目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第194話 午後の予定を発表します!

『お仕事やお手伝いをがんばった人とネコーをキラキラ・ランチ会にご招待します!』


 ――――という、特典の威力は絶大だった。


 ミフネが抱える大荷物――――本日のお弁当に心を奪われて、にゃんごろーよりもずっとずっと小さな子ネコーのようにミフネの周りをウロウロしていた長老は、特典の魅力に一本釣りされて、おとなとしての務めを思い出した。実際には、食いしん坊魂を刺激されただけだが、その結果として、ちゃんと役目を思い出した。

 子ネコーからおとなネコーに戻った長老は、シュバッと素早い動きで、司会進行役のマグじーじの隣へ並び立つ。

 まるで、最初からそこにいました、みたいなお顔で。

 役目を一時、放棄していたことへの謝罪も、前置きすらもなかった。

 何一つ問題なく、予定通り恙なく進んでおりますのお顔で、長老は午後の予定について話し始めた。


「午後は、とっておきの特別なお部屋へ連れて行ってあげるぞい! お船の魔法に関係する、とっても大事な場所じゃ! そこはの、お船で働いておるクルーであっても、勝手に入ってはいけないところなんじゃ。クルーの中でも、選ばれた特別な者しか入っちゃダメな、特別に特別なお部屋なのじゃ!」


 長老が得意そうなお顔でババンと発表すると、子ネコーたちは歓声を上げ、肉球をたたいて喜んだ。

 さっきまでの長老のアレソレをとやかく言う者は、いないようだ。長老と睨み合っていたにゃんごろーも、「むむっ」としかめていたお顔を笑顔に転じて、小躍りしている。

 そこがどういうお部屋なにか、よく分かっていないようだが、クルーであっても選ばれし者しか入れない“特別”なお部屋に入れてもらえると聞いて、喜びを抑えきれないようだ。

 長老のお役目復帰が突然で唐突で俊足すぎて、その動きについていけず、キララたちの背後に取り残されたにゃんごろーは、その場で軽やかなステップを踏みながらクロウに尋ねた。


「ねえ、ねえ! クリョーは、しょのとくべちゅにゃおへや、はいっちゃこちょ、ありゅの?」

「いーや。たぶん、魔法制御室のことなんだろうけど、俺は入ったことないな。外で仕事をする空猫クルーで、その部屋に入ったことがあるやつは、ほとんどいないと思うぜ」

「ほっほほぅ! しょーにゃんらー! しゅごーい! しょんにゃとくべちゅにゃおへやに、ちゅれちぇいっちぇもらえるんりゃー! にゃふー♪ にゃっふーん♪ にゃっ・にゃっ・にゃー♪」


 そこがどういうお部屋なのかはよく分かっていないようだが、とにかく特別らしいということだけは理解して、“特別”に魅力を感じるお年頃の子ネコーは、歌いながらクルクルと回った。


「そっか! そのお部屋は、青猫号を守って、いい感じにするのがお仕事の、海猫クルーさんたちの仕事場なのね! だから、空猫クルーさんは、普段は入れてもらえないってことね! きっと、それだけ大事なお部屋ってことよね?」

「ま、そういうことだなー」

「えー! そんなお部屋に連れて行ってもらえるなんて、いいのかしらー?」


 にゃんごろーより少しお姉さんであるキララは、子ネコーらしさ全開のにゃんごろーとはひと味違うところを見せてきた。予定発表の前の、説明会で聞いた話もちゃんと盛り込まれている。その上で、キラキラとした喜びの笑顔も大盤振る舞いだ。見学会参加者の見本のような、花丸百点満点のお答えだった。

 妹ネコーのキラリからは、質問の声も感嘆の声も上がらなかったが、こちらもお目目はキラキラしていた。少し前までキララにべったりしがみついていたのだが、今は片手をキララの腕に置いているだけだった。体の方は、若干の隙間を残しているだけとはいえ、キララから離れている。キラリは高揚したお顔で、誰かが何かを言うたびに、そちらにお顔を向けて“うんうん”と頷いていた。

 そして。

 それぞれのやり方で喜びを表現している子ネコーたちの背後では、キララの「いいのかしらー?」を聞いたミフネが、コソッとクロウに尋ねていた。


「本当に、いいんですかね? クルーのみなさんでも、立ち入りが制限されるような場所に、僕たちみたいな外部の一般人がお邪魔しても…………?」

「あー、まあ、そうなんだろうけど。今までにも、外部からの見学を受け入れたことはあったみたいだしなー。それに、マグさんは青猫号の魔法関係の最高責任者だし。マグさんが許可したんなら、いいんじゃないですかね? それに、残りの責任者二名も了承しているみたいですし」

「な、なるほど…………?」


 キララの「いいのかしらー?」は、遠慮をするつもりなんて欠片もない、「そんなすごいお部屋に入れてくれるなんてありがとう」の意味合いが強い、口先だけの「いいのかしらー?」だったが、一応大人で引率者であるミフネは、「本当にそんな部屋に入っていいのか?」と本気で心配したようだ。

 けれど、クロウの返事は、あっさりしたものだった。

 とりあえず、クルーであるクロウが何も問題を感じておらず、他の責任者も了承しているならば、本当に問題ないのだろうとミフネは結論付けた。

 そして、子ネコーたちのために骨を折ってくれたのであろうマグじーじにお礼をしようと考えて、連れの子ネコーたちに声をかけた。


「ふたりとも。どうやら、マグさんのお力で、特別に入れていただけるお部屋のようですから、ちゃんとお礼を言いましょうね?」

「はーい! マグさん、ありがとうございます!」

「あ、あああああ、ありがとう、ござい、ます…………!」

「…………は! にゃ、にゃんごろーも! ありあちょーね、マグりーり!」


 功労者へのお礼会には、にゃんごろーも遅れて参加した。踊りを止めて、キララの隣へ戻ると、もっふり深々と頭を下げる。キララとキラリも、慌ててお辞儀をした。

 もふもふした三角お耳がぴょこんと下がり、またぴょっこりと持ち上がる。

 三組のお目目が、真っすぐマグじーじに向けられた。

 その内の一組、キラリのお目目は、熱を帯びて潤み、輝きを放ちながらユラユラと揺れていた。一番、大人しい子ネコーが、一番、喜んでいるようだ。

 にゃんごろーのように、喜びを表へ解き放つのではなく、自分の中でじっくりと熟成させ噛みしめるタイプなのだろう。


 そして。


 図らずも、そんな子ネコーたちの注目と感謝を一身に浴びることになったマグじーじは、幸せが臨界点を突破して、天に召されそうになっていた。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?