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第61話 三人そろって!

心春ここはるが、うっかり妖魔殲滅祭り❤とかやっちゃわないようにー、ちゃんと手を繋いで見張っててねー』


 って。

 月見つきみサンに頼まれていたのに。

 いつの間にか手を放しちゃっていて。それどころか、すっかり野放しにしていたらしきことに気が付いたのは。


 月見サンと手に手を取り合って、盛大にガクブルしている真っ最中のことだった。




 …………何があったかって言うとね?




 あの後。

 あの、イカ型妖魔炙り焼き事件の後。

 なかなか、あの衝撃が抜けなくて、あたしたちは呆然と市場の中を歩いていた。

 あたしたち……って言うのは、あたし・月見サン・心春の三人のはずだったけど。ずっと三人で歩いているつもりだったけど。実際には、あたしと月見サンの二人だけだった。

 心春がいなくなっていることにも、気が付かないまま。

 あたしは、月見サンと二人で闇鍋市場の中をフラフラ歩いていた。

 華月かげつの情報を集めるどころじゃなかった。

 脳内で何度もイカ妖魔が炙りにされていくところがリピート再生されて、お店を見て回ることすらできなくて。

 いつの間にか一番奥の、壊れた鳥居へと続く階段の手前まで行って、いつの間にか折り返してきていたらしい。

 随分、歩いたはずなのに、騒ぎが起きた時には、入り口近くへ戻って来ていた。

 そして、次なる事件は。

 闇鍋大通りの入り口から始まった。


 それは。

 イカ妖魔の炙りすら遠くへ追いやられる、ショッキングな映像だった。


 だって。

 だって。

 だってだよ?


 カエル。

 イボイボ。

 でっかい。


 三拍子そろっちゃってるんだもん!

 どうして、そろえちゃったのー!?!?


 カエルというだけで気が遠くなるのに、イボイボとか! 気持ち悪さ倍増!!

 あと、大きさ!

 何あれ?

 軽トラックくらいあるんですけど!?

 あたしたち三人が、余裕で乗れる大きさなんですけど!?

 いや、乗りませんけどね!


 そんな、狙われたら丸呑み確定なビッグサイズのカエル野郎が現れたんだよー!!


 お客さんとしてではなく。

 売り子さんとしてでもなく。


 お腹がすいたから一狩りしようかな、みたいに。

 いらっしゃったんですよーー!!


 長い舌がベロンと飛び出て、辺りを一閃!

 …………一閃って、使い方あっているよね?

 まあ、とにかく!

 舌が触ったものは全部。お客さんも売り子さんも商品も、屋台そのものも!

 全部、巻き込んで、パックンごちそうさまですよ!


 “なんちゃって市場”って月見サンが言っていたのは、てっきり市場って言うよりもお祭りとか縁日みたいだよねー的な意味だと思ってたのに。

 もしかして、それって。


 市場だけど、一部の妖魔の方々にとっては、狩場というかエサ場です❤


 ――的な意味だったの!?!?


「づ、づぎみざーん!!」

「だ、だだだ大丈夫。これだけの騒ぎだもん。きっと、来てくれる、からっ」


 助けを求めて月見サンに縋りつくと、月見サンも真っ青になってあたしと同じくらいに震えていた。

 あ、あれ?

 月見サン、って。


「月見サン、カエル、苦手なんですか? 初めて会った時、カエルの妖魔、追い払ってくれましたよね?」

「あれは、もっと小さいヤツだったでしょ。あれくらいなら、なんとかなるけど。でも、あ、あああああ、あれは、ダメ! あれは、反則! 反則だよ! とてもカードで追い払える大きさの妖魔じゃないし! 倒すにしてもだよ? 切り刻んで、中身とか飛び出ちゃったらどうするの?」


 中身って。

 それは、確かに見たくないけど。

 月見サン、本気で震えてる。あたしよりも、震えてる。

 そう言えば、言ってましたね。初めての時も。

 カエルの妖魔は殲滅したいけど、中身が飛び出たら嫌だからできないって。

 本当は、カエル苦手だったんですね。

 なのに、助けに来てくれてありがとうございました。


 でも、そうしたら。どうしたら?

 はっ。そうだ。殲滅と言えば、心春!

 心春は? 心春はどこ行ったの?

 今こそ、出番だよ!

 もうホント、好きに殲滅していいから!


 てゆーか、こんな事態になったら、何をおいても殲滅に向かいそうなのに。

あたしの手を振り払ってでも、殲滅に向かいそうなのに。

 一体、どこ…………。


 ……………………いたよ。


 探すまでもなく、いたよ。

 結構、近くに。

 でも、こっちはこっちで、殲滅どころじゃない感じ。


「と、尊い…………」


 心春は、いた。

 割とすぐそこに。

 両手の握りこぶしを口元にあてて、頬を紅潮させながら、何かハアハアしてるんですけど。

 手と手を取り合って、震え合っているあたしたちを見て、ハアハアしているんですけど!?

 いや、これはこれで、安定の心春なんだけど!

 てゆーか、尊いって! 今は、そんな場合じゃ!

 あと、いつの間にお祭り……じゃない、闇鍋を堪能してきたのさ!?

