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第42話 キノコの森で会いました。

「それ、どうしたの?」


 気づいたのは、月見サンだった。


 フラッと姿を消したフラワーが戻って来てみたら、フラワーのサンダルを飾る小花に、光るキノコが絡まっていたのだ。

 オレンジに光る、ちょっと大ぶりのなめたけみたいなキノコが一つ。


「ああ。さっき、キノコの森を散策してきたから」

「キノコの森?」

「山でも里でもなく!?」

「ええ。山でも里でもなく、森」


 首を傾げるあたしに被せるように、月見つきみサンは声を弾ませた。

 フラワーは囁くような声で、淡々とそれに返す。

 竹ぼうきの前座席に座る月見サンが、何やら落ち着きがないのはなぜだろう?

 心の隅の方で疑問に思いながらも、あたしは紅桃べにもものことを思い出していた。

 妖精のように可憐な美少女……にしか見えないけど、実は男の子な紅桃。

 そう、確か。


「紅桃が月華つきはなと出会ったのも、キノコが生えているところだったって言っていたような?」

「へえ? つまり、二度あることは三度ある! もしかしたら、また誰かが彷徨い込んで月華に助けられているかも! じゃ、行ってみよっか!」

「誰もいなかったけれど?」


 ノリノリな月見サンに、フラワーが冷たくそっけなく答える。

 でも、もちろん。そんなことで挫ける月見サンではない。


「さっきはホラ。軽ーく散策していただけでしょ? 誰かいるかも、と思って探せば、何かが見つかるかも! だから、行こう! 今すぐ!!」

「さっき、行ってきたばっかり……」

「あたしたちはまだ、行ってない! 何なら、フラワーは来なくていいし! 場所だけ教えて! 星空ちゃんと二人で行ってくるから!」


 あ。あたしが行くのは、確定なんですね。

 まあ、二人乗りの空飛ぶ竹ぼうきに乗っているので、当然そうなりますけど。

 で、フラワーはといえば。小さくため息をつくと、フラワースカイフィッシュ(小花で作ったお魚型の空飛ぶボードだ)の先を、くるっと左に向けた。そのまま、何も言わずに斜め下に向かって降りていく。

 どうやら、案内してくれるらしい。

 で、辿り着いたそこは。


「うわー。本当にキノコの森だー」


 本当にキノコの森でした。


 ひょろりと長いエノキみたいなのが、あたしの頭を軽ーく越えて、お空の上の方まで伸びている。

 それから、くり抜いて扉を付けたら住めそうなマッシュルーム型とか。

 ちょうど目の高さくらいの、かさの下に糸みたいなのがいっぱい生えているのとか。

 ひざ丈くらいのもあるし、足元にプチプチ生えているなめこっぽいのもある。なめこっぽいのは、フラワーのサンダルに取っ付いてきたやつだ。

 そのどれもが、赤とか黄色とか緑とか青とか、いろんな色にぼんやりと光っているので、なんだかアンティークの照明器具屋さんに迷い込んだみたいでもある。

 黄色に赤い水玉の、座るのにちょうどよさそうなキノコは、黄色と赤が交互に光って、見ているだけで毒にやられちゃいそう。…………別に毒キノコじゃないかもだけど。


 今のところ、あたりに妖魔の気配はない。

 でも、いつ現れてもいいように、妖魔を撃退するスターライト☆シャワー缶は右手に握りしめている。

 これで、いつでもシューが可能。

 本当は、シューしながら歩きたいんだけど、てゆーか最初はそうしていたんだけど、フラワーに地を這うような囁き声でやめろって言われたので、しぶしぶ止めたのだ。妖魔は撃退するけど、魔法少女には害はないって説明したのに、フラワーは許してくれなかった。

 星のカケラみたいなのも一緒にシューって出てきて、イリュージョンな感じなのにさ!

「花びらが出てくるなら、考えてもいい」

 って、言われた!

 花びらは、花びらは!

 本当なら可愛いけど、フラワーな感じだからなんかヤダ!


「そーれにしても、妖魔に会わないよねー。ここ、結構、魔素が溢れてるし、こんなに妖魔がいないのはおかしいと思うんだけどなー」

「神聖な感じの森で、妖魔は住めない! とか?」


 それだと、たぶん。

 月華はここにはいないだろうなー、とは思いつつも、そうであってほしいという思いを込めて、心持ち声に力を込めてみた。


「それとも、森のぬしみたいな妖魔が奥の方にいて、小物は全部食べられちゃった、っていうのはどう?」

「おおー! それ、いいかも! ぬし! 滾る!!」

「ええー…………」


 ひっそりと笑みを漏らしながらフラワーが嫌なことを言う。

 でも、月見サンは、嬉しそうっていうか、大歓迎的な感じだ。

 いつ主が出てきてもいいように、あたしは先頭を歩く月見サンの背中に隠れるようにして身を縮めた。スプレー缶は用意してあるけど、主には効かないかもしれないし!

