キノコの森で出会って、なぜかあたしたちの旅についてくることになった、衣装が妖精風魔法少女の
だが、旅立つ前に、やっておかねばならんことがある。
そう。あたしたちの旅は、空の旅。
あたしたちの旅についてくるつもりなら、空を飛べるようにならなければならないのだ!
なーんて。
まあ、あたしは自分で飛べるから、最悪、
ってなことを、練習前の緊張をほぐしてあげようと思って心春に伝えたら、全力で辞退された。ブブブブって、残像が見えそうなくらいに激しく、前に突き出した両手を左右に振っていたよ。
「いえいえ、そんな! お二人の仲を邪魔するなんて! ユニコーンに蹴られてしまいますから!!」
ユニコーン…………?
えーと、馬に蹴られるの乙女バージョン的な?
それと、お二人の仲って、どんな仲だと思ってるの?
なんか、勘違いされている気がするんだけど!?
ちゃんと違うって言った方が……いやいや、でもまだそこまで決定的なことを言われたわけじゃないし。ユニコーンの意味がよく分からないし。別にほら、女の子同士の何やかやのことじゃなくて、親友同士の友情的なことを言っているのかもしれないし。
それだとしても、間違ってるけど。
月見サンは旅の仲間だけど、あたしよりはお姉さんだし、あたしと親友とか相棒とか、そういう感じじゃないし。どちらかと言うと、アジトでお留守番をしている
なんて、ぐるぐる考えていたのは、あたしだけだったみたいで。
「じゃ、とりあえず、あたしたちで見本を見せるねー」
気にしていないのか、そもそも聞いていなかったのか。月見サンはいつものようにカラリと笑うと、颯爽と竹ぼうきに跨り、草原に立っているあたしたちの頭の少し上くらいまで浮き上がる。
「ほら、
「はーい」
考えるのは止めて、あたしも月見サンとおんなじ高さまで、ふわりと飛んだ。
ずっと竹ぼうきに乗せてもらっていたから、自分で飛ぶのは久しぶりだなー。
「わーあ!」
「へえ?」
久しぶりで、楽しくなって。
も少し上まで上がって、くるくると空中遊泳を楽しんでいたら、下から二人分の驚きの声が聞こえてきた。
心春は分かるけど、なんでフラワーまで今さら?
と思って、下を見下ろすと、フラワーは意外そうな顔で目を見開いていた。感心したように、頷いている。
はっ! そう言えば、フラワーの前では、まだ自分で飛んだことなかった?
もしかして、あたし。ずっと、自分で飛べないお荷物だと思われていた?
内心、ショックを受けながら、月見サンの近くまで戻る。
「そう、そういうこと。ふふ。わたしは、付き合うのなら男の人がいいけれど、二人のことを否定するつもりはない。わたしの邪魔にならないように、むしろ、どんどん親密になってもらって構わない。排除する必要はないみたいで、何より」
じっとり笑いながら、怖いことを言うなー!!!
てゆーか、いろいろ勘違いだけど。うん、でもいい。フラワーは、勝手に勘違いしていていいから。むしろ、勘違いしたままでいてください。
応援は、別にしなくていいけどね……。
「さて、次はわたしね。フラワースカイフィッシュ」
囁くように呪文を唱えると、フラワーの足元に小花でできたお魚型のボードが現れて、フラワーの体が浮き上がった。
フラワーはそのまま急上昇すると、お空の高いところを大きく高速で一回りしてから、またもとの位置に戻って来る。かなりのスピードだったけど、ほとんどさっきと同じ位置に、ふわピタッと舞い降りた。
「ふわぁぁあああ!」
心春の口から、さっきとは明らかに温度の違う感嘆のため息が漏れる。
まあ、これは仕方ない。
フラワーはいろいろアレだけど、飛ぶのはすごく上手いよね。
そこは素直にそう思う。
「さて、次はあなたの番ね」
ふふ、と笑いながら、フラワーは目を伏せた。
いやさ。もう、目を合わせてから喋れとは言わないからさ。せめて、顔くらいは話しかけている相手の方に向けようよ?
「はい! ずっと、憧れていたのがあるんです! ああ、でも! どうしましょう!? どっちにしましょう!?」
ようやく出番がやって来た心春は、頬を紅潮させ、目をキラキラさせて頷いて、それから。
頭を抱えて、悩み始めた。
また、それかい!
「えーと、ほら! 無理に一つに決めなくても、日替わりって言う手もあるし。とりあえず、今は、どっちか選んで試してみようか? なんなら、ほら。あいうえお順とかで決めちゃってもいいんじゃないかな?」
月見サンが、割と投げやりな感じのアドバイスをすると、心春は顔を上げて月見サンを見て、それからハッとした顔で固まった。
そのままジッと、月見サンを見つめている。主に、頭のあたりを。
あたしも真似して、じっと見つめてみた。
癖のある髪をきゅっとポニーテールにまとめた頭の右側には、小さな水色のシルクハット。左側には、薄ピンクのうさ耳。いつも通りの、マジシャンとバニーが合体した衣装だ。
「そうか、そうですよね! そういう手もありますよね!」
え? どういう手?
何を思いついちゃったの?
何をどう、参考にするのかな? かな?
「では、今度こそ、行きます! 風と木の詩!」
心春が、よく分からん呪文を唱えると。
ふ、ふわ!?
ブ、ブランコ! 空中ブランコ?
