カラリと戸を開けてお風呂場に入ると、先に入ったはずの
どうしたんだろう?
まさか、本当にお風呂を知らないとか?
いや、さすがにそんなことないよね!?
ちょっと心配になりながら、月華の真っ白で綺麗な背中越しに、ひょいと湯船の方を覗き込んで納得した。
キノコ風呂やん。
キノコ浮いとるやん。
いや、くり抜いた巨大キノコの中にキノコ各種がびっしり! よりはましだけどさ。
ゆず湯みたいな感じで、きのこ各種が浮いとりますよ。
ご満悦な顔の
お鍋の具になった気分が味わえそうだね?
キノコと魔法少女のお出汁のお鍋かあ……。
あ!
マツタケ! マツタケとか入ってないのかな?
香りマツタケ……とかなんとか、言うよね?
いい匂いがするってことなんだよね?
うっとりとマツタケの香りを楽しみながら湯船につかる。そして、お風呂上りには体からマツタケの香りがほのかに漂う。
なんか、超高級魔法少女になった気分を味わえるんじゃない?
庶民派魔法少女から、おセレブな魔法少女に変身だよ!
そう考えると、ちょっとウキウキしてくる~。
あ、でも。まずは、やっぱり、シャワーかな?
いくら魔法少女は汚れないと言っても、一応ね。
えっと……。
シャワーシャワーと、視線を巡らせていたら、心底不思議そうな月華に質問された。
「なあ、あれは、なんだ?」
「え? あ、ああ。心春特製のキノコ風呂、かな。ま、まあ。浮かんでいるものは、ちょっとアレだけど、お風呂には変わりないし! 大丈夫! 月見サンも入っているし! 微妙な顔になってるけど!」
「お風呂……?」
「うん! …………うん?」
キノコ風呂についていけていないだけなのかと思いきや。
…………え? そこ? そこが疑問なの?
もしかして、お風呂、入ったことないの?
え?
あ、いやいやでも、あれだよ。
「あ、ああ。えっと、月華はシャワー派だったのかな?」
「シャワー? ああ、体を洗うヤツか。それは、使ったことがある。ああ、あそこにあるな」
壁際に備え付けられたシャワーを発見して、月華はあたしを置いてスタスタとシャワーへと向かう。
なーんだ、よかった。シャワー派ってだけかぁ。
…………って、いやいや!?
いくら、シャワー派だからって、お風呂を知らないとか、そんなことってある?
日本に生きてて、そんなことってある?
………………。
…………………………。
ま、まあ、いいか。それにほら、ご両親が大のシャワー好きで、大のお風呂嫌いで、お風呂が存在していることがもう許せないとかいう特殊な人たちで、月華にお風呂の存在をひた隠してきたとか、そういうことかもしれないしね!
うん。
さ、さーあ。あたしもシャワー浴びて、お風呂に入ろっと。
月見サンにタオルで髪の毛をアップにしてもらった月華は、小さい子みたいに両手でお湯をすくったり、ぷかぷかしているキノコをつんつん突いたりして遊んでいた。
普段は隠れているうなじが綺麗でドキドキしますな。
そして、やってることは子供っぽくて、ギャップでクラクラしますな。
綺麗なのに可愛い!
だがしかし!
しあわせな時間は長くは続かなかった。
ポーッとしながら月華を鑑賞していたあたしだったけれど、ふと気が付いてしまったのだ。
おっぱい格差と言うヤツに。
大人と子供と言うか。
使用前・使用後と言うか。
あたしは湯船の中で体育座りをした膝の上で腕を組み、ブクブクと口元まで湯につからせる。
あたしの知っている魔法少女の中で、一番お胸がばいーんってしてるのは、アニマル系魔法少女のルナだけど。
月華と月見サンも、ルナほどではないとはいえ、高校生らしい立派なお胸を装備していらっしゃった。
いいな。あたしも装備したい!
いやね? 魔法で膨らませることは出来るんだけどさ?
でも、それ。魔法で大きくしたってバレバレだよね?
みんなに、気にしてたんだな、とか思われたら、恥ずかしすぎるよね?
ブクブクしながら、チラッと心春を見る。
本来、心春はおっぱい格差的にはあたしの仲間のはずなんだけど。かろうじて、あたしのお胸の方がちょっとだけお姉さんかな? みたいな感じかな?
その心春と、格差について炭酸系のジュースでも飲みながら語り明かしたい気分なんだけど。
頼みの綱の心春は、キノコに頬ずりしながら不気味に笑っていらっしゃる。
あれは、あれはダメだ。
くそう。
不貞腐れて、現実逃避をしようと目を閉じて、お風呂につかる心地よさだけに意識を集中していたら、月見サンの焦った声が聞こえてきた。
なんぞ?
「ちょ、そんなの食べたら、ダメだって! 月華!」
「ん? ダメなのか? 食べ物じゃないのか、これは?」
ブクブクしつつも目を開けてみると、月華が湯船に浮かんでいたキノコの一つをマイクのように口元にあてて、首を傾げているところだった。
「いや、ダメだから! 食べ物だけど、お風呂に入れてるヤツは食べちゃダメだから! あと、キノコは生で食べたらダメだから!」
ザパリと立ち上がって、月華からキノコを奪い取る。
び、びっくりしたー。
「生でダメなら、焼けばいいのか?」
「あ、生でも大丈夫ですよ? 魔素で作ったキノコですから! でも、どうしても味は再現できなかったので、美味しくはないです!」
「…………美味しくないのか」
「ま、まあ。お風呂から出たら、
キノコの話題だからか、さっきまでキノコに囲まれてうっとりしていた心春が、シュバっと参戦してきた!
ま、まあ。月華が諦めてくれたみたいだから、よかったかな。
食べても大丈夫みたいだけど、でも、そういう問題じゃないと思う。
最後に月見サンに宥められて、月華はコクリと頷いた。
「やっぱり、夜咲花さんの錬金魔法はすごいですよね! 私も、夜咲花さんに弟子入りするべきでしょうか!? そうしたら、キノコの自販機を作って、外の憩いスペースに設置してみましょうか……? キノコのカサのキャップを外すと、中にはキノコスープが入っている……。いいですね! あ、でも、やっぱり牛乳系もはずせないですよね? てっぺんにストローを差して飲むようにすればいいのでしょうか……?」
「いや、それは、絵面的にまずいからヤメロ」
キラキラと夢を語りだした心春を、月見サンが真顔で止めた。
月見サンの真顔、ちょーレアなんですけど?
絵面的に何がまずいのかな? 心春とキノコって、もはや定番なような?
まあ、キノコの自販機は、あたし的にも嬉しくないから別にいいけど。
たとえ中身が牛乳だとしても、キノコからじゃなくて、やっぱり瓶だよね! 瓶!
お風呂上りには、瓶入り牛乳を腰に手を当てて飲み干さないと!
「そろそろ、上がろっか……」
脳内で盛り上がっていると、月見サンのなぜか疲れた一声が聞こえてきた。
すでに風呂上りに意識が飛んでたあたしに異論はない!
他の二人も、どうやら同じような感じらしく、特に反論もないまま、あたしたちは闇底初のキノコ温泉を後にした。
いや、地上でもキノコ温泉には入ったことないけどね?
温泉が初体験らしき月華に、風呂上がりの牛乳を味わってもらえなかったことだけが残念だな、と思った。
この次は、夜咲花に頼んで、牛乳の用意をしてから行こうと思う。
もちろん、瓶で!
今度は、みんなで行けたら、いいな。
夜咲花と、
まあ、
闇底一可憐な妖精風美少女だけど、男の子だからね!