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第172話 疑問符とダンスパーティー

 副会長と会員たちが、疑問符とダンスを踊っている中。

 お豆腐会長だけが、小さな体をもふもふとせわしなく動かしながら、落ち込んでいるカザンを慰めようと奮闘していた。


「げ、げんきだしちぇ、ニャニャンしゃん! しゅぐに、にゃかよしににゃれるちょきもあれば、ゆっくりとじかんをかけにゃいちょ、にゃかよくにゃれにゃい、ちょきもありゅ! らいじょーぶ! にゃかよしへにょ、いっぽは、あしがでちゃ! ニャニャンしゃんは、がんばっちゃ!」

「えー……と? すぐに仲良くなれる時もあれば、時間をかけないと仲良くなれないこともある。まあ、苦手なものを克服するのって、そう簡単にはいかないよな。んで、仲良しへの一歩は…………足が出た? ん?…………あー、仲良しへの一歩は踏み出したって言いたいのか」

「しょー!」 

「違うんだ、にゃんごろー。私は、頑張ってなどないのだ…………! 私は、私は…………!」


 一人だけ疑問符を放り出して、副会長はすぐに分かる簡単な謎へ手を出した。すっかりお手の物となった、にゃんごろー会長の会長語の解読兼通訳に身を乗り出したのだ。解読兼通訳はうまくいったが、にゃんごろー会長のお言葉もサムライの胸には届かないようで、サムライ問題の方は解決しなかった。

 カザンが何を苦悩しているのか分からなくて、キラキラ会員たちの疑問符ダンスパーティーは大盛況だ。ビートが激しさを増していく。

 一度疑問符を手放したクロウも「ふむ?」と首を傾げた。

 うまく言葉を届けることが出来なかったにゃんごろーは、小さな体をもふもふと揺らしながら焦れて叫んだ。


「みょー! ニャニャンしゃんは、ちゃんと、『こにゃチーリュしゃん、こんにちは!』にょ、パクンをしちぇ、がんらっちゃれしょ!」

「違う! 違うんだ、にゃんごろー。私は、私は……逃げ出したんだ…………。私は、臆病者だ…………!」


 にゃんごろーは、もふもふしながら「頑張った自分を認めてあげて!」と一生懸命訴えた。けれど、その言葉すら届かないのか、カザンは項垂れたままだった。ただひたすらに、にゃんごろーの言葉を「違う」と否定し、さらには「逃げ出した」、「臆病者だ」と主張する始末。

 困り果てたにゃんごろーは、「うみゅぅー」と小さく唸った。

 マグじーじはオロオロしつつも「困っているにゃんごろーも、可愛いのぅ」などと思っていた。長老は、美味しい夢でも見ているのか、オレンジに汚したお口の周りを涎で洗浄中だ。

 キラキラ会員たちは、疑問符を大量放出中だった。手に手を取り合って踊っていた疑問符たちは、テーブルの上に解き放たれ、仲間たちと共に歌い踊っている。テーブルの上は今や、疑問符たちのダンスパーティー会場だった。只今、絶賛開催中だ。


「まあ、ミッションに失敗したのは間違いないんだろうけど。それにしても、たった一口フラれたくらいで、この有様なのが意味不明なんだよなー」


 ポツリと零れ出たクロウの言葉に、キラキラ会員たちは「うんうん」と頷いた。にゃんごろーもクロウを見て「うみゅぅ」と頷いている。


「にゃんごろー会長だって、一口目ではうまくいかなかったものねぇ。大成功したのは、三口目で、でしょ?」

「そうなんですよねぇ。カザン会員が『一口でミッションを成功させて、会長を超えてやるぜ!』と宣言していたならば、この時点で大失敗の負け確定ですし、この意味不明な落ち込みぶりも理解できるんですけどねぇ」

「いや、ちびネコーを越えようとか、微塵も思ってねぇだろ。どっちかってーと、ちびネコーの後を追いかけて、同じことをするのを楽しんでる感じだろ?」

「そうなのよねぇ」

「どういうことなんでしょうねぇ」


 クロウに釣られたのか、キラキラ会員たちも謎を解明しようと疑問をぶちまけ始めた。カザンの目の前ではあるが、謎の解明の方が気になるのか、特に声を抑える素振りはない。本人にも丸聞こえだった。

 カザンは肯定も否定もせず、かといって話を止めさせようともしなかった。ただ黙って話しを聞いている。サムライが何を思っているのかは、傍からは窺い知れなかった。

 にゃんごろーは「うみゅぅ」のお顔のまま、みんなのお話を聞いていた。話の内容についていけているのかどうか、こちらも見た目からは窺い知れない。

 どこからも横やりが入らないのをいいことに、議論は白熱していった。


「一口で懲りてしまって、次のチャンレンジへの闘志を失ってしまったということですかねぇ?」

「うーん。でも、次のチャレンジから逃げ出した臆病者ってカンジじゃない気がするのよねぇ」

「あー、確かに。一口目のチャレンジの結果そのものを悔やんでるってーか…………あ。俺、分かっちまったかも」

「え? それは、本当ですか!?」

「知りたい! 教えて!」


 そして、ついに。

 会話から閃きを得たのか、クロウが瞳を閃かせた。

 好奇心を抑えきれずに、キララは三毛柄のもふ顔をずいっとクロウに近づけて真相を強請った。

 クロウは迫りくるキララではなく、キララに迫られているクロウ見て羨ましさを滲ませるカザンに向かって、その閃きを放った。


「カザン、おまえ、さ。敵前逃亡しちまったんだろ?」

「……………………っ」


 クロウは、思いついた考えを遠慮なく先輩クルーに突きつけた。

 会長と会員たちが、新たな疑問符を巻き散らした。クロウ副会長は得意げな顔をしているが、何を言っているのかサッパリ分からなかったからだ。

 けれど、突きつけられた先輩クルーには意味が通じたようだ。

 カザンは否定も肯定もしなかったが、代わりに小さく肩を揺らして、息を呑んだのだ。

 外野たちには何が何だかサッパリ祭だったが、とりあえず。


 どうやら、図星のようだった。


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