キラキラ会員たちの視線が、ザっと副会長へ飛んだ。
会長を補佐するのは副会長の役目だよね…………というよりは、面倒くさいから後は任せた…………という視線だ。視線に込められた意味を正確に読み取った副会長は、非難を混ぜた半眼で、ふたりを見返した。もちろん、それに怯むようなキラキラふたり組ではない。キラキラたちは、クロウの半眼を真っすぐ見つめ返しながら、瞳に圧をかけた。「いいから、早くしろ」の圧だ。「副会長だなんだと言いながら、実は俺のこと、ナメてないか?」という考えが浮かできて、「むぐ」と眉間にしわを寄せつつも、クロウは折れた。
反論を諦めた副会長は「仕方ねぇな」のため息を漏らすと、会長の「ほにゃ」顔へと向き直った。
こうして、にゃんごろーお豆腐会長への説明役は、キラキラたちの思惑通り、クロウ副会長に一任されることになった。
見事、役目を押し付けることに成功したふたりは、するっと観劇モードに移行した。会員として成り行きを見守るのではなく、観客としてお豆腐劇場を楽しむつもりなのだ。
キラキラたちのモード変更を気配で感じとったクロウは、「こいつら……」という顔で軽くふたりを睨みつけ、最終の諦めため息を吐いてから、会長と向き合う。
もふっとしたほにゃ顔を見つめ、一拍置いてから、クロウ副会長は役目を果たすために口を開いた。
「あー、えっと、だからな? つまり、あれだ。カザンは、粉チーズに一口チャレンジしてみたけど、やっぱり美味しくなかった、とても仲良くなれそうもない…………とか、そういうことで落ち込んでいるんじゃなくて、な? んーと、そもそも? その、心を無にして…………つまり、味を感じないようにして、食っちまったんだよ」
「ほぅほぅ…………?」
クロウとしては“ほにゃほにゃ”子ネコー用に大分噛み砕いたつもりだったのだが、まだまだ砕き方が甘かったようだ。にゃんごろーは、頷いてはいるものの、“ほにゃ”が抜けきらないお顔をしている。「しょれは、ちゅまり、どーゆーこちょ?」という心の声が聞こえてくるようなお顔だ。
クロウ副会長は、手強い“ほにゃほにゃ”に匙を投げたりはしなかった。むしろかえって火が着いたようで、真剣な顔つきで“ほにゃ”用の説明を考え始める。
そうして考えた末、噛み砕いた内容に子ネコー向けのアレンジを加えてみることにした。
「えーと、つまり、だ。カザンはな、粉チーズに『こんにちは』をしようとしたんだけど、最後の最後でやっぱり勇気が出せなかったんだよ。で、『こんにちは』をしないまま、粉チーズの横を素通り…………あー、何にも言わないまま、粉チーズの横を通り過ぎちまったんだよ。つまり、カザンと粉チーズは、知らない人同士のままだってことだ」
「な、なるほりょ! しょーゆーこちょらっちゃのか!」
クロウのアレンジは、にゃんごろーの“ほにゃほにゃ”に絶大な効果を発揮した。
アレンジ話をしているクロウ本人は、話している内に、本当にこれで通じるのか不安になってきていたが、何やら効果は絶大だった。
ピシャーンっと高次元の存在から啓示を受けたようなお顔で「なるほりょ、なるほりょ。しょーゆうこちょらっちゃのか」と繰り返すにゃんごろーのお顔には、“ほにゃほにゃ”したところは微塵も残っていなかった。
何をどう理解したのかは不明だが、とにかく何かを理解して納得したようだ。
にゃんごろーは「ふむ」と腕組みをして、何事かを考え始めた。
何を考えているのかは分からない。けれど、とても真剣なもふ顔だ。
副会長としての役目を果たし終えたクロウは、一体何を考えているのかと興味深そうに会長を見つめた。
キラキラ観客たちは、もしかしたらまた新しいお豆腐名言が飛び出すのではという期待に身を乗り出している。キラキラ子ネコーだけでなく、保護者役の方の瞳も好奇心に輝いていた。
そして、ついに。
新しい舞台の幕が開いた。
考えがまとまったのだろう。
にゃんごろーお豆腐会長は、項垂れているカザンの腕にポムとお手々を置いて、優しく語りかけた。