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第39話 フラワーでアレンジしてみました。

 なんていうかね?

 花々した感じの女の子だった。

 頭のてっぺんからつま先まで。

 全部が。

 全部が、そう、花々しかった。



 針山マウンテンを出た後、あたしたちは、闇空の高ーいところを飛んでいた。

 地表の様子は全く見えない。

 足元にはただ暗闇と、ホタルモドキのぼんやりとした光が仄かに灯るのが見えるだけ。


 高く飛ぶことに、特に意味があったわけじゃなく。

 なんとなく、テンションが上がっていて、高いところに行きたくなってしまったのだ。

 でも、そのうち月見つきみたのだ。

 どこにいるのか分からない月華つきはなを見つけるため、魔法少女でも妖魔でも、誰か見かけたら突撃して話を聞いてみようってことになっているのだ。

 ほんの少しでも手掛かりが欲しいからね。


 で。高度を下げてみると、足元には草原が広がっていた。

 一瞬、アジトのある草原に戻ってきてしまったのかと思った。

 でも、よく見ると、何かが違う。

 何か、見慣れないものが揺れていた。

 ホタルモドキよりも、数倍も大きい、仄明るく光る玉。それが、草原のあちらこちらで揺れているのだ。まるで、風に揺らされているみたいに。

 あれは何だろうと、ほうきから身を乗り出しかけたら、月見サンがグンと高度を下げた。


「やっほー! やまー! 久しぶりー! ちょっと、聞きたいことがあるんだけどー!」


 下に誰か知り合いを見つけたらしい。

 月見サンが大きく手を振るその先には。

 なんだか、花々した女の子がいたのだ。



「わたしは、フラワーアレンジ・やまー。よろしく」


 目の前に降り立ったあたしたちに。てゆーか、主に初対面であるあたしに、やまー……は、静かに、しっとりと名乗った。


 なんていうか、その名の通り、フラワーでアレンジされた魔法少女だった。


 衣装が、花だった。

 色とりどりの小花を集めて編み上げて作ったみたいな、ふわっとしたミニスカワンピ。

 言っとくけど、小花模様ってことじゃない。

 小花で編み上げたワンピだ。

 風が吹いたら花が飛び散って、魔法少女の変身シーンみたいな、ちょっとえっちでいやーんなことになるんじゃないかと心配になる感じに、小花を集めて作ったみたいなワンピだ。

 まあ、魔法で作った衣装のはずだし、たぶんそんなことにはならないと思うけど。

 ならないと思うけど。

 ……ならないと、いいな!


 えー、それはともかく。

 フラワーアレンジは衣装だけじゃない。頭の方もすごかった。いや、中身の話じゃないよ? ヘアアレンジの話だよ?

 もちろん、ヘアアレンジにもふんだんに小花が使われていた。

 ゆるふわっと編み込みにして、まとめ髪にしたところに、たくさんの小花が散らされている。てっぺんには、当然のように花冠。

 小花を五つ連ねたイヤリングが可愛らしく、ふよよんと揺れるおくれ毛が悩ましい。


 足元は(この時点では草むらに隠れてて見えなかったんだけどね)、白いサンダル。さすがに小花で作ったサンダルではなかった。歩きにくそうだもんね。でも、まあ、もちろん、ふんだんに小花の飾りがあしらわれている。


 可愛いような、やりすぎなような。

 微妙なライン。


 そして、当のご本人は。

 しとっ、とした感じの、なかなかの美少女だった。

 濡れたようなウルウルの瞳。細かく揺れる長い睫毛。小さいのにぷっくりとした唇は、やっぱり濡れたように光っている。何か、塗ってるのかな?

 今までに、会ったことのないタイプの魔法少女だ。


 でも。それよりも、何よりも。

 あたしが一番気になるのは。

 フラワーアレンジメントの教室みたいな、その名前だった。


 フラワーアレンジは、まあ、ある意味名前の通りだし、良しとしよう。

 でも。

 でもさ。


 やまーって、何?

 サマーの発音で、やまーだったけど、そういうことじゃなく!


 魔法少女としてふさわしい、もっとかわいい名前、なんかほかにもあるよね? ね?


 …………なんで、それにしちゃったの?


「やまー…………」


 ポロリとこぼれた、その呟きに込められた意味に、やまーは気づいたみたいだった。


 胸に手を当てて、そっと目を伏せ。

 どこか儚げに微笑みながら、やまーは言葉にならなかったあたしの質問に答えてくれた。


「これは、わたしにとって、とても大切な名前なの…………」


 “やまー”が、大切な名前?

 どういう意味なんだろう。


 あたしは、ごくりと唾をのみ込んで、視線だけで話の続きを促した。



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