 用心は大事だよね?


「主~。主~~♪」


 月見サンはご機嫌で、変な歌を口ずさみながら前をどんどん歩いていく。ちょっと、音程がずれているけど、足取りはスキップでも始めそうなくらい軽やかだ。

 もしかして、主を退治しちゃおうとか思っていらっしゃる?

 それは、ちょっと、星空は遠慮したいなぁーって思うんだけど。

 ここには、月華はいないみたいだし。

 もうキノコは十分鑑賞したので、そろそろ違うところに行きたいなー?

 なーんてことを、びくびくしながら心の中だけで呟いていたら、「あ!」と叫んで、月見サンがいきなり走り出した。


 え? 何、何?

 何があったの?

 主?

 主が出ちゃったの?


 スプレーを前に構えて、月見サンの行方を見守る。

 月見サンは。


 ジャンプして、ダイブした。


 でっかいキノコの上に。

 カサの部分が平べったい感じの、でっかいキノコの上に。

 あたしたち三人くらいは、余裕で受け止めてくれそうな、でっかいでっかいキノコのカサの上に。


 ぼよーん、と間抜けな音がして、キノコが白く光る。


 ぼよーん。

 今度は、黄色に光って。


 ぼよよーん。

 お次は、紫。


「あっははは! 二人ともおいでよ! たっのしいよ、これー!」

「えーと、これってつまり、キノコの」

「トランポリン?」


 キノコの、トランポリン。

 跳ねるたびに間抜けな音がして、その度に違う色に光る、トランポリン。

 何それ、楽しそう!

 あたしもやるー!!


 走り出したあたしの隣を、フラワーが追い抜いていった。

 あ! ちょ!

 負けるかー!


 負けじと速度を上げて、キノコトランポリンの直前で何とか隣に並ぶ。

 とーう! ジャーンプ!


 ぼよっ、よよ~ん。

 赤……く光ったかと思ったら、すぐに緑の光がー。

 どっちが、先だったのかな?

 よく分からん。でも、もうどっちでもいいや!


 た、楽し~~。


 自分で空を飛ぶのとは違う、自分ではコントロールできない浮遊と落下が楽しい!

 くう~!

 空を飛ぶ楽しさを知っているからこその、トランポリンの新たな楽しさって感じ!

 あと、ぼよぼよピカピカするのも楽しー。


 なんか、もう。自然と笑い声が出ちゃうよー。

 フラワーが含み笑っているのは怖いけど、でも楽しい。

 てゆーか、こんな時くらい、もっと普通に笑おうよ! 怖いよ!


 なんて思って、チラッとフラワーの方に視線を走らせちゃったのが運の尽きだった。

 ぼよんして、空中で一回転してから正座の姿勢で落ちていきながら、あたしとは反対にちょうど上に飛び上がってきたフラワーとすれ違う。

 すれ違いざまに、あたしは見てしまった。

 見えてしまった。

 フラワーの、スカートの中が。


 フラワーのパンツは、フラワーだった。


 何度も言ったことがあるような気がするが、花柄のパンツという意味ではない。

 コスチュームと同じ、小花の集合体でできたパンツだった。

 あまりに衝撃的すぎて、かえってばっちり見てしまった。

 驚きすぎて、視線を逸らせなかった。

 失礼かもなんて、思う余裕がなかった。


 それは。

 なんか、パンツっていうよりオム…………いや、げふんげふん。

 んん。何でもない。

 てゆーか、普通に履き心地悪そうだよね? ガサガサしないの? 内側の肌にあたる部分は布製だったりするのかな?

 うん。まあ、いいや。フラワーが特に問題ないなら、あたしがどうこう言うことじゃないしね。うん。


 正座のまま、一回上に上がってから、正座を解いて、着地と同時にキノコのカサを蹴り、地面に降りる。


「星空、見張りしまーす」


 キノコに背を向けて、スプレー缶を呼び出し構える。

 もちろん、ポーズだけだ。

 妖魔とかいなそうだし。


 じゃあ、なんで見張りをしているふりをするのかって?

 そんなの、決まってる。

 もう、見たくないからだよ!


 見なくていいものが、すぐそこにあったよ。

 あんなのでも、男子だったら大喜びしたりするんだろうか?


「あ、あの!」


 やさぐれながらどうでもいいことを考えていたら、女の子の声がした。

 鈴の音色みたいな、可愛い声。


 右斜め前方。声がした方に顔を向けると、あたしの身長よりちょっと高いくらいのエノキの茂み(と言っていいものか分かんないけど)から、女の子が現れた。


 紅桃とは違った意味で、妖精みたいな女の子だった。

 妖精系の、魔法少…………女?

 なのかな?


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