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第43話 それはそれで、妖精のような

 顔立ちは、普通に愛らしい。

 あ、いや、ほら。女神様みたいな圧倒的美しさの月華つきはなとか、同じ人間とは思えない的な意味で妖精のように可憐な紅桃べにももと比べるとって意味だよ?


 この子もまた、妖精のような女の子だった。

 でも、それは、紅桃とは違った妖精さ加減なのだ。

 なんていうか、本人がどうとかじゃなくて、衣装が妖精チックだった。

 絵本に出てくる妖精を思わせるような、衣装。


 改めて、まじまじと見つめてみる。

 髪形はマッシュルームみたいなショートボブで、花冠が載っていた。可愛いし似合っている……けど、今すぐ外した方がいいと思う。フラワー的な意味で。

で、肝心の衣装はというと。

 グラデーションがかかった若草色のふわっとしたワンピース。お腹のあたり、ハイウエストっていうのかな? その辺で、太めのリボンできゅっと絞っている。そのリボンが、まるで妖精の羽みたいな、透け感のあるシャリシャリした感じで光沢のある素材で。なんか光の粒みたいのが塗されているみたいでもあって。それが、後ろで大きな蝶々結びになっていて、妖精の羽っぽく見えないこともない感じなのだ。


 妖精さんは、両方のこぶしを胸の前で握りしめ、ちょっとおどおどしながらも勢い込んで尋ねてきた。


「あ、あの! あ、あなたたちも、月華に力をもらった、ムーンライトプリンセスなんですか!?」

「違います」

「いや、違うし」

「違う……」


 三人とも、それぞれ速攻、否定する。

 この反応。二人とも、どこかの劇場型魔法少女・夜陽よるひを知っているんだな。まあ、本人は姫じゃなくて女王って名乗ってたいけど。姫とかプリンセスって聞くと、どうしてもあれを想像してしまう。背景にお城を背負っていやって来て、ひとしきり高笑いした後、一人で勝手に強制退場させられていくのが定番というあの魔法少女を。

 うん。あれとは、一緒にされたくない。


「え? …………ということは、敵?」

「違うから!」

「いや、そういうことじゃなくて」

「………………」


 妖精さんは、どうやら夜陽のことを知らないらしい。

 その目に、警戒の色が浮かぶ。握りこぶしを解いた妖精さんの手の中には、いつの間にか弓と矢が現れていた。妖精さんは弓を構えて、狙いを月見つきみサンへと定める。

 マジシャンとバニーが混じっていて、一番怪しく感じるからかな。

 あと、フラワーはちゃんと否定しとこうよ?


「プリンセスじゃないけど、あたしたちも月華に力をもらった魔法少女だよ」


 否定したいのはプリンセスだけだから!

 誤解を解こうと、慌てて両手を左右に振ると、妖精さんは分かってくれたみたいで、ハッとしたように目を見開く。見開いて、それで、手にしていた弓矢を放り投げると、頬に両手を当てて、いやいやするみたいに首を激しく振り始める。


「そ、そうですよね!? 月華に力をもらってお仕えする立場の分際で、プリンセスなんておこがましいですよね!? ああ、恥ずかしい! 私ってば、なんて恥ずかしいことを言っちゃったんでしょう! 穴があったら埋めたいです!」


 え? 何を? てか、誰を? てか、てゆーか、そういう時は、自分が埋まるんじゃないの?

 もしかして、あたしたち全員を穴に埋めて、何事もなかったかのように立ち去って証拠隠滅しちゃえとか思ってる? 大人しそうな顔して、飛んだ曲者だよ、この子!

 あと、その考え方。妖魔にビビッてお股をほかほかにしちゃった黒歴史を抹消するために、そのことを知っている魔法少女を葬り去ろうとしている夜陽(まあ、たぶんそんな日は来ないと思うけどね。本人の能力的に)と同類じゃない?

 ええと、それならそれで、ご自由にプリンセスを名乗っていただいてよいんじゃないかな、と。


 で、これ、一体どうしたらいいの?

 両手を前に突き出したポーズのまま(フリフリは止めてるけど)、月見サンの様子をそっと伺うと、月見サンもどうしたもんかなーって感じに苦笑いを浮かべている。

 なんて声を掛けたらいいのか…………。

 思ってもみない玉が帰ってきそうでさー。うかつに声をかけられない雰囲気。もういっそ、何もなかったかのように、このまま通り過ぎたい気分。


「それで、あなたは誰なの?」


 事態を動かしたのは、フラワーだった。

 名乗る前に相手に名乗らせるスタイル。しかも、ちょーどうでもよさそうで、相変わらず囁くような声だ。

 尋ねられた妖精は、ピタッと動きを止めて、なんかビシッと敬礼した。


「そ、そうでした! 私ったら、こちらから話しかけておきながら、名乗りもせず。えっと、私は、そうです! 月華に使えるムーンナイト……いえ、月の騎士のほうがいいですね……」


 そこ、言いなおす意味あるの?


「こほん。では、改めまして」


 咳払いをひとつ。それから。

 妖精は、軽やかに流れるようにくるりとターンを決めた。

 腰のリボンがふわりと靡くのが、なんかイイ。

 そして、スカートの裾をちょいとつまんで、お姫様風のお辞儀をして。


「私は、月華に使える月の騎士…………月の騎士………………。ああー、しまった! 心花ここはな心春ここはる、どっちにするかまだ決めてないんでしたー!」


 両手で頭を抱えてしゃがみ込んだ。


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