 さっきまで、あのカエル妖魔が現れるまで、手を繋いでいたんじゃなかったっけ?

 なのに、なんでそんななの?

 両方の肘のところに、いっぱい袋をぶら下げてますけど?

 握りこぶしの先から、りんご飴っぽいものが突き出てますけど?

 やべー。随分、前から野放しだったみたいだよ。

 一人で闇鍋、満喫してるじゃん!



 …………とまあ、こういうわけです。



 こういうわけなんだけど。

 う、うう。

 怖くてカエルの方は見れないけど、なんか物音とか気配が近づいてくるよぅ。

 心春さん。そろそろ、殲滅モードに移行してもらえませんか?

 今こそ、殲滅の時だよ!

 なんなら、そのまま闇底のカエル系妖魔大殲滅の旅に出発してもらっても構わない。全然、構わない。むしろ、そうして欲しい。

 でないと、このままじゃ。

 あたしたちが、殲滅されちゃう!


「ちょ、こ、心春……、せん……殲滅っ」

「だ、大丈夫よ、星空ほしぞらちゃん。きっと、来てくれるから」


 え? 誰がですか? 月見サン?

 心春なら、ここにいますよ? そして、全然、役に立たなそうですよ?

 ホントのピンチになったら、動いてくれるならまあいいけど、まさかあの騒ぎに気が付いてないとか、そういうことはないよね?

 あたしと月見サンの妄想に夢中になるあまり、ヤバい妖魔が暴れていることに気が付いてないとか、そんなこと…………そんなこと。

 ありそうで怖い!


「大丈夫! 頃合い的に、そろそろなはず……! 信じて、待ちましょう」


 いや、だから、誰をですか? 月見サン?

 一体、誰が来てくれるって、あ、ああ!!


 そうか!

 月華つきはな。月華がいたよ。

 ここには今、月華がいるんだ!


 きっと。

 きっと、助けに来てくれる!


 そう思ったら、少しは震えも治まってきた。

 お返し、ってわけじゃないけど。月見サンを勇気づけるように、繋いだ両手に力を込める。

 いつも余裕な月見サンが本気で怯えているのがなんか可愛くて、つい口元に笑みが浮かんでしまう。それに気づいたのか、月見サンが軽く睨みつけてくるけれど、もちろん全然怖くない。


「ああ~~。せっかく、いいところなのに。他の妖魔の皆さんも、もう少し空気を読んで足止めに徹してくれればいいのに。そろそろ殲滅しないと、さすがにまずいですね」


 二人で心を温め合っていたら、心底悔しそうな心春の声が聞こえてきた。

 おい。心春さん?

 あなた、妖魔の狼藉に気が付いていましたね?

 あたしと月見サンを鑑賞するために、気づいていたのに、わざと放置していましたね?

 くっ。こいつ!


 唇をかみしめた時には、足の震えも止まってましたよ!

 ついでに月見サンも震えが止まったみたいですよ!

 だって、もうカエル妖魔の殲滅まで秒読み開始だし!


「あー、でも。もう少しだけ……。それに、もう少しピンチになったほうが、より二人の絆が深まるような……」


「いいから、とっとと殲滅しろーーー!!!」


「はいな。ここは、わたくししたちにお任せくださいな」

「そうそう。闇鍋の治安を乱す悪い子には、きっつーいお仕置きダヨ♪」

「まったく。店を乗っ取ったり、商品を無理やり奪ったりするくらいは、好きにやってもらって構いませんが。この闇鍋そのものを破壊するような行為は困ります。言っても聞かない方のようですし、ここは強制的に排除させていただきます」


 ブチ切れたあたしの叫びに答えて、カエル妖魔の前に飛び出てきたのは、心春ではなくて。


 超ミニスカートのおまわりさんの制服を着た、犬耳に犬しっぽが生えた、キレイ系お姉さんと可愛い系お姉さん。それから。

 黒くてブヨブヨしたゼリー状の何かを、おまわりさんの制服(男性用)に無理やり押し込めてみました、みたいな何か、だった。首のところからにょっと出たブヨブヨの上に、ちゃんと帽子も載っている。


「よかったー。来てくれたー」

「え? 月見サン、知っているんですか?」

「いやー、空から見てただけだから、知ってるってほどじゃないんだけどさー。でも、たぶん……」


 まあ、言われなくてもなんとなく分かる気はしますけど。

 答えは、本人たちがくれた。


「ふふっ。我ら闇鍋自警団!」

「三人そろってぇー」

「闇底戦隊・闇鍋ポリスターズ!」


 闇鍋……ポリスター……ズ……?

 なんじゃ、そりゃ。

 三人……いや、三匹? は、カエル妖魔じゃなくて、あたしたちの方を向いて、それぞれ思い思いのポーズを決めた。

 お姉さん二人は、戦隊ものというよりはグラビアアイドルみたいなポーズだけど。セクシーなのとキュートなのと。男子がいたら、喜んだと思うけど。

 そして、黒ゼリーは、なんかもう。

 人体ではありえない曲がり方のポーズを決めているのが、とにかく気持ち悪い。


 う、うん。

 まあ、妖魔だから仕方ないのかもしれないけどさ。

 もうちょっと、こう。

 いろいろ。全体的に。


 何とかならなかったの?



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