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第68話 檻の中の幼女

 月華つきはなと再会したあたしたちは、まあ、なんとなく成り行きで、月華と一緒に闇鍋の路地裏を見て回ることになった。


 ちなみに。

 あえて、視界に入れないようにしていたけれど、もちろん例のフラワーガールもつかず離れずの距離で月華の後ろをついて来ているよ。隣に並んだりすることはなく、一定の距離を保って斜め後ろ上空からついて来ているよ。特に姿を隠したりは、していないよ。

 ボディーガードというよりは、公式ストーカーって感じだよ。

 公式ストーカーってなんだよ、と聞かれたら、それはつまりフラワーのことだとしか答えようがないんだけれどね。

 まあ、フラワーだからしょうがないよね。うん。



 闇鍋の大通りは、お店側も呼び込みなんかをしていたし、お客さん妖魔の数も多くてにぎやかだったけれど、路地裏は暗いだけじゃなくてひっそりこそこそしていた。

 大通りには屋台(お祭りしているときに神社ごと神隠しに会ったって言うから、屋台も神隠しにあったやつなんだろうか。地上産屋台……ってことかなぁ?)が並んでいたけれど、路地裏には屋台は一つもなく、みんな地面に直接座り込んでいる。ござみたいなのの上に商品らしきものを並べているところもあれば、店主の妖魔がいるだけで、何にも商品がないところもある。あれは、秘密の合言葉があって、正しい合言葉を言えた妖魔だけに秘密の商品を売るとか、そういうヤツなのかな? 会員制露店というヤツだろうか。ドキドキ。


 路地裏は結構入り組んでいるんだけれど、月華は迷いのない足取りでずんずんと進んで行く。

 鳥型妖魔の雪白ゆきしろがインした月華が先頭で、あたしたちは三人並んでその後をついて行く。真ん中は、大通りを散策していた時と同様、あたしです。もちろん、手も繋いでいるよ!

 だって、怖いし!

 あ。フラワーのことは、特に何もない限り、いないものとして扱います。


 用心棒をしているだけあって、月華は迷路のような路地裏にも慣れているみたいだった。でも、今は、闇鍋内パトロールをしているわけではないらしく、特に露店の様子を気にしているそぶりはない。ただひたすら、歩いていく。どこか、目的地が決まっているのかな。分かれ道が来ても、少しも迷うことなく、まっすぐ進んだり、右に曲がったり左に曲がったり。

 もうすでに、自分がどこを歩いているのか分からない。地上で普通の女の子していた頃ならそれだけであわあわしちゃうところだけど、今のあたしにはどうってことないレベルの問題だった。だって、空を飛んじゃえば万事解決! だし! あっという間に、迷路脱出! だし!

 ああ。空を飛べるって、素晴らしい!

 魔法少女って、素晴らしい!


「月華! 止まって!」


 魔法少女の素晴らしさに浸っていたら、月見つきみサンの鋭い声が聞こえてきた。

 前を歩いていた月華が、何だというように立ち止まって月見サンを振り返る。


「あれ! あそこ! 女の子が捕まってる!」

「え!?」


 た、大変!?

 慌てて、月見サンが指さす方へ視線を向けると。

 ほ、本当だ!

 お、女の子!

 小さい女の子!

 小学生、低学年くらいじゃない?

 お、檻の中に入れられてる!

 涙目でうずくまって、ぴるぴるしてる!

 は、早く、助けてあげなきゃ!


「行きましょう!」


 心春ここはるの号令で、あたしたちは、幼女サイズの小さな檻の周りにズシャアとまとわりついた。


「大丈夫ですか?」

「安心して!」

「今すぐ、助けるから! 月華が!」

「アンタたち、お目が高いネ。用心棒のセンセーのお連れさんみたいだシ、お安くしとくヨ」

「本当です……か? って、え?」


 怯える女の子を安心させようと声を掛け合うあたしたちに話しかけてきた露店の主に返事をしかけて固まった。

 まじまじと店主を見つめる。


「どしたノ? そんなに、見つめテ? 言っとくけど、アタシは商品じゃないヨ?」


 いや、そういうことじゃなくて。

 灰色のフードを目深にかぶって、フードの奥の真っ暗闇の中で赤い目らしきものが二つ光っている謎妖魔の正体も気にはなるけど、でも、そこでもなくて。

 なんで、まだ生きてるの?

 という意味で見ていたんですが。

 ひどいことを言っている自覚はある。でも、相手はあんなに小さい女の子を檻に閉じ込めるような妖魔だし!

 それに、ほら。だって。女の子を助けるためなら、なりふり構わない月華だよ?

 だから、もうとっくに、月華に輪切りにされてるんじゃないかって、そう思って。

 そう思っちゃたんだけど。


 えっと、それで。月華は?


 一体、どうしているのかと振り返ってみると。

 月華は、まださっきの場所に突っ立ったままだった。

 腕組みをして、あたしたちのことをただ見ている。

 そして、言った。


「買い物なら、さっさと済ませろ。あまりかかるようなら置いていくぞ?」


 え? えええ?

 どうしちゃったの、月華!

 女の子だよ! 女の子が妖魔に捕まっているんだよ!?

 いつもの月華だったら、そんないけない妖魔はとっくに輪切りコースだよね?


「も、もしかして、あれ、月華の偽物なんじゃ?」

「いえ、それよりも、幼女は管轄外、ということではないですか? 月華が助けるのは、あくまで少女のみ! この子は、年齢が足りていないということなのでは?」

「ストライクゾーン、せっま! 月華のストライクゾーンせっま! もっと、広げて! がばっといっちゃって!」


「というか、それ。人間じゃないわよ。……妖魔でもないみたいだけど」


 驚愕の事態にわあわあと騒いでいると、月華と合体している雪白から、これまた驚愕の言葉が飛んできた。


 人間じゃ、ない?


 呆然と雪白がインしている月華を見上げてから、恐る恐る檻の中に視線を戻す。

 と。

 あ、ほんとだ。

 お耳としっぽが生えている。

 今、気づいた。

 黄金色でふさふさもふもふの、お耳としっぽが生えているよ。

 いや、でも。アニマル系魔法少女のルナだって、猫耳と猫しっぽが生えているし。いやいや、でもでも。あれは、魔法少女で変身しているから生えているんであって?


 えーと、つまり。この子は?



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