「や! やや!? やややややや!?!? あ、あなた、一体、それを、どこで? いえ、いいです。言わなくても、分かります。あの闇鍋を襲った不埒な妖魔の体内から発見したのですね? やはり、あの妖魔はカケラに汚染されていたのですね! 道理で、我輩たちの力が効かないはずです! そうです。そうですとも! あの程度の妖魔相手に、神である我輩たちの力が効かないなど、本来あっていいはずがありません! そうでしょう。そうでしょうとも! やはり、カケラのせいでしたか! カケラのせいならば、仕方がありません! そう、断じて! 神としての我輩の力が弱まったとか、そういうことではないのです! うんうん。いやー、良かった」
いきなりシュバっと現れて、手を伸ばせば触れそうな至近距離で、体をブヨブヨ震わせながら熱弁を振るい始めた黒ブヨに、あたしは
てゆーか、なに? なんなの?
カエルがサイコロになってから姿を見なかったから、てっきりもういなくなったと思っていたのに。
まだいたの? それとも、また来たの?
てゆーか、近い。もっと離れて。
近くで見ると、おまわりさんの制服を着てブヨブヨしている黒いゼリー状の何かは、気持ち悪いのを通り越して、おぞましい。
ホラーなゲームとかに出てくる、敵キャラみたい。ほら、ザコっぽい感じの。
「神って、邪神とか祟り神とか、そういう類のあれですか?」
その時。
心春の、空気を読んでいるんだか読んでいないんだか分からない、一見(一聴?)無邪気な発言が放たれた!
ちょ! 心春、いきなり何を言ってるの!?
黒ブヨが怒って、ブモモモモっとかなったらどうするの――!?
黒ブヨっていっても、神様なんだよ! 一応! 本人が言うには!!
という、抗議の意味を込めて、握りしめたままの心春の手をブンブン振ってみたけど、心春は全く気にしてない。
「な、何を言うのですか! 失敬な!」
「ふっふふー。まあ、でもー。あながち間違ってないですよねー」
「本体は、お社ごと埋まってるし。一部は穢れと合体してるもんねー」
「ぐっ。ぐぬぬぬぬ……」
案の定!
あたしたちに向かって、黒ブヨは両手を振り上げる。思わず、心春から手を放して、ひゃーと頭を抱え込む。
だが、その時!
思わぬ援軍が現れた。太郎さんと次郎さんだ。二人はいずこからともなく現れて、黒ブヨの両脇にシュタッと降り立ったのだ。それも、心春の言い分を認めちゃってるような発言をしながら。気を削がれたのか、黒ブヨの両腕は振り下ろされることなく、そのまま黒ブヨの頭上で海藻のように揺らめいていた。特に幻想的とか、そういうことは全くなかった。
でも、そっか。
闇鍋市場の奥にある階段の上の壊れた鳥居っぽいもの。あれは、本当に鳥居だったんだ。
その奥は、得体の知れない闇に覆われている感じだったけど。
あそこにお社があったなら、なんかもう間違いなく、闇底にふさわしく邪神が眠っていそうな雰囲気だったけど。
まあ、でも。気持ち悪くておぞましいけど、黒ブヨはそんなに悪いモノには思えない。
見た目は、邪神の手下のザコ敵キャラって感じだけど。太郎さんと次郎さんとの会話を聞いている限りでは、ちょっと厨二が入っている、うだつの上がらない自警団員って感じだし。
「ま、まあ、我輩のことはいいのです。それよりも、今は! カケラですよ! カケラ!」
「たまーに、闇鍋に出回るんですよねー」
「妖魔が食べると、大体、さっきみたいな大惨事になるんだよねー。困ったもんだ」
「カケラは、良くも悪くも妖魔に変容をもたらしますからね。先ほどのように、身体能力が強化される場合もありますが、過去には、暴れん坊の妖魔がカケラを飲み込んだ結果、みなを虜にする愛されマスコット系妖魔になってしまったこともありました。みなが愛玩したがって、あれはあれで大騒ぎでした」
黒ブヨが、遠くを見つめる…………ような気配を漂わせた。
カケラって、一体……。
てゆーか、今回も出来ればそういう感じになってほしかった。心の底からそう思う。
「それで、結局、これは何のカケラなんですか?」
心春が、指でつまんでいたカケラを目の高さまで持ち上げる。
そうそう、それだよ。
と思って、何か知っていそうな黒ブヨを見つめたら、目が合った……ような気がした。慌てて目を逸らして、気が付く。
みんなの視線が、あたしに集中していることに。
さっきまで、しげしげとカケラを眺めていた心春の視線も、あたしへと向けられている。
え? あたし?
黒ブヨじゃなくて?
困惑して挙動不審に陥っていると、
「さっき
あー。確かに。
言いました。言いましたね。
それで、みんなあたしを見ているのか。
うーん。でも、困ったな。
あたしも、カケラが何かは知らないっていうか。
むしろ、あたしも知りたいっていうか。
集めたら、教えてもらえるかもっていうか。
えーと。
なんて、説明しよう。
ああ! 闇底にはテストはないはずなのに!
今。あたしの国語能力が問われている!