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第44話 魔法少女力

「ココハナ…………」


 衣装が妖精風な魔法少女にすっかり興味をなくして、キノコトランポリンへ戻ろうとしていたフラワーが、ピタッと足を止めて、スローモーションで振り向いた。

 なんか怖いから、普通に振り向いてほしい。


「え? あ、はい! 心に花で“ココハナ”です! あ、もちろん、簡単な方の、草冠の方の花ですよ!? 月華つきはなにあやかってはいますけど、心に華やかなんて、そんなおこがましい! 私、ちゃんと身の程はわきまえていますから!」


 フラワーはたぶん、“花”って単語に反応しただけだと思うんだけど、妖精風魔法少女は、何やら一人で勝手に弁明を始めた。

 あと、言いたいことは分かるけど、“花”も“華”も、どっちも草冠だよ?

 そこは、草花の花でいいんじゃないかなー。普通に。


「ふ、ふふ。野に咲く一輪の可憐な花が、思いを遂げることで、大輪の花となって華やかに咲き誇る。いい。ふ、ふふ……。いい…………」


 ひ、ひぃ!?

 なんか、フラワーがぶつぶつ言いながら遠くを見つめだした。

 そして、きょとんとした顔をしている妖精風魔法少女に向かって、小さなキノコたちを踏みしめながらも、流れるように足を進める。

 妖精風魔法少女の前に立ったフラワーは、その肩にしっとりとした動きで手を置いて、よく言えばミステリアスに笑った。

 正直に言えば、不気味で怖かった。


「あなたは、たった今から、“心春”。なぜなら、わたしが“心花”となるから」


 で、でたよ!? わがまま理論!!


「月華を探して、この思いを遂げた時、わたしは華やかに生まれ変わる……」


 初対面の女の子の肩に手を置いたまま、遂げてはならん思いについて、密やかに熱く語ってらっしゃいますけど!?

 だいたい、人様が考えて、まだどっちにしようか迷っている最中のお名前なのに、何勝手に自分のものにしちゃってるの? ダメでしょ!

 詳しく知りたくない妄想に浸るのは、せめて使ってもいいって、あの子から許可をもらってからにしようよ!

 ほら、あれだよ。『やっぱり、私も心花がいいです』とか思ってたりしたら、どうするの!?


 一言、言ってやらねば!

 と、勢い込んだんだけどね?

 うん。何か、空振りだった。ていうか、余計なお世話だった。


 妖精風魔法少女は、わがまま理論爆発のフラワーに怒るでも困るでもなく。

 うん。なんかね?

 両手を顎の下で組む乙女のポーズで、お目目をきらきらさせて、自分よりも背の高いフラワーの顔をうっとりと見つめていた。頬はほんのりピンクでさ。まるで、恋でもしちゃったみたいだよ。


「ああ…………。今は、ただの心花ここはなだけれど、愛しい人と結ばれたその時、心華ここはなへと生まれ変わる……。つまりは、そういうことなんですね? 禁断の愛というところが、またそそられますね」


 妖精風魔法少女が思っている“禁断”とは、ちょっと違う種類の“禁断”だけどね。

 人として、やっちゃならん類の“禁断”だけどね!

 本人に無断で、女の人を男の人にしちゃうとか! か!


「素敵です。素晴らしいです! ああ……! きっと、私がずっと、心花か心春ここはるか迷っていて決められないでいたのは、この日のためだったんですね? あなたに、この名前を届けるために、私は…………!」

「ふ、ふふ……。そう、つまりは、そういうこと」


 フラワーが、なんか調子に乗ってるよ!

 なにが、そういうことなんだよ。

 いや、まあ。妖精風魔法少女がそれでいいなら、いいけどさ。


「では、今から私は、月の騎士・心春って名乗ることにします。それでは、みなさん。これから、よろしくお願いしますね!」


 妖精風魔法少女改め心春は、ぴょこんとお辞儀をした。


 あれ?

 なんか、一緒に来ること、確定してる? ん?

 いや、ここに一人で置き去りにするのは、どうかとは思うけどさ。

 ほら、フラワーと気が合うみたいだし。フラワーと気が合う子と一緒に旅をするのは、ちょっとアレな感じだし。なんなら、ほら。気の合う二人は、気の合う二人同士で旅をしたらいいんじゃないかな?


「ふふふ。たった今から、私の名前は、ムーンナイト・フラワーアレンジ・ハートフラワー。…………フラワーハートの方が、おさまりがいい?」


 あたしたち三人の誰とも目を合わさずに名乗るフラワーさん。

 誰に言ってるの?

 それと、ムーンナイトかフラワーアレンジか、どっちかにした方がいいんじゃないかな? 長すぎる。あと、普通に心花でいいじゃん! そもそも、他人様から奪った名前なんだからさ。アレンジしないで、そのまま使おうよ?

 花から華へ、華麗に変身する話はどこ行った?

 …………………………。

 うん、まあ。どうでもいいか。フラワーは、フラワーだし。もう、何でも好きなように名乗っていいよ。

 何をどう名乗ろうが、フラワーはフラワー。

 はい、決定!

 だって、フラワーだし!


「えーと、そしたら。次は、あたしがいきまーす。マジカル・ウィッチ☆月見つきみチャンでーす! あたしも、そろそろ改名しちゃおうかなー?」


 ピースサインでピッと敬礼をして、月見サンが明るく名乗った。

 改名は、なんて呼んだらいいのか混乱しそうなので、出来れば止めといてください。


 なんて思ってたら、月見サンと心春の視線があたしに流れて来た。

 あ。次は、あたしの番か。


 え、えっと。


「ま、魔法少女の星空ほしぞらです! よ、よろしく?」


 あ、ああ~! 首とか傾げてる場合じゃないよ、あたし~!!

 突然すぎて、個性が足りない地味な感じのアレになった!

 激しく、決まらなかった!

 もっと可愛く、魔法少女らしく決めたかったのにぃ!

 ポーズとか!

 二つ名的なアレとか!

 もっと、こう、いろいろ、可愛く!


 もっと、こう!

 突然、振られても素敵可愛く名乗ったり、技とか術とか使えるようにならなきゃ!


 魔法少女力!


 魔法少女力が、足りない!

 圧倒的に足りない!



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