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第89話 華を想う

 サトーさんの許可をもらって、リヤカーの荷台を文字通り漁り始めた月光つきこちゃんの背後に忍び寄ろ……ゲフンゲフン、背後からそっと見守ろうと近づいて行ったら、サトーさんが話しかけてきた。


月華つきはな本人に、聞いちゃたんだって?」


 サトーさんはチラッとだけあたしを見て、ホントにほんのチラッとだけあたしを見て、すぐに真っ暗な闇空を見上げた。

 な、何で知って……って、月下げっかさんに聞いたんですよね。そうですよね。

 なんて答えていいか分からなくて、あたしは。

 チラッとだけサトーさんを見て、月光ちゃんの隣に並んで、楽しそうに荷台を漁る月光ちゃんを見下ろす。


「何だっけ? 俺も、星空ほしぞらちゃんに、何か言ったことは覚えてるんだけどさ。何を言ったかは忘れちまってさ」

「忘れないでくださいよ! 月華が本当に守りたいものは何ってヤツですよ!?」

「あー、そうそう。そうだった」


 くわっとサトーさんを睨みつけると、サトーさんは空を見上げたまま笑っていた。

 それは、初めて会った時に見た、乾いたような笑い方じゃなくて、なんていうか。普通に笑っていた。

 今のサトーさんからは、あの時みたいな嫌な感じはしない。ちょっとくたびれた、普通のおっさんだ。

 これも、月下さん効果なんだろうか?

 てゆーか、月下さん。話すなら話すで、ちゃんと全部話してくださいよ。


「俺の言ったセリフをそのままぶつけて、ぶつけられた月華は思うところがあったのか、ふらっとどこかに行っちまった……って、月下は言ってたぜ?」

「…………うっかりぽろっと言っちゃったあたしも悪いんですけど。あんな月華、初めて見ました。あんな、ハトが豆を食べた……? ん? なんか違うような? んー、背景が真っ白になったみたいな顔……?」

「星空ちゃんってさぁ、国語の成績…………あ、いや、なんでもない。まあ、言いたいことは分かる」


 荷台を漁る物音がいつの間にか止まっていた。

 ものすごく、視線を感じる。

 月華の名前が出てきたからだろうな。

 月光ちゃん、月華のこと大好きみたいだし。

 はっ!?

 あたしが月華をいじめたと思われて、月光ちゃんに嫌われたらどうしよう?

 い、いや? 違うんだよ。違うんだよ?

 だって、ほら。そう! 雪白ゆきしろだって、それでいい的なことを言ってくれたし!


「ゆ、雪白は、これからもその調子で頼む的なことを言ってくれたんですけど!?」


 しまった。声が裏返った。

 ずっと闇空を見上げていたサトーさんは、怪訝そうな顔であたしに視線を移し、軽く首を傾げて、それから。ははーん、って顔をした


「ああ、もしかして、悪いこと言っちゃったとか思ってる?」

「いや、それは、その……」


 もちろん、それもあるんだけど。今は、どっちかっていかって言うと月光ちゃんへの『あたしは悪くない』アピールのための発言だったので、うん。なんか、余計に罪悪感が募ります。はい。


「別に、星空ちゃんが気にすることはないと思うぜ? 本当はさ。もっと早くに誰かが言ってやるべきだったんじゃないかと思う……いや、それとも、今だから月華にも響いたのかな……。もう少し前だったら、何言ってんだって顔してたような気もするな。能天気な魔法少女たちが増えて来たおかげで、少しは心境に変化があったってことかな……」

「………………」


 途中から、独り言みたいになってますけど? てゆーか、能天気な魔法少女って……。

 いや、あたしについては、まあ否定はしないけど。


「結局、星空は月華に何をしたの? 月華は、どうなったの?」


 少し険しい月光ちゃんの声が下から聞こえて来て、あたしはビクッと肩を揺らした。

 助けを求めるようにサトーさんを見上げると、サトーさんはあたしじゃなくて月光ちゃんを見ているようだった。

 優しい顔で、笑っている。

 う、うわ。サトーさんのこんな顔初めて見た!

 こういう顔も出来るんだ!

 なんか、意外。意外過ぎる。サトーさんがよく分からない。


「星空ちゃんは月華に、自分を見つめなおすきっかけを与えてくれたんだよ」

「んーと、どういう意味?」

「月華はさ、闇底に墜とされて困っている子を助けるのに一生懸命すぎて、自分のことはおかまいなしってかんじだろ? 月華に助けられて魔法少女になったやつらは、能天気に闇底生活を楽しんでいる奴の方が多いってのに」

「………………うん」

「だからさ。月華も、もう少し闇底で楽しんで生きてもいいんじゃないかって話。魔法少女も増えてきたことだし、一人で頑張らなくてもいいじゃんよ? みんなに手伝ってもらって、その分月華も、闇底を楽しめばいいのにってこと」

「………………!」


 月光ちゃんがガシッとあたしの手を握って、ブンブンと激しく上下に振った。


「星空! よくやった! えらい! ご褒美に、何でも好きなの持っていっていいよ!」

「え? う? あり、がと?」

「よーし、そうとなったら! どっちが先にお宝を見つけられるか、競争だよ!」

「あんまり、荒らすなよー」


 月光ちゃんは言うなりあっさりとあたしの手を放して、本格的に荷台を漁り始める。

 持ち主であるサトーさんのお許しも出た……のはいいのだけれど。

 ………………?

 今の話、どういうこと?

 いや、言っている意味は分かる。分かるし、いいこと言ってるとも思う。

 でも、あたしのうっかりポロリ事件とどう繋がっているの?

 あたしがよく分かってないだけで、結果的に月華にとっていい感じになった、ってこと?

 それとも、月光ちゃんをうまく丸め込むためで、別に関係はしていない?


「月光もこう言っていることだし、星空ちゃんも好きに見ていいぞー? 今日の俺は機嫌がいいからな。特別の特別に、一つだけ、タダであげよう。大出血大サービスだぞー?」

「ありがとうございます……」


 んー?…………うん。

 まあ、いっか。

 考えても、どうせ分からんし。聞いても、分からん気がするし。

 気になると言えば気になるけれど。なんか、月光ちゃんからの好感度もアップしているようだから、今回はとりあえずよしとしよう。

 よーし。

 今度こそ、あたしも漁るぞー!




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