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第59話 魔法少女は、闇鍋がお好き?

 なーんか、妖怪たちのお祭り会場に紛れ込んじゃったみたいだなー。

 なーんて。

 まあ、ある意味。

 その通りだったりするんだけど。

 妖怪っていうか、妖魔だけど。まあ、闇底では妖魔っていうだけで、たぶん、同じような感じのあれなんだと思うし。


 闇底限定・妖魔たちの市場である、闇鍋。


 市場と言うからには、妖魔がたくさんいるんだろうし。妖魔がたくさん集まれば、同じ妖魔同士の情報も集まるだろうということで。あたしたちは、月華つきはなのコスプレ(?)をして魔法少女を狩る妖魔、華月かげつの情報を求めて、闇鍋への潜入捜査を決行することにしたわけですが。

 闇鍋に潜入というか、突入? するための条件として、月見サンが出した条件。

 それは。

 あたしを真ん中に。月見つきみサンと心春ここはるの三人で、仲良く手を繋いで回ること、だった。


 なんて言うか、これってさ。

 ポジション的に言って。お父さんとお母さんにサンドされた小さい子みたいじゃない?

 だから、最初はものすごく気恥ずかしかったんですが。

 なんか、羞恥プレイっていうの? そんな感じで、頬を赤らめてうつむきながら、両脇を固める二人に手を引かれるままに歩いているしかなかったんですが。

 それに、衣装的にもなんて言うか、こう……ね?

 真ん中のあたしは、青空(名前は星空ほしぞらだけどね)をイメージした感じの正統派魔法少女。

 あたしの右には、バニーガールとマジシャンを合体させちゃった風な月見サン。

 左には、妖精風魔法少女衣装の妹系魔法少女の心春。

 いや、衣装がアレなのは、月見サンだけだな。

 …………月見サンだけだよね?


 なんだけど。まあ、なんか。

 ちょっと、闇鍋を歩いただけで。

 そういう。何やかや、って言うか。なんかとにかく、いろいろと。

 割と、どうでもよくなってきました。


 だってね?


 注目を浴びては、いる。

 いるんだけど。

 それって言うのは。

 別に、三人で手を繋いでいるのがどうとか、そういうんじゃなくて。

 漏れ聞こえてくる会話から察するに、単にマホーショージョが物珍しいだけみたいなのだ。手を繋いでいることに対するコメントは一つも聞こえてこなかった。衣装に関するコメントも、特になんもなかった。

 まあ、あれですよね。

 相手は、妖魔なわけですしね。

 きっと、いろいろと感覚が違うってことですよね。

 うん。よく考えたら、別に知り合いに見られるわけでもないしね。ここで見られる心配のある知り合いって言ったら、先に潜入している月華と雪白ゆきしろとフラワーしかいないわけで。

 月華はさ。ほら。そういうの、全っ然、気にしなそうだし。

 雪白はそもそも妖魔だし。

 フラワーは。視線は月華に完全にロックオン状態で。たぶん、あたしたちには気づきもしないような気がするし。


 そう考えたら、なんだかどうでもよくなって、ようやくあたしは顔を上げて、お祭りの様子を見て回れるようになった。

 いや、お祭りじゃなくて、市場なんだけどさ。

 月見さん曰く、“なんちゃって市場”の、闇鍋。

 市場って言うより、お祭りっぽいから、“なんちゃって”ってことなんだろう。たぶん。


 で。その闇鍋には、結構な数の人……じゃない、妖魔が集まっていた。けれど、あたしたち三人で、横並びで歩けないほどではなかった。

 いろんな妖魔がいた。

 今まで、見たことないような妖魔が、たくさんいた。

 屋台を出しているのも、石畳の通りを行き交うのも。

 初めて見る妖魔ばっかりで、ついキョロキョロしてしまう。

 屋台で売っているものよりも先に、まずそっちが気になる。

 あたしが今まで出会った妖魔は、どっちかというと獣系とか昆虫系とかが多かった。

 でも、ここにいるのは。

 市場でお買い物をするくらいだから、知能が高い妖魔が集まってるってことなのかな?

