「えっとね。洞窟に住んでいるジャージの魔女さんにカケラを集めて来てって頼まれて。えっと、カケラは何かのカケラなんだって、魔女さんは言ってた!!」
説明に一切、間違いはない。
間違いはない、はずだけど。
そもそも、その何かが何なのかを知りたいんだって言うのも、分かってる。分かってはいるんだけど。
これって、テストだったら何点くらい?
何か言いたそうに口を開きかけて、気まずそうに視線を逸らすの止めてくれませんか!?
そんな、あたしが残念な子みたいに。否定も出来ないけど。
だって、でも。間違ってはないんだよ? 本当に、今の説明の通りなんだよ?
要約すると、魔女のカケラ!
本当に、それしか分からないんだよー。
むしろ、黒ブヨの方が何か知ってるんじゃないの?
自称だけど神様なんだし。
チラッと黒ブヨを見ると、黒ブヨは腕らしきものを顎らしきところに当てながら頷いていた。
「なるほど」
な、何か納得している。
え? 今の説明で、一体何が分かったの?
「やはり、カケラは魔女に縁の品だったのですね。神である我輩の力が通用しないことから、そうではないかとは予測していましたが」
「え? 神様よりも、魔女の方が強いんですか?」
一人納得している黒ブヨに、
まったく同じことをあたしも思ったので、うんうんと頷きながら黒ブヨを見つめる。
「…………神など、所詮は世界の構成物にすぎませんが、魔女は世界を超越していますからね。世界を創ったのは、魔女だとも云われているくらいです」
「……………………」
あたしたちは、口をポカンと開けて黒ブヨを見つめた。
いや、だって。ねえ?
世界を創ったのは、神様じゃないの?
神様って言っても、黒ブヨとは違う神様なんだろうけど。えっと、キリスト教の神様? 聖書に書いてあるんだっけ? うん、よく知らないけど。なのに、魔女? 神様はなんとなく男の人のイメージだったけど、実は女の人だったとか、そういう話? それとも、神様界では、そういう宗教が流行っているとか? いや、神様なのに、宗教?
新説に混乱していると、黒ブヨはさっきまでのどこか砕けた調子から、少し畏まった感じに態度を改めて、こんなことを言ってきた。
「魔法少女全員が、魔女と関りがあるわけではないようですが。そちらの、のほほんとした顔の貴女は、魔女からカケラの探索を依頼されていたようですし、そのカケラは貴女方がお持ちください。それでは、この場は治まったようですので、我輩たちは場内の警備に戻ります。行きますよ、太郎、次郎」
「はいな」
「はーい」
黒ブヨは、軽くあたしに頭を下げると太郎と次郎を引き連れて、一番近くにあった路地の向こうへと消えていった。
か、神様かもしれないナニカに頭を下げられてしまった。
恐れ多い、かどうかは微妙!
「何か、最後にとんでもない爆弾を投下していったよねー」
「はい。どういうことなんでしょうか?」
黒ブヨたちの姿が完全に見えなくなってから、あたし同様呆気に取られていた月見サンと心春がさっそく首を捻りだす。
あたしもいろいろ気になるけど、ここは黙って二人の考えを聞いていることにしよう。
神様が信じている宗教説は、さすがにないと思うしね。
「うーん。世界っていうのが、この闇底世界のことを言っているなら、有り得る話じゃない? 闇底を創ったのは、魔女と呼ばれる何者かであるってことで。えっと、ほら? 力の強い陰陽師とか霊媒師とかそういうオカルト的な凄い人で、女性だから魔女って呼ばれていて。で、その魔女が創った世界である闇底内では、神様よりも魔女の力の方が強いとか」
「確かに、そういうことなら、納得できますね。でも、そういうニュアンスではなかったと思います。それに、あの自称神は、魔女は世界を超越するとも言っていました。自称神の言っていた世界というのは、闇底限定という意味ではないと思います」
や、やべえ。
話を聞いていることにしようもなにも、そもそも話に入れない。
「自称神様でさえ倒せなかったカケラ妖魔を、
「それもありましたね。月華も魔女である…………いえ、そういう感じではなかったですね。だったら、カケラを魔女に渡してではなく、月華先生にお渡しくださいとか言うでしょうし。少なくとも、自称神は魔女と月華を別人物だと認識しているように感じました」
「そうねー。まあ、
「その線は有り得そうですね! ふふ。世界を創った魔女と月の化身であるかのような月華。それはそれで、素敵な組み合わせですね。ところで、星空さん! その魔女とは、一体どんな方なんですか!?」
あたしには少し難しい話を、真剣に、でもどこか楽しそうにしていた二人だったけれど。最後に心春が違う方向に振り切った。心春方向に振り切った。
らんらんと輝く瞳で、あたしの両肩をガシッと鷲掴む。
「え? えっと、エンジのジャージを着ていて、薄紫の髪で、不思議な感じの、冷たい湖の底みたいな感じの、見た目は女の子だけど、中身は年齢不詳な感じの子だったよ?」
「ふ、ふぉおおおおおおお! 冷たい湖面に浮かぶ月の影! なんて、素晴らしい取り合わせ! これはもう、実物にお会いするしかない! カケラを拾ったのは私なんですから、魔女に会いに行くときは、私も同行してもいいですよね? このカケラは、それまで私がお預かりしておきますから!」
熱く怪しく滾りながら、心春は手にしていたカケラを大事そうに、緑のがま口ポシェットにしまい込む。
あたしは心春に揺さぶられながら、がくがくと頷いた。
カエル妖魔に食べられちゃったカケラは触りたくないから、そうしてくれるとあたしも助かるし。
「えっとぉ、星空ちゃん? 一部、不思議なところがあったんだけど? その、魔女は、本当にジャージを着ていたの?」
「いいじゃないですか! 湖の底のようなミステリアスな女の子がジャージを着ているというのも、またそそります! それに、月華もセーラー服ですし! あ! 伝説のブルマというのも捨てがたいかも!」
月見サンのなぜか遠慮がちな質問に、心春があたしをゆさゆさしながら意味不明なことを答える。伝説のブルマってなんだ?
興奮している心春の手を何とか振りほどいて、あたしは月見サンの背中へと逃げる。
心春は「私ったら、月見さんの目の前で星空さんといちゃつくなんて! 申し訳ありません!」とかなんとか叫んでいたけど、軽く無視する。
「えーと、洞窟に住んでるのよね? その洞窟って、どの辺にあるの?」
「はい。アジトの割と近くだったんですけど、ルナが見つけてきて。大きい山の向こうの洞窟の奥に、古代遺跡の扉みたいなのがあって。自動ドアみたいに、シュッて横に開く扉だったんですけど。中は、ファンシーでガーリーな憧れの女の子のお部屋で、魔女とお茶会しました。すごいんですよ。一瞬でお茶とかお菓子とか用意されて。すっごく、美味しかったです」
魔女のお部屋でのお茶会を思い出して、心春よりは控えめな興奮を交えて一生懸命説明したんだけど。
月見サンは、黙り込んで少し考えた後に。
力強く宣言した。
「うん。この件が片付いたら、さっそくその洞窟に行ってみよっか! あたしもその魔女に会ってみたいな!」
あたしの話を聞いて興味を持ったとかなら嬉しいし、説明した甲斐もあったんだけど。
どっちかというと。あたしの話を聞くよりも、実物に会いに行った方が早いな!
みたいな感じだった。
……説明に間違いはないんだけどなー。
本当に、その通りなんだけどなー。
日本語って、難しいなー。