半分残ったニャポリタン山に、お豆腐頭脳で導き出したちょうどよいあんばいの粉チーズ雪を降り積もらせると、お豆腐冬将軍は満足そうに笑った。
そして、迷いのない“もふ手”さばきでフォークを操り、粉チーズ雪とニャポ山を混ぜ合わせていく。お山が半分だったことが功を奏した。お皿をゆったりと使えることで、零したりせずに、上手に混ぜ合わせることが出来たのだ。
ニャポリタンも粉チーズもお皿から零したりはしなかったけれど、「にゃふふ」と嬉しそうな笑みが、お口の端から零れだしてはいた。
実に楽しそうで、嬉しそうなご様子だ。
眺めている面々の顔にも、ついつい笑みが浮かんでしまう。
幸せの伝道師となったお豆腐子ネコーは、満を持して、“フォークにニャポをクルクル”の儀式を始めた。もう、すっかりコツを掴んだようで、お口にピッタリの程よい加減の巻き巻きが、難なく完成した。
出来上がったばかりの巻き巻きをお口へ運ぶ子ネコーのお目目に不安の影は一つもない。
お豆腐頭脳により導き出した結論に間違いがないと確信しているのだ。
約束された幸せを味わうべく、あんぐりパクンと粉チーズをまぶしたニャポリタンをお口へ迎え入れ、スッとフォークを抜き取る。
「んぅ~~~っっっ!♪!♪」
子ネコーは、目を細めて身悶えた。
お豆腐計算に間違いはなかったのだ。
たった二回のお試しで、見事最適解を導き出してしまうとは、さすがはお豆腐会長。その実力に間違いはないようだ。
「こにゃチーリュはぁ、かけりゅべきぃ~~~……!」
最高の味を心行くまで味わい、お腹に流し込むと、お豆腐会長はうっとりと天井を見上げて震える声で結論を述べた。
「そんなに……なのか?」
「うん…………。しょんにゃに」
ニャポリタンには何もかけない派のカザンが、粉チーズの入ったツボをチラチラ見ながら尋ねると、お豆腐子ネコーはうっとりとしたお顔のまま頷いた。それから、カザンとは反対側に置いてあったツボを両手で持ち上げて、カザン側に置きかえる。クロウに「使うか?」と聞かれたカザンが「使わない」と答えていたことを、ちゃんと覚えていたのだ。
にゃんごろーにおすすめされて興味を持ちつつも、カザンには、まだ葛藤があるようだった。独特な香りに、苦手意識を持っているのかもしれない。
にゃんごろーは、カザンが粉チーズを使いやすいようにしてあげたけれど、無理にすすめたりはしなかった。
その代わりに、熱い口調で語りだした。
「もちろん、ニャポちゃんは、しょのままれも、おいしい! れも、いみゃおもうちょ、しょれは、よそいきにょ、おいししゃらった。こにょ、ほしょながいにょ……」
「その細長いのは、パスタ。麺類の一種で、あー、要するにうどんの仲間だ」
「ほ、ほほぅ! にゃるほろ! このほしょにゃがいにょは、パシュチャー! めんりゅーで、うりょんの、おなかみゃ! おぼえちゃ!」
パスタが分からずに言い淀んだ子ネコーにクロウが適切ならぬ適当な助け舟を出すと、お豆腐子ネコーは即座に反応し、新しい情報をお豆腐頭脳にインプットしていく。そのまま脱線するかと思われたが、お豆腐子ネコーは粉チーズの布教を忘れてはいなかったようだ。すぐさま、演説を再開した。
「こにゃチーリュのにゃい、ニャポちゃんは、パスチャと、おやしゃいと、きのこと、ウイーンニャ♪――――が、まりゃ、よしょいきらっちゃ! であっちゃばかりのときの、なかよしにゃかんじ!」
「ふむ?」
「く、ふふ。ウインニャの時だけ、語尾が弾んでるんだが……っ。えーと、それで。粉チーズのないニャポリタンは、パスタと具材がまだ余所行きで、出会ったばかりの仲良しさ加減? あー、つまり、美味いけど、少し味が尖ってる、具材との一体感に欠ける…………って言いたいのか?」
にゃんごろー語全開の食レポを兼ねた演説を聞いて、カザンは「どういうことか?」と首を傾げたが、クロウは誰に頼まれたわけでもないのに解読と解説に身を乗り出した。散々否定し続けたくせに、意識せずともお豆腐助手(あるいは副会長)としての役割を果たしていることに、クロウ本人は気づいていない。
その事実に、ばっちり気づいてしまったキラキラ組は、クロウとにゃんごろーを見比べ面白そうに含み笑うと、目配せを交わし合った。ここでそれを指摘しては解説が終了してしまうかもしれないので、大人しく聞いていましょうの目配せだ。
その頃。マグじーじは、せっかくの演説を聞き逃していた。ニャポリタンを食べ終わった長老が、本物の猫さながら、意地汚く空になったお皿を舐めようとしているのをさすがに止めつつ、店員に「早く空の皿を回収してくれ」と目配せを送るのに忙しかったからだ。
そして、そんな諸々には、一切お構いなく。
にゃんごろーの演説は、まだまだ続いた。