なんていうかね?
花々した感じの女の子だった。
頭のてっぺんからつま先まで。
全部が。
全部が、そう、花々しかった。
針山マウンテンを出た後、あたしたちは、闇空の高ーいところを飛んでいた。
地表の様子は全く見えない。
足元にはただ暗闇と、ホタルモドキのぼんやりとした光が仄かに灯るのが見えるだけ。
高く飛ぶことに、特に意味があったわけじゃなく。
なんとなく、テンションが上がっていて、高いところに行きたくなってしまったのだ。
でも、そのうち
どこにいるのか分からない
ほんの少しでも手掛かりが欲しいからね。
で。高度を下げてみると、足元には草原が広がっていた。
一瞬、アジトのある草原に戻ってきてしまったのかと思った。
でも、よく見ると、何かが違う。
何か、見慣れないものが揺れていた。
ホタルモドキよりも、数倍も大きい、仄明るく光る玉。それが、草原のあちらこちらで揺れているのだ。まるで、風に揺らされているみたいに。
あれは何だろうと、ほうきから身を乗り出しかけたら、月見サンがグンと高度を下げた。
「やっほー! やまー! 久しぶりー! ちょっと、聞きたいことがあるんだけどー!」
下に誰か知り合いを見つけたらしい。
月見サンが大きく手を振るその先には。
なんだか、花々した女の子がいたのだ。
「わたしは、フラワーアレンジ・やまー。よろしく」
目の前に降り立ったあたしたちに。てゆーか、主に初対面であるあたしに、やまー……は、静かに、しっとりと名乗った。
なんていうか、その名の通り、フラワーでアレンジされた魔法少女だった。
衣装が、花だった。
色とりどりの小花を集めて編み上げて作ったみたいな、ふわっとしたミニスカワンピ。
言っとくけど、小花模様ってことじゃない。
小花で編み上げたワンピだ。
風が吹いたら花が飛び散って、魔法少女の変身シーンみたいな、ちょっとえっちでいやーんなことになるんじゃないかと心配になる感じに、小花を集めて作ったみたいなワンピだ。
まあ、魔法で作った衣装のはずだし、たぶんそんなことにはならないと思うけど。
ならないと思うけど。
……ならないと、いいな!
えー、それはともかく。
フラワーアレンジは衣装だけじゃない。頭の方もすごかった。いや、中身の話じゃないよ? ヘアアレンジの話だよ?
もちろん、ヘアアレンジにもふんだんに小花が使われていた。
ゆるふわっと編み込みにして、まとめ髪にしたところに、たくさんの小花が散らされている。てっぺんには、当然のように花冠。
小花を五つ連ねたイヤリングが可愛らしく、ふよよんと揺れるおくれ毛が悩ましい。
足元は(この時点では草むらに隠れてて見えなかったんだけどね)、白いサンダル。さすがに小花で作ったサンダルではなかった。歩きにくそうだもんね。でも、まあ、もちろん、ふんだんに小花の飾りがあしらわれている。
可愛いような、やりすぎなような。
微妙なライン。
そして、当のご本人は。
しとっ、とした感じの、なかなかの美少女だった。
濡れたようなウルウルの瞳。細かく揺れる長い睫毛。小さいのにぷっくりとした唇は、やっぱり濡れたように光っている。何か、塗ってるのかな?
今までに、会ったことのないタイプの魔法少女だ。
でも。それよりも、何よりも。
あたしが一番気になるのは。
フラワーアレンジメントの教室みたいな、その名前だった。
フラワーアレンジは、まあ、ある意味名前の通りだし、良しとしよう。
でも。
でもさ。
やまーって、何?
サマーの発音で、やまーだったけど、そういうことじゃなく!
魔法少女としてふさわしい、もっとかわいい名前、なんかほかにもあるよね? ね?
…………なんで、それにしちゃったの?
「やまー…………」
ポロリとこぼれた、その呟きに込められた意味に、やまーは気づいたみたいだった。
胸に手を当てて、そっと目を伏せ。
どこか儚げに微笑みながら、やまーは言葉にならなかったあたしの質問に答えてくれた。
「これは、わたしにとって、とても大切な名前なの…………」
“やまー”が、大切な名前?
どういう意味なんだろう。
あたしは、ごくりと唾をのみ込んで、視線だけで話の続きを促した。