「えーと。人間でも妖魔でもないって、君は一体、何なのかなー?」
檻の中を覗き込みながら、
「あ、あの、その。ボク、ここがこうなる前は、神社の裏のお山に住んでいて、その、ボクは神様にお仕えするキツネの一族なんだけど、その。こっちに来てからの神様は、なんだか気持ちが悪くて、その…………」
そのままピルピルと萎れるように丸くなる。お耳もペタってなってる。
な、撫でたい。
「なるほど。あの気持ちの悪い黒いブヨブヨに仕える気にはなれず、かといって完全に見限るまでは思いきれず、この辺りをうろうろしていたら捕まってしまったと。そういうことでしょうか?」
「う、はい。大体、そんな感じです」
キツネさんが言いづらそうにしていたことを、
元神様の黒ブヨに後ろめたい、とかそんな感じなんだろうか。
気持ちはよく分かるし、そんなに気にしなくてもいいんじゃないかな。あれにお仕えする気にはなれないよね。あたしだって、嫌だよ。
「ふーん。じゃあ、本当の姿は、子ギツネさんなのかな?」
「見たい! もふもふ!」
「本当の姿を見せてもらってもいいですか?」
黒ブヨのことには、誰も触れなかった。
話題は、子ギツネさんの本体の方へ移っていく。みんな、そっちに興味津々だ。
可愛いものが、見れそうな予感。
「あ、わ、分かりました。えい!」
子ギツネさんは、ビクビクしながらも頷いてくれました。
そして、『えい!』とか。何それ可愛い。
子ギツネさんの『えい!』に合わせて、ぼふんと煙が出てきて、キツネ幼女の体を覆い隠す。そして、煙が消えると、そこには。
そこには。
あ、ああ~~~。
もふもふ~。
可愛い~~。
ぬいぐるみが動いてるみたい~。
こ、子ギツネ。子ギツネさんが。
しっぽが。しっぽがフサフサ、ゆらゆら~。
「こ、こここここ、
「は、はい! お任せください!」
心が猛るままに心春にドーンと抱き着くと、心春は胸元からマツタケくらいの大きさのオレンジ色に光るキノコ(スーパーとかでお見かけしたことはあっても、食べたことはないけどね)を取り出すと、フード妖魔の顔をキノコでピタピタとなぶり始める。子ギツネさんの愛くるしさに心春もあらぶっているのか、ちょっと鼻息が荒い。
「この子、ください。おいくらキノコ万円あればいいですか?」
「ちょっと、
月見サンが慌てて止めに入ってきたけど、聞く耳持ちませぬ!
おいくらキノコ万円?
おいくらキノコ万円必要なの?
「え? 何か、問題が?」
「う、いや。問題っていうか……。とにかく、キノコは止めなさい! キノコは!」
「なぜですか? あ、食べ物を粗末にするな、的なことでしょうか? 確かに、キノコは大変、美味しい食べ物ですが、今この場においては、キノコは札束も同然です。つまり、これは札束で顔を叩くのと同じことなのです!」
「え? 札束……? う、うーん、それはそれで、どうかと思うけど……。う、うん。なんかもう、いいや。好きにして」
月見サンが何を気にしていたのか分からないけど、とにかく話はまとまったようだ。
早く。早く、お買い上げ!
月見サンを説得……? しながらも、心春はキノコでピタピタの手を止めることはなかった。ピタピタされているフード妖魔の方は、チラチラと月華の方を気にしながらされるがままになっている。あ、まんざらでもないとかいうわけじゃなくて、月華が怖いから大人しくしてるだけなのかな?
「う、うーん。キノコで取引するのは初めてですヨ。でも、随分魔素の濃いキノコですシ、まあ、いいでショ。キノコ三本で取引ネ」
やったぁ! 契約、成立ぅ!
もうこの際、
「三本ですね? 分かりました。どうぞ、じっくりと味わってくださいね」
「むごっ!?」
心春は、手に持っていたオレンジのキノコをフードの暗がりの中にずぼっと突っ込んだ。続けて、また胸元へと手を差し入れ、残りの二本を取り出して、それもフードの中へイン。
フード妖魔は、フードの中からキノコを三本生やしながら悶絶してますが、檻の鍵とかはどこにあるの?
鍵を探して、フード妖魔を漁ろうかどうしようかと思って手をワキワキしているあたしでしたが、まったく問題ありませんでした。
心春さんが、光る刀みたいなのを呼び出して、檻の上の部分を薙ぎ払ったのです。
チョコレートで作った檻を熱湯にくぐらせたナイフでスパッとやったかのごとく!
なんですけど!
いや、だが今は、チョコレートよりもモフモフだよ!
「もう、大丈夫だよー。おいでー」
天井がなくなった檻の中に両腕を差し入れて、あたしは子ギツネさんを抱き上げる。
子ギツネさんは、あたしの腕の中でお耳をモフモフもぞりとさせながら、ぴょこりと頭を下げた。
「え? あ、あの。よろしく、お願い、します?」
「任せてー! よろしくお願いされますー!! てゆーか、こっちこそ、よろしくー!」
くぅ。たまらん。
ぎゅっとして、モフモフだよ~。
「あ、ああ。星空さん、次、次はわたしに! もふらせてください!」
「もう、安全な子かどうかも分からないのに、ホイホイ気軽に抱き上げてー」
両手を広げてスタンバイ状態の心春さん。
お説教っぽいことを言いながらも、頬をゆるませて子ギツネさんの頭をナデナデしている月見サン。
というわけでぇ。
とっても可愛い、仲間が一人…………いや一匹、増えました!