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第66話 闇鍋の路地裏

 心春ここはるにエスコートされて。

 月見つきみサンと二人。

 キノコロードを歩いていた。


 場所は。

 闇鍋市場の路地裏。


 道行く妖魔や、怪しげな露店を営む妖魔たちの視線が痛い…………と言いたいところだけど。

 幸いにして微妙に納得いかないことに、妖魔たちの視線は、心春がばらまく発光キノコの方に釘付けになっていた。いや、別に注目されたいわけじゃないんだけど、まったく見向きもされないのも、それはそれで寂しいというか。ホントのホントに見向きもされてないなら、それはそれでいいんだけど。

 キノコは注目を集めているのに、あたしたちはスルーかー……というのが。

 ちょっと、寂しい。

 そんなあたしの、ブルーでアンニュイな気持ちをよそに。

 右へ。左へと。

 あたしたちの前を歩く心春は、まるで花咲じいさんのように、仄かに光るキノコをばらまいていく。


 一体全体。なんで、こんなことになっているのかと言うと。

 話は、たいして遡らない。



 カエル妖魔の事件が片付いた後。

 闇鍋の様子もなんとなく掴めてきたし、そろそろあたしたちも路地裏に行ってみようか、ということになったのだ。

 目的は、もちろん。

 すっかり忘れていた、華月かげつの情報収集だ。

 ん、んん。いやいや、ちゃんと覚えていたよ? 主に、月見サンが。


 路地裏は、治安(闇鍋にそもそも治安なんてものがあるのかは置いておいて!)が悪そうでちょっと怖いけど、近くに月華がいるから、何かあったら呼べばすぐに助けに来てくれそうだしね。

 あたしたちは(というか、主にあたしは)思い切って、路地裏へと突入してみることにしたのだ。怖いけど、ちょっと興味はあるし。


 魔法少女は夜目が利くから、ホタルモドキもいなくて提灯もほとんどなくて、とりわけ薄暗い路地裏も問題ないと言えば問題ないんだけど。

 見えるとか見えないとかじゃなくて、もう雰囲気だけでビクビクしていたら心春が、


「そんなに怖いなら、あの何とかライトでピカーってやったらいいんじゃないんですか?」


 とか、言い始めて。

 その手があったか! とか思って、さっそく実行しようとしたら、


「いやいや! それやったら、情報収集どころじゃなくなるから!」


 って、月見サンに止められて。


「でしたら、私がキノコ型の懐中電灯で……」

「いや、それも絵面的にどうかと思うから、却下で」


 なんて、やり取りが二人の間であって。


 最終的に、キノコシャワーがばらまかれることになったのだ。

 どうしてそうなったのかと言えば、ノリと勢いとしか言いようがない。


「分かりました! では、私がお二人のこれからの道先案内として、この路地裏に立派なキノコロードを築いてみせます!」

「任せたわ! 心春ちゃん!」


 キノコが絡んでいる時点で心春がノリノリなのはもうしょうがないと思うんだけど、なんか月見サンまでやたらとテンションが高めで(まあ、割といつもそうと言えばそうなんだけど。いつもに増して、というか)、正直あたしは滅茶苦茶置いて行かれた感半端ない。



「ふ、ふふ。うふふふふ」


 不気味な笑い声とともに、先を歩く心春がいつの間にやら用意された小さな発光キノコが山盛りのバスケットからキノコを掴んでは宙にばらまいていく。

 小さなキノコたちは、んー、大きさは飴玉くらい? で、キノコたちは、薄暗い路地裏を仄明るく照らしながら、地面へと落ちていいき。

 そこで消え去る……のではなく、たくましく根を下ろしにょきにょきと成長を始める。

 路地裏にキノコロードを築くというよりも、路地裏がキノコロードになったって感じだ。勝手にこんなことして、誰かに怒られたりしないんだろうか?

 ハラハラしている内に、気が付けば月見サンに腕を組まれていて、出来たばかりのキノコロードを歩いている事態!

 えーと。あたしたちは、一体どこへ向かっているの?

 妖魔さんたちはと言えば、はじめはぽかんとした様子で、仄光るキノコを見つめていたけれど、その内、キノコが魔素たっぷりであるということに気が付いたのか、我先にと出来たばかりのキノコロードに押し寄せて、むしっては食べ、むしっては食べ。


 ……………………。

 本当に、これ、一体何なの!?

 二人とも、何がしたいの!?

 心春はともかく、なんで、月見サンはにこやかに笑いながら手を振っているの!?

 誰も、あたしたちのことなんて見てないのに!

 妖魔たちは、キノコに夢中なのに!?

 心春はともかく!


 あの不気味な笑い声さえなければ、妖精風の衣装の心春が、仄明るく光る粒を撒いてキノコの道を造っていくのは、幻想的と言えなくもないけど。

 そのキノコを貪り喰らいながら、妖魔たちが跡をついてくるのが怖い!

 妖魔たちも怖いけど、これから何かの儀式が始まりそうで怖い!

 誰も見てないのに、誰かに微笑みながら手を振っている月見サンも怖い。

 たぶん、心春はキノコを撒くのが楽しくなってて、この先のこととか何も考えてないんだろうな、って言うのは分かるんだけど。思わず妖魔のみなさん逃げてー! って言いたくなる!


 誰か、助けてー!!


 そんなあたしの願いを叶えてくれたのは誰なのか。


 救いの女神は、前方から現れた。


「騒がしいと思って来てみれば、何やってるの? あんたち……」


 膝下丈セーラー服の麗しき月の女神、月華つきはな―――ではなく。その月華と合体している、鳥型妖魔の雪白ゆきしろさん! いや、雪白様!

 もうこの際、“あんたたち”と一括りにされたことは水に流そう。些細なことは、どうでもいい。

 救いの女神よ、どうかお助けください!


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