振り上げたお手々をグルングルンに回しながら、お豆腐会長は副会長とキラキラ会員を𠮟りつけた。にゃんごろーは精一杯のしかめっ面で、副会長から順番に、もふビシッ、もふビシッ、もふビシッと肉球を突きつけていく。
「みょー! みんにゃ、ニャニャンしゃんに、にゃにをいっちゃのー!? ニャニャンしゃんは、がんばっちゃんらから、いりめちゃら、らめれしょー! めっ! めっ! めっ!」
「くぅうう。なんと、羨ましい! ワシも、にゃんごろーに叱られてみたいのぅ~」
会長の可愛さいっぱい威厳ゼロのお叱りが誰よりも響いたのは、会員たちでなくマグじーじだった。マグじーじは、ハンカチを噛みちぎりそうな素振りで身をよじり、悶えている。
にゃんごろー会長のお𠮟りを受けている間は、少し遊びすぎてしまったかと気まずそうな顔をしていた三にんは、苦笑いと共に明後日の方向へ視線を逸らした。
お叱りの真っ最中は、お豆腐劇場的に軽く謝罪をして場を治めようかと考えていたのだが、何となくもうそんな雰囲気ではなくなってしまったからだ。
とりあえず、今はにゃんごろーの出方を窺うことにした。視線はそらしたままだけれど、耳は澄ませて、会長の次なるお言葉を待つ。
にゃんごろー会長は、みんなに「めっ!」をしただけで気が済んだようだ。特に、みんなからの謝罪は求めていないようで、今度はカザンに向き直って、肉球のお手々でカザンの腕をポンポンしながら、カザン会員に言葉をかけた。
「ニャニャンしゃんも! こにゃチーリュちょ『こんにちは』は、まちゃこんど、ちょーしぇんしゅれば、いーれしょ! いみゃは、のこっちぇるナポちゃんを、おいしきゅたべちぇ、もっちょいっぱい、なかよきゅにゃれば、しょれで、いい!」
「…………分かった。そうしよう」
今度こそ、カザンも素直に頷き、フォークに手を伸ばした。
まだ思うところはあるようだが、それらを呑み込み、今はニャポリタンを味わうことに集中し、次々と飲み下していく。
皿は、あっという間に空っぽになった。
フォークを置き、口元を拭うと、カザンは手を合わせて頭を下げた。
「ごちそーしゃーみゃーしゃー」
神妙な顔つきで、にゃんごろー流の『ごちそうさま』をするサムライが可笑しくて、クロウだけでなく、キラキラ会員たちも思わず吹き出した。サムライは笑われたことを気にすることなく、厳粛な雰囲気を醸し出しながら感想を述べた。
「大変、美味であった。青空カフェのニャポリタンは、冷めても美味しいのだな。にゃんごろーのおかげで、新しいお豆腐的発見があった。ありがとう、にゃんごろー」
「にゃふふ。ろーいちゃしましちぇ!」
「だが、粉チーズへの挑戦も、諦めたわけではない。にゃんごろー、私は、お豆腐会員としてお豆腐修行に励み、いずれ必ず、粉チーズと『こんにちは』をして『仲良し』になることを、ここに誓う」
「おとーふしゅぎょー! しゅごい! しゅてき! にゃんごろー、おーえんしゅるね!」
キリリとした眼差しで“お豆腐修行”を誓うカザン会員を、にゃんごろー会長はポムポムと肉球拍手で称えた。すかさず、キラキラ会員たちが追従拍手をする。残念ながら、クロウ副会長は腹筋への出動要請と脇腹をつねるのに忙しいらしく、“称える会”に参加することはできなかった。
「お、おまえらっ……、おれの……腹筋に……なんの……恨みが……っ!」
「みな、ありがとう」
苦しい息の元、切れ切れに漏れ落ちたクロウの呻き声は、カザンの張りのある声に掻き消された。
すっかり立ち直ったカザンの顔を見上げて、にゃんごろーは「にゃふっ」と笑って、もふっと片腕を突き出すと、締めのお言葉…………と思われるようなことを言った。
「これにちぇー、おちゃ!」
「んん? これにて、おちゃ?」
「お茶、ですか?」
肉球拍手と拍手と、笑いの発作が止まった。
マグじーじとカザンは、発言の内容はどうでもいいようで、眩しそうな顔でにゃんごろーを見つめていた。
キラキラ会員たちは、不思議そうに首を傾げてから、クロウ副会長に視線を投げる。『どういう意味?』という視線だ。
不思議なお言葉のおかげで発作が治まった副会長は、俯いた姿勢のまま固まっていたが、突然ハッと顔を上げて、両手を打ち鳴らした。
「一件落着か!」
「それよ!」
「ああ、なるほど。お豆腐的なオチがつきましたね。さすがは、お豆腐会長と副会長です」
お豆腐会長のお豆腐名言と、副会長の補佐ぶりを褒め称えて、キラキラ会員たちが肉球拍手と拍手を再開した。今度は、マグじーじとカザン会員も手を叩き始める。二人の拍手は、にゃんごろーだけに向けられたものだったが、とにもかくにも。
テーブルに盛大な拍手が巻き起こり、お豆腐劇場は『これにて、一件落着』と相成った。