「もちろん、
一体、何をしているのか?
という、
「情報……収集…………? どの辺が?」
「……………………!? どの辺でしょうか!?」
「はっ! い、いけない! ついうっかり、花嫁気分に浸っていたわ!」
雪白の呆れたような再びの質問に、心春はまたしてもはきはきと答えた。はきはきはしていたけど、途中で自分でも目的を見失っていたことに気が付いたみたいだった。そして、
あー……。月見サンのあれ、パレード気分じゃなくて、花嫁気分だったんだ。
なんだろう。心の奥に寒風が吹いた気がする。
月見サンが花嫁衣装にコスチュームチェンジとかしてなくてよかった。そして、あたしの衣装が勝手に新郎風コスチュームにチェンジとかされずに済んでよかった。どうせなら、あたしだってウエディングドレスの方を着たい!
って、そうじゃなかった。
「あ、そうだ! いいこと考えた。ウエディングフェアとかで、みんなでウエディング風の魔法少女コスにチェンジするって言うのはどう? ずっとじゃなくて、フェアってことで少しの間でいいからさ。自分も着てみたいけど、みんなのも見てみたい!」
ナイスアイデアだと思います。月見サン!
って、そうでもなくて。
「マリ……じゃない、月見。あんたまで…………。キノコの胞子に頭をやられたわけじゃないのよね?」
ほ、ほらー。
雪白が本格的に呆れてるしー。
キノコの胞子に頭やられてるとか言われてるしー。
「はっ! そうだった。いけない、いけない。えーと、華月の情報収集に来たんだったよね。うん、じゃ、フェアの話はまた後で!」
月見サンは、そう言ってスチャっと片手を上げた。
え? 月華も? 着るの? コスチェンジしちゃうの?
なに、それ。見たい。ちょー見たい。
ドレスもいいけど、和装? もいいよね! 無慈悲な美しさが、本物のかぐや姫っぽくならない?
やばい。楽しくなってきた。
「で。雪白たちの方は、どうだったの? 何かわかった?」
「アタシたちは、元々ここへ華月の情報収集に来たわけじゃないんだけど。まあ、一応、ついでに聞き込みしてみたけれど、華月のことを知っている妖魔はここにはいなかったわ。サトーは、たまにここへ来ることもあるみたいだけど、次にいつ来るかは分からないみたいね」
「そっかぁ。ここで顔が利くみたいな雪白たちで分からないなら、あたしたちが聞き込みしたところで新しい情報は手に入らなそうねー。あ、そう言えば、二人の用事って結局何だったの? 闇鍋の用心棒するのが目的なわけじゃないよね?」
え? そうだったの?
てっきり、月華の用事って、黒ブヨたちに頼まれて闇鍋の用心棒をすることなのかと思ってた。
首を傾げながら、雪白……は、まだ月華と合体したままなので、本体(?)である月華を見つめる。自分越しに会話をする、雪白と月見サンのことを全く気にしていないのか、月華はいつも通りの無表情のままだった。
でも、この、何があっても動じずに無表情なところが、月の女神さまっぽい。
「まあね。用心棒をする代わりに、情報を提供してもらったり、まあ、いろいろ融通を利かせてもらってるのよ」
「情報って、華月のことじゃないんだよね?」
「ええ。今回は、そのことも聞いてみたけど。まあ、なんとなく気が付いているでしょうけど。ここは、元々地上にあった神社の敷地でね。ちょうどお祭りの時に、敷地ごと神隠しにあったっていうかね」
え? 神社の敷地ごと、神隠し!?
うっすらと、もしかしたらそんなこともあるのかなーくらいには思っていたけれど、はっきり言葉にされると衝撃だ。ほ、本当に? 本当に、そんなことあるの? それに、黒ブヨが本当に神様なんだとしたら、神様自身が神隠しに会ったってことだよね? それ、神様として大丈夫なの? なにか、いろいろと。
あたしは固唾をのんで二人の話に耳を傾けた。
続きが気になる。
「神社ごとって、お祭りに来ていた人たちは、大丈夫だったの?」
「アタシたちが来た時には、人間は誰もいなかったわね。妖魔に食べられちゃったのか、あの元神の黒いブヨブヨが何とか人間たちだけは巻き込まないように力を使ったのか……。どうも、あの元神、お祭りの時に酔っぱらっていたらしくて、その時のことをよく覚えていないらしいのよね。神隠しの直前に、大きな地震があったことは確かみたいなんだけどね」
酔っぱらってって……。
ダメじゃん!
なんか、いろいろ、ダメじゃん!!
「地震からみんなを守ろうと力を使ったら、酔っぱらっていたせいで神隠しを起こしちゃった……とか?」
「酔っぱらっていたせいで、そもそもの地震を起こしたのが元神という可能性もありますね!」
黒ブヨに対して比較的好意的な意見が月見サンで、容赦がないのが心春さんです。
結果的には、どっちもどっちなわけですが。
「後者だったら、本当に目も当てなれないわね。まあ、前者だったところで、酒に酔っていたのが原因なんだから、どっちもどっちだけど」
ですよねー。
フンと鼻を鳴らした雪白に、あたしは大きく頷いた。
「あー、まあ、そうねー。で、結局、どういう情報を求めているの? 神隠しにあったのは神社だけで、お祭りに来ていた人はここにはいなかったのよね?」
「ええ。今のところはね。でも、タイミングがずれて人間だけ後から姿を現す可能性もあるから。もしも、人間の女の子がここへ現れたら、保護するように頼んであるのよ。あと、妖魔たちがそういう子たちを商品にしていないかの確認とかね」
な、なるほど。
でも、やっぱり女の子限定なんだね。
女の子以外が現れた場合は、どうなっちゃうんだろう?
よ、妖魔のエサにされちゃうの?
「素晴らしい! つまり、月華は少女限定の正義の味方ということですね! 素晴らしい! 素敵です! 尊いです!!」
でも、心春はそんな月華の偏った正義に深く感銘を受けたらしく、ふるふると体を打ち震わせている。
尊い…………かなぁ?
「ま、まあ。今のところ、そういうケースは確認されていないし。もし女の子以外が漂流してきたとしても、元神に預けとけばいいでしょ。何とかするわよ。元神なんだから」
あ。よかった。見捨てられちゃった人がすでにいるわけじゃないんだね。
もしも、これから先にそういうことがあったとして、黒ブヨが役に立つのかは分からんけど。何か、悲惨なことが起きませんように!
心の中で手を合わせて、黒ブヨ以外の神様に祈っておいた。