な、なるほど! これは、確かに、あたしも憧れたことあるかも。あるかもだけど。
心春が、上から垂れている緑のツタに手を伸ばし、ツタの先、ちょうど太ももの下あたりに浮かんでいる木の板にそっと腰を下ろす。
心春の体が、ブランコごと、ゆっくりと浮かび上がる。
あたしは口をあんぐりと開けたまま、上側のツタの先、ブランコを運んでいるもの達を見つめる。
うん。
ツタの片方には、白いシュッとした感じの鳥さんたちが。
もう片方には、色とりどりの風船が。
うん……。
あたしも、こういうの、憧れたことあるけどさ
でも、それ。混ぜたら危険なヤツじゃない?
心春が、あたしや月見サンと同じ高さまで上がってきた。
ツタの先を見つめているあたしの視線は、自然と上に上がる。
ある程度の高さまで上がったのを見計らったかのように、フラワーが囁いた。
あたしも、思っていたことを。
あとで、言ってあげた方がいいかな、って思っていたことを。
「それ、相性、悪そう。鳥のくちばしで、風船が割れたりするんじゃない?」
「え? あ! 言われてみれば!」
でも、それ。今、言ったら、ダメなヤツー!
「あ! ちょっと、みんな、落ち着いて! あ、あ! きゃああ!」
案の定。
フラワーの囁きに、そんな光景を思い描いちゃったんだろう。
フラワーの言った通りのことが起きて、風船は全部鳥さんに割られて、風船があった側の木の板が斜め下に傾いで、心春はそのまま地面に滑り落ちていく。
イメージが乱れたからか、地面に尻もちをついたときには、空中ブランコは消えていた。
「ふ。この程度で心を乱されるなんて。まだまだね」
「あー、あははー。魔法少女の魔法は、イメージが結構大事だからねー。イメージが揺らぐと、魔法もうまくいかないんだよね。初めて使う魔法は、特にねー」
「しょぼーん」
心春は、座り込んだまま肩を落としている。
てゆーか、フラワー。絶対、タイミング計ってたよね?
まあ、あのくらいの高さから落ちたくらいじゃ、魔法少女は怪我とかしないし。口で説明するより、実際にやってみたほうが早いっていうのはあるかもだけど。
「そうだ。こういうのは、どう? フラワーバードソング」
あまりに落ち込む心春を見かねたのか、それとも深い意味はないのか。
フラワーが呪文を囁いた。
ソングとか言っているのは、さっきの心春の呪文を真似したんだろう。
囁きに合わせて、新しい空中ブランコが現れた。
持ち手も、座るところの板も、全部小花でできているのは、さすがのフラワー仕様。
で、肝心の持ち手の先にあるものは。
でっかい、ペンギン型のバルーンだった。
か、可愛い!
可愛いけど。
ペンギンは、空を飛ばないんじゃ?
なんで、それ選んじゃったの?
「す、素晴らしいです!」
落ち込んでいたい心春が、ものすごい勢いで立ち上がった。
え? 何が?
何が素晴らしいの?
確かに、素晴らしく可愛くはあるけど。
でも、なんか、そう言うことじゃないような?
「そう、そうです。これは、魔法なんです。本当は空を飛べないペンギンだって、魔法の力を使えば、空を飛ぶことができる。不可能を可能にする。あえて、空を飛べないはずのペンギンを使うことで、この魔法は絶対に破られることがないというイメージを固める。そう言いたいんですね?」
「ふふ」
まくしたてる心春に、フラワーは怪しく笑って見せるだけだった。
そう言いたかったのか、そうじゃなかったのか、よく分からん。
「
心春のお願いに、フラワーは答えず、ただ怪しく笑うだけだった。
はいなのか、いいえなのか、愛からず分からない。
でも、心春にはフラワーの言いたいことが通じたのか、それとも勝手な思い込みなのか。
「ありがとうございます!」
パッと顔を輝かせてお礼を言うと、心春はいそいそと新・空中ブランコに腰を下ろす。
んー。まあ、いいか。
これで、ようやく、出発できそうだしね。
と、思ったら。
「えっとー。解決した風なところに水を差すようで悪いんだけど。もしもの時のために、みんな星空ちゃんみたいに、道具なしでも飛ぶ練習してみた方がいいんじゃないかなー?」
はーいと片手を上げながら、月見サンが提案してきた。
あー、でも、確かに。
もし、空を飛んでいるときに妖魔と戦うことになって、空飛ぶ道具を壊されちゃったら。下手をすれば、そのまま真っ逆さまだよ。
道具なしでも飛べるように、体に覚えさせておくのも大事かも。その方が、きっと、咄嗟の時に対応できそう。
さすが、月見サン!
「いらない。花はわたしの一部だから。フラワースカイフィッシュとわたしは、一心同体。問題ない」
「私も、問題ありません。この魔法は、もう二度と、誰にも破られることはありませんから」
「あ、あそう……」
でも、月見サンの提案は、二人にあっさりと断られた。
月見サンが、気まずそうに手を下ろして、ポリポリと頬を掻く。
……………………。
まあ、本人たちが、ああ言ってますし。
フラワーはフラワーだから、自分で何とかしちゃいそうだし。心春もキラキラと自信に満ち溢れているし、大丈夫なんじゃないですかね?
たぶん。
「じゃあ、まあ、問題なさそうだし。行こっか!」
気を取り直した月見サンが、出発の号令をかける。
あたしたちはそれぞれ、闇空へと舞い上がった。
「しかしさー。サドル付きの二人乗りの竹ぼうきに、魚型のフラワーボード。それから、ペンギンバルーンの空中ブランコ・フラワーバージョン……」
「あー。どういう集団なんですかねー、これ」
「だよねー」
一番の問題は、あたしたちもその一員だということだ。