夢中で巻き巻きパクリを繰り返していたにゃんごろーだったが、ある程度腹ペコのお腹が落ち着いてきたところで、「ふぅむ」と首を傾げた。
「こにょにゃかに、トマトが、いるきがしゅる。ほんにょりちょ、トマトにょ、んーちょ、しょー! トマトにょ、けはいがしゅる」
「うふふ。それはそうよ。ニャポリタンはね、トマトのケチャップで味付けをしているのよ」
「ケチャのプー!」
「そうそう。それに、ここのは、マスターの自家製ケチャップなんだぜー?」
「じきゃ……?」
ニャポリタンの中にトマトの気配を感じ取った敏感子ネコーは、自家製の意味が分からなかったようで、発言者であるクロウに向かってお目目をパチクリさせた。
「あー、自家製っていうのはだな。市販品……んー、お店で売ってるケチャップじゃなくて、青猫カフェのマスターが手作りしたケチャップってことだ」
「ほうほう、てじゅくりのケチャプー。んー、よきゅ、わからにゃいけりょ、マシュターはしゅごいっちぇこちょ?」
「んー、まあ、そうだな。マスターはすごいってことだ」
「ケチャプーのマシュター!」
「え? いや? マスターってのは、そういう意味じゃ…………いや、でもある意味そうなのか?」
「青猫カフェのマスターは、お店のマスターにしてケチャプーマスターというわけですね」
お豆腐会長と副会長の会話をミフネが締めくくり、また新たなにゃんごろー語が生まれた。
にゃんごろーは、新たなにゃんごろー語にさらなる改良を加え、巻き巻きしたニャポリタンをしげしげと眺めた。
「トマケチャぷぅきゃ……。うみゅ。れは、あらちゃめちぇ……」
「ト、トマケチャぷぅ…………。なんだろう? なんか調味料っぽくなくなったんだが?」
「うふふ。絵本に出てくる呪文みたいね?」
「子ネコー呪文というわけか……」
「いえいえー。どんな食べ物もおいしくしてくれる、お豆腐呪文ではないですか?」
外野のざわめきをもふ毛の上に滑らせて、にゃんごろーは真摯にニャポリタンと向き合い、トマケチャぷぅを感じるべく、お目目を閉じてゆっくりと味わった。
「…………ふぅみゅ。あさたべちゃ、オムレチュのケチャぷぅとは、ひとあじ、ちがうようにゃ……? じかしぇーの、ケチャぷぅだかりゃ……?」
トマケチャぷぅ味をじっくりと確かめ飲み下すと、にゃんごろーはお目目を開けてお首を捻った。
朝のケチャップとは、ひと味違っていたからだ。
そうして、改めてニャポリタンを見下ろすことで、もう一つ発見があった。
「ふみゅ、ふみゅ? あおじだけりゃなくちぇ、おいろもちがう。あしゃのは、すこーし、くりゃいかんじの、
食堂のケチャップとカフェのケチャップでは、味だけでなく、色味も違っていることに気づいたのだ。
少し暗い赤と、オレンジ色の強い赤。
これは一体どうしたことかと、にゃんごろーは右へ左へとリズミカルに首を傾げた。真剣なお顔の子ネコーメトロノームの完成だ。お豆腐研究に余念がない会長の姿に吹き出しながらも、クロウは副会長として補佐役を立派に果たした。ちなみに、クロウ本人にはその自覚はない。
「ふ、ふはっ。た、多分だけどっ。味と色が違うのは、炒めたからじゃね?」
「いちゃ……?」
「あー、焼いた?」
「ほ、ほほう? やいたケチャぷぅりゃから、あおじと、おいりょが、ちがうのきゃ!」
「そうそう、多分だけど」
「ふぅむ。おにきゅや、おしゃかにゃも、やくちょ、いろが、きゃわりゅもんねぇ。にゃるほろ、にゃるほろ。おあじも、やいちゃかりゃ、しょのままのちょは、ちがうのきゃぁ。うみゅ! べんきょーになっちゃ! じょしゅ、でかしちゃ!」
「…………そうか。よかったな」
お豆腐研究に集中するあまり、お豆腐の会結成の件をまるっと聞いていなかったにゃんごろーは、よい勉強になったとクロウお豆腐助手を褒め称えた。
副会長にしろ、助手にしろ、どちらにせよ不本意なクロウは、「少し気をきかせると、全部、徒となって帰ってくるな」などと思いながら、力なく返事をした。
にゃんごろーは、元気をなくした助手の様子に気づくことなく「にゃふぅ」と感嘆のため息をもらした。
「しょのままで、たべちぇもおいしい。トマケチャぷぅにしちぇも、おいしい。しょれを、やいちぇも、おいしい。ちゅまり…………」
陶酔のお顔で誰にともなく語っていたにゃんごろーは、そこで言葉を止めた。十分にためてから、お豆腐会長は結論を述べた。
「トマトは、しゅばらしいたべもにょでありゅ! にゃふっ♪」
本日のお言葉を力いっぱい宣言すると、にゃんごろーは再びお豆腐活動に専念するのであった。