とりどり蛍光色に仄光る、シルクハットと星が散らばる野原。
そこにはもう、誰もいなかった。
白いセーラー服の妖魔も。
その妖魔に鎖で繋がれた女の子も。
誰も、いなかった。
あの後。
フラワーシートの上での対
まあ、とりあえず現場に行ってみようか、ということになったのだ。
魔法少女を喰らう、とか言っている妖魔を野放しにしておくわけにはいかないし。
これ以上、被害魔法少女を生み出さないためにも。
そして、これ以上、華月に力をつけさせないためにも。
場所は。
あたしはもう、さっぱり全然覚えていなかったんだけど。
だって、滅茶苦茶に、飛んで逃げて来たし。
でも、
自分を笑い死にさせた花火が上がった場所を。
てなわけで、月見サンの案内で、あたしたちはフラワーシートを降りて、それぞれの飛行方法で(竹ぼうきはフラワーが持っていてくれたので、あたしと月見サンはまた二人乗りだ)、例の場所に来てみたのだ。
関係ないけど、心春のペンギンバルーンを不思議そうに見つめていた
で。例の場所に来てみると。
シルクハットと星の残骸はまだ残っていたけれど、華月とあの子はもういなくなっていた。
華月たちは、たぶん空を飛んだりは出来ないはずだから、そんなに遠くへは行けないはずなのに。空から、ぐるっと周囲を一回りしたけれど、それらしき人影(妖魔影?)は見つからなかった。
「もしかしたら、“道”が使える妖魔なのかもね。だとしたら、厄介ね」
「ああ! それにしても! お二人の愛のカケラが、あんなにも散らばって……!」
捜索失敗を確認し合っていたら、
心春のことは当然のように無視して、かろうじて聞き取れた、“道”っていう単語が気になったので雪白に聞いてみる。
「“道”って、なあに?」
「“道”が使えるのかー。確かに、厄介ねー」
今度は、あたしと月見サンが被った。
え、でも、あれ?
月見サンも、知ってるの?
「はーい! あたしが説明しまーす!」
これ以上の発言被りを避けるためか、月見サンが片手を上げて宣言した。
フラワー以外のみんなの視線が月見サンに集まる。
心春も、“道”には興味があるみたいで、自分の愛を讃える発言を流されたことは気にしていないみたいだ。
「“道”っていうのはねー、流派によっては“扉の術”とか言ったりもするみたいでね? なんか、扉を通じて自分で歩くワープみたいなー、オカルト的な技術のことです! んーと、つまりー。扉の向こうには、空間を捻じ曲げて作った“道”があってー。その“道”を使えば、三日かかる場所に10分で着いちゃったりとか、そんな感じのやつ!」
え? よく分からなかった。
えーと、つまり? 科学なの? オカルトなの?
某猫型ロボットの便利な扉アイテムとは、関係あるの? ないの?
「つまり、扉と扉の間に道があるタイプの“どこでも〇ア”ってことですか?」
「あ、それ! まさにそれかも! ま、行き先は固定で、好きに選べるってわけじゃ、ないみたいだけどね!」
小首を傾げる心春に、月見サンがピッと両手の人差し指を向けた。親指と人差し指を立てた、銃をまねた指ポーズで。
心春、あの説明で分かったんだ。
すごいな。あたしは、心春の説明でようやく、なんとなく理解したよ。
「ま、扉って言っても、ただの黒い楕円だけどね。中は見えないから、道っていうのがどうなっているのかは、あたしも知らないんだよねー」
「あ! それ! サトーさんが使っていたヤツ!」
黒い楕円と聞いて、あたしは思わず叫んでいた。
あたしは、それを見たことがある。
アジトの近くの荒野で、自称魔法使いのサトーさんと出会った時だ。何にもないところに、いきなり黒い楕円が現れて、サトーさんはそこから、にょっと出てきたのだ。あたしに気が付いて、しばらく荒野でお話をして、お別れをした後。サトーさんの少し前側に、また黒い楕円が現れて、サトーさんは楕円の中に入っていった。サトーさんと、サトーさんが引いていたリヤカーが楕円の向こうに消えると、楕円もまた姿を消した。
あれが、そうなんだ。
あの黒い楕円の向こうに、“道”が続いていたってこと、なんだよね? その“道”を通って、その“道”の先にある楕円から、違う場所へ行く…………ってこと、なんだよね?
あの時、サトーさんは、どこから来てどこへ向かったんだろう?
そして、すっかり忘れていたけれど、あの時確かサトーさんは。
「あと、確か、サトーさん! ま、魔法少女くずれが、魔法少女狩りしているから気をつけろって、その時言ってたーーー!!!」
思い出して、続けて叫ぶ。
今度は、闇空いっぱいに響き渡るくらいの音量で。
話の半分は嘘だって、自分でも言っていたサトーさん。
だから、もしかしたらデマかも? っていうのもあったし。
魔法少女は全員抹殺! とか言ってる魔法少女(本人の実力により、放っておいても実現はしなさそうなので、一応問題なし)もいたりしたので、てっきりその子のことを大げさに言っているのかな、と思ったりもして。
すっかり、忘れていたよ。
忘れていたけど。
あれって、もしかして。
華月のことだったの?