごろーは冷静さを手放したりしなかった。焦って、巻き巻きフォークをお口に突撃させたりしなかった。
さっき見た、キララの上品さと長老の無作法ぶりが、にゃんごろーの理性を支えてくれたからだ。
ああなりたい。
ああなりたくない。
その両方が、具体的に浮かんでくるからこその理性の働きだった。
逸る気持ちと腹を押さえ、にゃんごろーはゆっくりと巻き巻きをお口に運ぶ。
さっき見た、キララの食べ方を意識していた。
キララのように、優雅に、上品に見えるように心がける。
パッカリしたままのお口が、せっかくの心がけを台無しにしてしまっていることには気づいていなかった。お口の中に溜まっている涎が、台無し感に一役買っている。お口の外へ零れ落ちてはいないので、ギリギリセーフといえないこともなかった。
にゃんごろーは、キララのように出来ているつもりで、会心の巻き巻きを涎の海に沈めていく。
巻き巻きを沈めたせいで、お口から海が溢れそうになったけれど、ギリギリスレスレのところでパクンが間に合った。
「ん! んぅー! んっ、んっ、んっ!」
美味しい喜びに、子ネコーのお目目が滲んでいく。お口の中の海が、お目目から溢れ出しそうになった。
涎の海を喉の奥へ押しやって、にゃんごろーはお口を動かし、初めてのニャポリタンを味わっていく。
お口を動かすリズムに合わせて、フォークを持っていない方のお手々が、わきわきと踊った。叫びこそしなかったものの、歓喜の声が漏れだすのを止めることは出来なかった。
ニャポリタンの一口は、お豆腐子ネコーの心とお口を満足させてくれたようだ。
最初の一口を存分に味わい、飲み下し、お腹の中に収めると、子ネコーはもふ毛を震わせた。ふるっふるっに震わせた。
もふもふをふるっふるっにさせてから、にゃんごろーはお顔を上に向けて、一声鳴いた。
「にゃぁあ~~~…………」
喜びを全力で表現した目目が、涙で滲んでいる。
もふ毛に負けないくらい、歓喜の声も震えていた。
それは、お豆腐子ネコー・にゃんごろーによる、魂の一鳴き。
お豆腐魂の一鳴きだった。