 ここ、闇鍋にいるのは、どっちかっていうと人間に近い感じの妖魔が多い気がする。


 たとえば。

 アニマル系魔法少女のルナみたいに、人間ベースにしっぽとお耳が生えている系とか。角が生えているのとか。

 トカゲっぽい妖魔なんだけど、大人の身長くらいあって、二足歩行しているのとか。

 …………クラゲのような、宇宙人のような、変な妖魔もいるな……。あれ、なんだろ? 妖魔なんだよね? 実は、闇底は宇宙からの侵略を受けているとか、宇宙との交信があるとか、そういうことじゃないんだよね? SFとオカルトの融合とか、そういうことじゃないんだよね?

 気になる……。

 ああー。でも、一番気になるのは、あれだよ、あれ。不思議の国のアリスに出てくるウサギさんみたいなのが、忙しそうにあちこちの屋台でお買い物をしている。服は着ていないけど、二足歩行で、身長はあたしの腰くらい? 白いのとー、黒いのとー。背中にカゴを背負っていて、なにやらいろいろお買い求めている。なんか、おつかいとかしているみたいで、すっごく! すっごく可愛いー!! ずっと、愛でていたい…………。


 なーんて、華月の情報を集めるどころか、屋台を物色することすら忘れて、ひたすらウサギさんたちを見守っていたあたしでしたが。

 同じなんだけど、それぞれ別方向にエンジンがかかった月見サンと心春によって、そんなわけにもいかなく――――って、ちょっとーー!!?


「あ。見て見て、星空ちゃん! あそこの屋台、折れた傘とか売ってるー。白と水色の水玉だよー、かっわいー♪ 魔法で直したら、使えそうじゃない? あ、あそこ! 使用済みっぽい乾電池が売ってるけど、あんなのどうするんだろ? 腕がもげたおもちゃのロボットまであるー。なんか、地上のゴミ捨て場から拾ってきましたみたいなラインナップだよねー。直して使えそうなもの、他にないかなー」


 そんなもの、この闇底で何に使うんですか!? 月見サン!


「ああ! 見てください、星空さん! あそこ! ガラスの小瓶の中に、ちっちゃいハートがいっぱい詰まっていますよ! 一口サイズのチョコとかアメみたいな感じですけど、ピンク色でピクピクしていて、とっても可愛いですね! 妖魔のお菓子なんでしょうか? はっ! まな板の上に、新鮮そうな心臓が! 黒いバラの痣みたいなのがありますね? 妖魔の心臓でしょうか? あっちも、まだドクンドクンいってますよ! すごいですね!」


 心春の感想は、なんかおかしい!

 ガラスの小瓶詰めのちっちゃいハートは可愛いかもしれんけど、ピクピクしているのは、可愛くないよ! むしろ、気持ち悪いよ! お願いだから、普通に瓶詰されてて!! 大人しくしてて!!

 あと、まな板の上の心臓って何!?

 なんで。なんで、そんなの見つけちゃうの!

 見ない! あたしは、見ないから!

 きっと、それは、乾電池で動いている、人体ならぬ妖魔模型のパーツなんだよ! ほら、使用済み乾電池の使い道見つかった! 使用済みだけど、きっと、ほら! 代わりに魔素が込められてるんだよ! 魔素式乾電池で動いている心臓型のパーツなんだよ!

 だから、何にも怖くない!

 気持ち悪いけど、怖くない!!


 てゆーかーー!!!

 二人同時に、反対方向に引っ張らないでぇー!!

 裂けるー! もげるー!

 裂けるーー!! もげるぅーー!!

 裂けるーーー!!! もげるぅうーーー!!!


 二つに裂けたあたしが右側と左側の屋台でそれぞれに売られているのとかうっかり想像しちゃって笑えないー!

 売ったのはもちろん、月見サンと心春だー!!!


 泣いても喚いても、二人とも全然聞いてくれないって言うか、全然聞こえてないよ!

 二人とも、屋台に夢中になりすぎ!

 あたしだって、もっと好きに見たいのにー!

 せめて、どっちか、手を放してよーー!!

 二人とも、がっちり握って放してくれないしーーー!!!


 うわーん!

 このままじゃ、妖魔に捕まって商品にされる前に、二人に真っ二つに引き裂かれて商品にされちゃうよー!!


 なんて。そんな。


 そんな風前の灯のあたしの命を救ったのは。

 心春が見つけた、とある屋台だった。


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