感謝と喜びにあふれるキラキラお目目に見上げられるのは、この上ない幸せだった。
もふもふお耳の“ぴょこんぴょこん攻撃”には、心を打ち抜かれまくった。
結果として、茹で上がったばかりのタコのようになったマグじーじは、そのまま天に召されかけながらも、それでも。
子ネコーたちの気持ちの応えねばという一心で、辛うじて人としての形を保ち、子ネコーたちからの感謝に応えた。
「なー、ななななな、なんの、なんの! みんなのためなら、これしきのこと、どうということはないわい! お部屋に入ったら、ワシが色々と教えてあげるからの! 楽しみにしておるとよいぞ!」
「はい!」
「はーい!」
「はいっ!」
舞い上がり浮ついたまま、マグじーじはドーンと胸を叩いた。
子ネコーたちは、マグじーじを見上げたまま元気よくお返事をする。
中でも威勢がよかったのは、意外なことにキラリだった。それまでの恥ずかしがり屋さんぶりが嘘のような、短く歯切れのよいお返事だ。どうやら、午後に予定している“魔法制御室”の見学を相当楽しみにしているようだ。片手はキララの腕に置いたままだが、体もお顔も真っすぐマグじーじの方を向いている。
ともあれ、見学会の予定発表は終了した。
次は、いよいよ船内へ!――――となるはずなのだが、ここで「待った」がかかった。
犯人は、長老だ。
ミフネが気をきかせたことにより主役を奪われてしまった、長老だ。…………と言っても、別にそのことを怒っているわけではない。
長老は、もふぁもふぁトコトコとキララの前まで歩み出た。そして、白くて長いお胸の毛をわしゃわしゃとかき混ぜながら、キララを見つめる。子ネコーのキララは長老のお腹の辺りにお顔があるので、当然見下ろすことになるのだが、なぜか上目遣いを錯覚させる雰囲気を醸し出していた。
有体に言えば、おねだりのお顔をしていた。
「それで、頑張った長老を、お昼のお食事会にご招待してくれるんじゃろーにゃん?」
お手々を“もじもじ”と動かしながら長老が尋ねた。珍しく、語尾が乱れている。
可愛くないこともないが、少々わざとらしい。
にゃんごろーとマグじーじが、呆れたお顔を長老へ向けた。
長老の“それ”が、お姉さんみのあるキララにお願いをきいてもらうための、かわい子ぶりっ子大作戦であることを察したからだ。
残念ながら、長老の大作戦は、無敵の可愛さを誇る子ネコーには通用しなかった。
キララは、長老の作戦に、怯むことも見惚れることも絆されることもなく、ニッコリ笑ってすっぱりと言った。
「長老さん。見学会は、まだ始まってもいないんですよ? 長老さんをランチ会にご招待するかどうかは、見学会が無事に終わってから発表します! 頑張ってくださいね、長老さん!」
「にゃ!? にゃんで、にゃんごろーは、ちょろっとお手伝いしただけでご招待してもらえたのに、長老はダメなんじゃ!?」
真の可愛さとはこういうことだと言わんばかりのキラキラ笑顔で、キララは「ランチ会に参加したかったらもっと頑張れ」宣言をした。
もちろん、この程度で諦める長老ではない。
長老は、ウルッとお目目を潤ませながら食い下がった。かわい子ぶりっ子大作戦を続行するつもりのようだ。
「えー? だって、にゃんごろーは子ネコーだし。子ネコーなのに、自分からお手伝いしてえらいなって思ったんだもーん。でも、長老さんは、おとなでしょー? やっぱり、最後までちゃんとお仕事をしたのか確かめてからじゃないと、ご招待は出来ませーん!」
「ひどい! おとな差別じゃー!」
「子ネコーみたいな駄々をこねる“おとな”は、招待したくないなー」
「午前の見学会場は、魔法の工房だったな! よし、船内に入るぞ! みなのもの、長老について参れ!」
森のネコーと街の子ネコーの攻防戦は、ひとまず街の子ネコーの勝利で終わった。
切り札をうまいことチラつかされた長老は、見事な変わり身を披露した。
駄々っ子から、頼れる見学会案内ネコーに転身したのだ。
それはもう、にゃんごろーとマグじーじだけでなく、キララとキラリまでちょっぴり呆れてしまうほどの素晴らしい転身ぶりだった。
ともあれ。
ランチ会への招待のチケットを手に入れるために俄然張り切りだした長老によって、なし崩し的に見学会はスタートした。