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第63話 それぞれの愛と闇鍋屋台

 瞬殺だった。


 黒ブヨの呼びかけに、答えもなく突然現れた月華つきはなは。

 カエル妖魔の斜め頭上から。

 いつものクールな無表情で、手にしていた三日月のブーメランをカエル妖魔に向けて放った。


 真っ白い鳥の羽を生やした膝下丈セーラ服の女神様降臨――っていうよりは。

 闇底を照らす、月そのものみたいだって思った。


 綺麗で。無慈悲で。

 視線も心も吸い寄せられる。

 きっと、かの有名なかぐや姫よりも、月華の方が綺麗だ。

 綺麗で、カッコいい。


 放たれた三日月は、一度も月華の手に戻ることなく。

 カエル妖魔の巨体を、解体していった。


 ザシュッっと切り裂いては、空中で自動旋回して、またカエル妖魔に向かっていく。


 ザシュッ。クルッ。

 ザシュッ。クルッ。


 っていうのを、ものすっごいスピードで何度も繰り返して。


 カエル妖魔をただの積み重なったサイコロ状の肉片に変えてから、月華の手の中に戻る。


 月華は、何の感慨もない眼差しでサイコロの山を一瞥すると、一言もないまま飛び去った。

 飛び去って、闇鍋のメイン通りを外れた路地っぽいところへと降りていく。

 月華を呼んだはずの黒ブヨや、その仲間の犬のミニスカポリスたちには、視線を走らせることすらしなかった。

 呼ばれたから来たっていうよりも、たまたま通りすがっただけ、みたいに。

 月が気まぐれを起こしただけ、みたいに。

 お空へ還るんじゃなくて、路地裏へと飛んで行ったけど……。


 …………月華の後を、花に包まれた物体が追っていったことは、見なかったことにした。



 あまりにあっという間すぎて、呆然としているうちに。

 あたりには、少し前までの賑わいが戻って来ていた。


 避難していた妖魔たちが大勢戻って来て、サイコロの山を片付けている。

 片付けている……?

 ち、違う! 違うよ!

 お片付けにもなっているけど、清掃ボランティア的な感じで来てくれたわけじゃない!

 ちゃっかり、屋台の商品にしてるよ。もう、お店に並んでるよ。棒に突き刺したサイコロの炙りを食べながら歩いている妖魔までいるよ。さっそく、お買い上げだよ。

 直接、山でお食事している妖魔もいるし。

 ……今なら、サイコロ山に行けばただで手に入るのに。屋台で買っている妖魔もいるのが驚きだよ。炙りにはなっているけどさ。


 そ、それにしても。

 さっきまで、我が物顔で、闇鍋でお食事というか、闇鍋をお食事していたカエル妖魔が、今は。さっきまで自分が脅かしていた妖魔たちに、逆にお食事にされちゃうとは。

 カエル妖魔に更地にされたスペースにも、いつの間にやら、またお店が出てるし。

 まあ、どこで手に入れて来たのか分からないけど、ござを引いて適当な木箱みたいなのの上にサイコロ並べてるだけだけど。

 闇鍋妖魔、たくましい。


 あと、ふと気が付けば、いつの間にやらキノコ屋台が建っていたりするけど。

 でっかいくの字型の、かさの大きなキノコがどーんとあって。そのかさを屋根にして、背が低くてかさが広いキノコをテーブル代わりにした、完全なるキノコ屋台。あちらこちらに、商品なのか飾りなのか分からないキノコも置いてある。もちろん、テーブルの上に並んでいるのもキノコだ。こっちは、カゴに入っている。たぶん、これは商品なんだろうな。

 どれも淡く発光していて、目立つことこの上ない。提灯いらず。

 製作者はもちろん、心春さんで、やり遂げた笑顔でテーブルの向こうに座る大きなネズミっぽい妖魔と握手を交わしている。

 なんなら、このままここに永住してもらっても構わないんだけど。経営は、妖魔さんにお任せするらしい。

 妖魔はみんな、殲滅するんじゃないのか……?



「お待たせしました。でも、見てください! 闇鍋にキノコ愛を普及するための第一歩を踏み出しましたよ! 広く闇底中にキノコ愛を普及するために、私はここに残ることは出来ませんが、妖魔に経営をお任せすることが出来ました! 今後は定期的に様子を見に来て、店舗を広げたり、二号店を開店したりしていきたいですね!」


 タタッとこちらに駆け寄ってきた心春ここはるが、嬉しそうに笑顔で報告してくれた。

 うん。そうみたいだね。見てたから、知ってる。

 なんか、この子。謎の行動力があるし、その内本当に闇底中がキノコにまみれそう……。


 はっ! 待って?


 感心している場合じゃないんじゃない?

 心春がキノコ愛なら、あたしだってコロッケ愛では負けないよ?

 ここは、まねっこになっちゃうけど、あたしもコロッケ屋台を建てて、コロッケを普及させるべきじゃない?

 コロッケの壁に、コロッケの屋根。コロッケの椅子に、コロッケテーブル。もちろん、商品はコロッケで! お店をお任せするのは、うーんと。そうだ! コロッケの妖魔とかはどこかにいないんだろうか? これぞ、キノコ以上に完璧すぎるコロッケ屋台! 愛!

 あー、でもだめだ。コロッケを売り物にするなんて耐えられない。むしろ、あたしが全部食べたい!

 あたし、あたしは!

 お店の人になるよりは、コロッケ屋台のお客さんになりたい!

 そして、貪りつくしたい!


「あ、そうでした。カエル妖魔が何か面白い商品を食べたりしていないかと思って、サイコロの肉片の山を調べていた時に、こんなものを見つけたんです。魔素を帯びていたりはしないんですけど、何か不思議な力を感じて。お二人は、何かご存じないですか?」


 そう言って、いつの間にか肩に下げていた綺麗な緑色のポシェットから心春が取り出したモノが目に入って。

 見悶えていたあたしは、コロッケドリームから一気に闇底の現実へと引き戻される。


「んー? 何かのカケラ? 魔素を帯びていないってことは、地上から流れて来たものかなー? でも、不思議な力って、どんな力? あたしには、特に何も感じられないけど。星空ちゃん、何かわかる?」


 首を傾げている月見つきみサンの言葉は、聞こえていたけれど脳内をスルーしていた。

 だって、だって。

 それは。


「魔女のカケラ!」


 あたしは叫びながら、心春の右手首をガシッ両手で握りしめる。

 心春の右の親指と人差し指の間につままれている、それは。


 いつだったか。

 洞窟の奥で暮らすジャージの魔女が集めているという。

 例のカケラ――だった。


 そういや、集めて来いって言われてたよね。

 すっかり、忘れてたソレが、こんなとこに!?


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