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第45話 闇底最強の魔法少女生物かもしれない

 なんだかよく分からないうちに、なぜか勝手に一緒に行くことになってしまった、キノコの森で出会った、衣装が妖精風魔法少女の心春ここはる


 見た目は、内気で大人しい妹風だし、仕草なんかもそうなんだけど。

 中身の方は、割と結構アレな感じの子だと思う。

 そして、いかにも人見知りしそうな、引っ込み思案な感じの外見なのに、意外とおしゃべりだ。

 まあ、今までずっと一人でいたみたいだし、話し相手が出来て嬉しくなっちゃてるのもあるとは思うけど。


 キノコの森に住んでいたのは心春だけで、ここには月華つきはなはいないということが分かったので、あたしたちは再び旅立つために、心春の案内で森の外へと向かった。

 怪しく光るキノコたちの間を歩いている間、心春は、ほとんど一人で喋っていた。


 それによると。

 キノコの森に全っ然、妖魔がいないのは、心春が全部やっつけちゃったかららしい。


「あ。この森の妖魔は、私が全部、殲滅しちゃいました! でないと、安心して休めないじゃないですか?」


 ハニカミながら、殲滅と言われても。も。


 で。

 そのうちに、話は心春と月華の出会い編に突入した。

 心春も、あたしと同じで、学校帰りに光る蝶々を見つけて気を取られているうちに、気が付いたら闇底のキノコの森に彷徨い込んでいて、でっかいカマキリみたいな妖魔に襲われたんだって。


「必死に森の中を逃げ回っていたら、月華が、どこからともなく颯爽と現れて、いとも簡単に妖魔を殲滅して、私を助けてくれたんです。それだけじゃない。私を助けてくれただけじゃなくて、私のことも魔法少女にしてくれるって言うじゃないですか」


 そっか。心春は、それでさっそく“血の契約”をして、魔法少女になったんだね。

 血の契約とか下僕とかいう単語にビビったあたしは、アジトに連れていかれて、一応説明的なものを聞いてから魔法少女にしてもらったけど。


「力をもらって。魔法少女に変身して。凄く感激しました。………………それで、ふと気が付いたら、月華はもういなくなっていたんです」


 あの時、あたしもあっさり魔法少女になっていたら、あの沼地に置き去りにされていたんだろうなー。

 早まらなくて、よかった。


「きっとこれは、月華からの試練に違いない! 月華の騎士としてふさわしい力を身に着けてから、後を追ってこい。そういうことなんだと思って、頑張りました」


 思い込みの激しい子だよね?

 でも、それで、森の妖魔を全部やっつけちゃうとか、ちょっと凄すぎない?


「あ。武器は、弓だけじゃなくて、剣とロッドも使えます。どれか一つに決められなくて、お恥ずかしい……。でも、おかげで、どんなタイプの妖魔が出ても臨機応変に戦えます!」


 も、もしかして、この子。

 いろんな意味で、魔法少女としてのスペックが高い?

 やばい。

 あたしが一番のポンコツかも。

 フラワーがどうやって妖魔と戦うのか知らないけど、人形の“もと”にした仕打ちを考えると、やっぱりえげつない方法でフラワー的に殲滅とか、しちゃいそうだし。


「あ。そういえば、みなさんはどうやって妖魔と戦っているんですか?」


 ここでようやく、心春はあたしたちに話を振ってきた。

 でも、よりによって、その話題かい!?


「あたしはねー、カードかロッドだよ。一回、鞭も使ってみたことあるんだけど、あれは失敗だった。なんか、自分の体に絡まっちゃってねー。あははー」


 マジシャン! バニーさん!

 いや、そうじゃない!


「あはは、じゃないですよ、月見つきみサン! 危ないじゃないですか! ひっ絡まってる間に、妖魔にやられちゃったらどうするんですか!?」

「あは、ご心配ありがとー。でも、その時は、カードでなんとかしちゃったし、さすがにその後はもう鞭は使ってないからさ。それにさー、妖魔の前で、バニー系マジシャンが鞭に絡まっている姿をさらしてもねー」


 バニー系マジシャンって。

 いや、そこじゃない。てゆーか、何言ってるんですか、月見サン!?


星空ほしぞらさんは、どうなんですか?」


 はっ。こっちに、玉が飛んできた。

 心春から、探るような視線が飛んでくる。

 魔法少女としての挨拶も地味だったし、きっと実力を疑われているんだ。

 まあ、実際、初心者レベルだけどね!


「禁断のライトと、スプ…………星屑のシャワーかな?」

「禁断…………。星屑のシャワー…………。なんか、素敵ですね! 早く、見てみたいです」

「あ、あははー。お見せするほどのものではー……」


 一応、魔法少女としてそれっぽく言ってみた。

 嘘は言っていない。嘘は。

 とりあえず、シャワーの星屑度はアップしておこう。せめて。


「それで、心花ここはなさんは?」

「わたし?」


 あ、それ。あたしも気になる。あんまり、聞きたくない気もするけど。

 何か、恐ろしくもおぞましい単語が飛び出してきそうで、さ。

 でも。

 不気味に笑うフラワーの口から、囁くように転がり出てきたのは、意外な答えだった。


「わたしは、妖魔と戦ったりしない。そんな、野蛮なことはしない」

「え?」

「ええ?」

「えええええええ?!?!」


 な、何、言ってるの?

 てゆーか、それで今までどうやってたの?

 今の今まで、一度も妖魔と会ったことがないとか、そんなことはないよね?

 あ、でも、これで。魔法少女最下層の立ち位置から抜け出せる? 殲滅は出来ないけど、撃退くらいはあたしにも出来るし!

 ソ、ソワソワ。ちょっと、期待。


「えーと、妖魔に会ったら、逃げる! ってこと?」

「違う」

「え? じゃあ、今までどうしてたんですか?」


 月見サンと心春の不思議そうな視線と、あたしの期待に満ちた視線を受け止めて、フラワーは足を止めた。つられて、あたしたちも立ち止まる。

 森の出口は、すぐそこだった。

 怪しく光るキノコたちの光に慣れた目に、闇空の暗闇がなぜだか眩しい。


「別に、どうも? ジッと見ていると、向こうが勝手にどこかに行くから」

「なっ!」

「あー…………」

「ああ…………」


 フラワーの言葉をどういう意味に受け止めたのか、心春は感激に打ち震えているようだった。

 あたしと月見サンは、何かを察して力なく遠くを見つめる。


 きっと、不運にもフラワーと出会ったしまった妖魔たちは、野生の勘(?)で、フラワーの中に眠る潜在的な得体のしれない何かを感じ取ったんだろう。


 フラワーには勝てたと思ったのに、むしろ完全敗北だよ。

 てゆーか、もしかしてフラワーって、闇底最強の魔法少女生物じゃない?


 どうしよう。

 これは、もしかしたら、あたしたち魔法少女生みの親であるはずの月華でさえ、フラワーには敵わないかもしれない。

 なすすべもなく、フラワーの呪い的魔法で男の人にされちゃうかも!


 どうしよう。

 月華、逃げて。ちょー逃げて!


 って、あたしたち今から、その月華を探しに行くんじゃーん!?


 あ、あたしは、一体どうしたら?

 どうしたらいいの?


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