キララ会員が、もふっとしたお手々をスッと上げた。
会長への説明は、わたしに任せての合図だ。
ミフネ会員は、「お任せする」というように頷いた。クロウ副会長は、それどころではないようだ。お豆腐ミッションの当事者であるカザン会員は、じっと巻き巻きを見つめている。にゃんごろーは、挙手をしたキララに分かっていないお顔を向けた。マグじーじは、ほっこり顔で子ネコーたちを見守っている。長老は夢の中だった。
ミフネ会員からの賛同を得たことと、にゃんごろー会長の注意を引けたことを確認すると、キララはお手々を下して口を開いた。
「にゃんごろー、あのね」
「うみゅ?」
にゃんごろーとお目目を合わせて、キララは話を始めた。そのお目目は、全身を飾り立てているアクセサリーにも負けないくらいにワクワクキラキラと輝いていた。アクセサリーのように、光を照り返しているのではない。お目目そのものが輝いているのだ。
キララは張り切っていた。
お豆腐の会ごっこが、より一層楽しい方へ向かって行きそうな気配を感じて、気分が高揚していた。お豆腐会員として、もっともっと、お豆腐ごっこを楽しくしようと意気込んでいた。
「カザン会員はね、少し前までのにゃんごろーと一緒で、粉チーズが苦手みたいなの!」
「んにゃ? しょーらっちゃの?」
にゃんごろーのお目目が、カザン会員の粉チーズがまぶされた巻き巻きニャポリタンに注がれた。お目目をパチパチしながら、カザンの行動を思い返す。半分ほど残ったニャポリタンの端っこに粉チーズをほんの適量かけてから、フォークに巻き巻きしたところを思い出して、理解した。それは、つい先ほどにゃんごろーがやったことと、まったく同じことだったからだ。
カザンは、苦手に思っていた粉チーズと仲良くなろうとしているのだと、そこまでは理解した。
「にゃるほろ、ニャニャンしゃんも、こにゃチーリュと、にゃかよしに、なりちゃいんらね?」
「そう、そう! そういうことなの!」
「ふみゅ」
「でもね、カザン会員はね! 粉チーズをふりかけて、フォークに巻き巻きしたまでは良かったんだけど、そこまでやっておきながら、最後の最後! お口にパックンする勇気が出ないみたいなの!」
「ほぅほぅ、にゃるほろ」
「……………………っ」
キラキラ子ネコーは、容赦なくハキハキと切り込んできた。出来れば認めたくない、何とか取り繕おうとしていた事実を突きつけられて、カザンはフォークの先の巻き巻きをピクリと小さく震わせた。
表情を変えないまま、巻き巻きだけで動揺を伝えるカザンが可笑しくて、クロウは限界を訴える腹筋にさらなる無理を強いた。
カザンの動揺に気づかなかったミフネは、黙って成り行きを見守っていた。キララが言ったことには全面肯定なのだが、キララの発言は包み隠さずストレートすぎた。そのせいで、カザンが気分を害する素振りを見せればすぐさまフォローをするつもりだった。けれど、そんな気配は感じ取れないし、カザンが何を考えているのか分からなかったため、一旦スルーを決め込むことにしたのだ。短い付き合いとはいえ、カザンが大のネコー好きであることは感じ取っていたし、子ネコーに構われて喜んでいるのならば、余計な口出しは水を差すことになる……などと考えたせいもあった。初対面の相手への、キララの遠慮のない物言いについては後で注意しておくとして、この場はひとまず傍観者に徹することにしたのだ。商売人らしく常に笑顔を絶やさないミフネは、優しさと常識と茶目っ気の度合いが、若干長老よりのようである。
そんな同行者の思惑など知らず、キララは全力でお豆腐ごっこを楽しんでいた。
喋っている内に段々興奮してきたキララは、キラキラを振りまきながら、にゃんごろーに向かってポフ、とお手々を合わせた。
「だから、ね。にゃんごろー会長に、お願いがあるの!」
「なあに、キララ?」
「勇気が出なくて、粉チーズチャレンジが出来ないでいるカザン会員のことを、応えんしてあげて欲しいの!」
「にゃんごろーが、ニャニャンしゃんを、おーえん?」
「そう! にゃんごろー会長が応えんしてくれたら、きっとカザン会員も勇気を出して、粉チーズと仲良しになれると思うの!」
キララのキラキラが弾けた。
お豆腐会員として、会の仲間であるカザンのお豆腐ミッションを成功に導くお手伝いをするという役どころに、酔いしれていた。そのために、お豆腐会長へ応援を依頼するというのは、とてもいいアイデアだと自画自賛していた。会長の応援でミッションが成功するなんて、とっても素敵なイベントではないか。ミッション成功後、みんなでカザン会員に祝福の拍手を贈るシーンを想像すると、気持ちが昂って身震いしそうだ。
キララは、弾けるようなキラキラをにゃんごろーに向けた。
カザン会員の勇気を引き出すような、お豆腐会長のお豆腐名言を期待しているのだ。
お豆腐ごっこに興じるあまり、肝心のお豆腐の会のことと、にゃんごろーがお豆腐会長であることを伝え忘れていることには気づいていなかった。
もっとも、にゃんごろーはにゃんごろーで、会長呼ばわりされたことは、スルンと聞き流しているので、とりあえずのところは問題なかった。
「にゃんごろーのおーえんで、ニャニャンしゃんが、こにゃチーリュと、にゃかよしになりゅ…………。しょれは、ちょっちぇも、しゅちぇきらねぇ」
お姉さん子ネコーの期待を一身に浴びて、にゃんごろーも満更ではないようだった。すっかりその気になって、応援の言葉を考えながら、カザンへとお顔を向ける。
カザンは、巻き巻きフォークを握りしめたまま、無言で固まっていた。
にゃんごろーは、お目目をパチパチしながらカザンを見つめ、お首をそっと横に傾げた。