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第109話 弾けてストロベリー

「うふ、うふふふふ! さあ、始めるわよ! スイート・ベリー・タイム!」



 あたしと心春ここはるが見つけてきた、サソリ型妖魔の群れの前に降り立って。

 ベリーは、舌なめずりでもしそうな顔で不気味に笑うと、パチンと指を鳴らしてから、その手を天に掲げる。

 手の中に現れたのは、イチゴショートケーキを思わせるベリーのコスチュームによく似あう、イチゴの魔女っ子ステッキだ。

 先端に、艶っと赤くて可愛いイチゴの飾りがついていて、手元の方には蝶々結びされた緑のリボン。リボンの先がひらひらとなびいていて、これもとても可愛い。

 コスチュームもアイテムも可愛いのに。

 顔立ちも、アイドル的な可愛さなのに。

 表情がいけない。

 なんか、目に猟奇的な光が宿っている。

 魔法少女による妖魔お仕置きタイム❤とかじゃなくて、残虐な狩の時間が始まりそうな感じ。一方的な殺りくになりそうなヤツ。

 これは、ベリーが妖魔と戦う力を身に着けるための初特訓のはずなのに、妖魔の身の安全に対する心配しかない。いや、倒すために探してきた妖魔の身の安全を心配するのもおかしな話なんだけど。


 お相手となるサソリさんたちは、荒野の瓦礫の山の近くにたむろしていた。

 じっとしていたり、うごうごしていたろ、それぞれにくつろいでいたサソリさんたちが、ベリーのただならぬ殺気に気づいたのか、一斉にこっちに顔を向けた。

 砂色をしたサソリさんたちの真っ赤なお目目が、不気味に光りながらこっちを見ているのはちょっと怖い。威嚇のためなのか、はさみを持ち上げてぎちぎちと音を鳴らしているのもちょっと怖い。

 でも、それ以上にベリーが怖い。

 殲滅、殲滅ってうるさい心春とは違った方向性で怖い。

 同じだけど、違った方向性で怖い。

 心春の殲滅は、割とカラッとしたところがあるけれど、ベリーのはじめっとしていそう。

 まあ、どっちも殲滅には変わりないけど。


「ふ、ふふ。ふはははははははは!!」


 荒野にベリーの、ちょっとイっちゃってる感じの高笑いが響く。

 思わず、一歩後ろに下がってしまう。

 本当なら、先輩魔法少女(一応。たぶん。そのはず)として、庇うように前に出ないといけないかもだけど。

 無理。

 だって、ベリーが怖いんだもん。

 サソリ妖魔よりもベリーが怖い。

 もう、いっそ、逃げたい。

 この後に起こることを見届けたくない。


「ふっふふふ! 一瞬で、片を付けるわ! ストロベリー・ワルツ!」


 ひぃいいいいいい!

 技名は、可愛いのにーーーー!!

 本当に一瞬、というか。

 一閃だった。


 可愛い技名に似合わない猛々しい掛け声とともに、ベリーがイチゴステッキを、サソリさんたちに向かって横に大きく一振りすると、イチゴの先から真っ赤なレーザー光線みたいなのが放たれて、サソリたちを一網打尽にしていく。

 このイチゴ光線が、また極悪でねー。

 こう、ステッキの先から三角に? うんとね、先へ行くほど幅が太くなっていってね。でね。サソリさんたちを横薙ぎして体を上下真っ二つとか、そんな可愛いもんじゃなくてね。

 ――――全身を赤い光に焼かれてさ。塵も残らなかったんですけど。

 しかも、地面からかなり上の方まで広がった光線が、結構遠くの方まで発射されててね。ベリーの前にいた、すべての妖魔が一掃されたんじゃ? ってレベルで、本気で殲滅っぽかった。心春よりも殲滅的!

 立ちふさがる妖魔は一匹たりとも逃さず塵にしてやるって言う、ベリーの強い意志を感じる。感じるよ。


「素晴らしいです! ベリーさん!! 星空さんによって汚らわしい妖魔から助け出され、その愛に応えるために、戦うことが苦手な星空さんを守るために真の力に目覚め、星空さんの愛の騎士となった……ということですね! 素晴らしい! とても素晴らしいと思います!!」

「は、はぁ!? ちょっと、離しなさいよ!」


 いつもは心春の妄言をさらっと流していたベリーだったけど、心春の方も少しは学習したのか、それともたまたま荒ぶり過ぎちゃっただけなのか。

 キノコがショートケーキの手を取って、くるくると踊りだす。

 まるでワルツのようだ。

 ワルツのことは、そんなによくしらないけど。たぶん、ワルツ。

 なんか、そんな感じのダンス!


「やー。ベリちゃんって、あれで結構魔法少女への憧れとかあるっぽかったし、妖魔への恨みもあるし、すぐに上達するだろうなー、とは思ってたけど。まさか、ここまでとはねー。あれ、純粋な妖魔殲滅力は心春ちゃん以上なんじゃない?」

「そうですね。ちょっと、怖かったです」


 くるくる回りながら遠ざかっていく二人を生ぬるく見つめながら、月見サンが乾いた笑いをもらす。

 同じように生ぬるい視線を二人に送りながら、あたしもそれに頷く。

 二人は完全に妖魔への警戒を忘れてしまっているみたいだけど、まあ、心配はいらないだろう。この辺り一帯の妖魔は、さっきベリーによって一掃されたばかりだし。

 ここは今、かなりの安全地帯のはずだ。


「あー、もう! いいかげんに、しなさいっての!!」


 とはいえ。

 安全がどうこうとは関係なく、くるくるダンスに終わりが訪れた。

 心春に付き合いきれなくなったベリーが、くるくるの反動をうまく使って、キノコを闇空へと放り投げたのだ。

 どこか楽しそうな悲鳴を上げながら、闇空を舞うキノコ。

 ベリーはキノコの行方を見届けることなく、肩で息をしながらあたしたちの方へと戻ってくる。


「まったく、もう! それで、どうだった?」


 戻ってきたベリーは、乱れた髪を手で直しながら不安と期待の入り混じった目で月見サンを見つめた。

 どうだった、というのは、さっきのサソリ妖魔殲滅戦のことだろう。

 それは、分かるんだけど。

 どうして、月見サンだけロックオンなの?

 あたしにも、意見を聞いてくれてもいいと思うな!


「うん。そうだねー。殲滅力は全く問題ないけど、実用面でいうと、もう少し力を加減したほうがいいかな!」

「え? どうして?」


 月見サンのお返事に、ベリーは不思議そうな顔をする。

 威力は高い方がいいんじゃないの? って、言いたそうな顔だ。

 それもまあ、そうなんだけど。あたしも、月見サンに賛成です。理由を説明しろって言われても、うまく説明はできないんだけど。なんか、そう思う。

 なので、ここは月見サンにお任せします。

 まあ、そもそも。あたしの回答は、まったく期待されてないんだけどさ。


「やー、えーとねー。威力って言うか、範囲? あれ、広範囲に殺傷力が高すぎて、うっかり同士討ちとかしそうで怖いしさ。それに、妖魔もいろいろで、大人しくって害がない子たちもいるんだよ」

「………………」


 月見サンの説明を聞いたベリーは、むぅという顔で押し黙る。


「えーと。あとはねー、ほら、もしかしたらあたしたちみたく運悪く闇底に迷い込んじゃった子があのイチゴレーザーの向こうにいたりしたら、絶対に巻き込むよ? まあ、確率は低いとは思うけどさ。ゼロではないし」

「それは…………。確かに確率は低そうだけど、でももしも、本当にそうなったら嫌ね。ストロベリー・ワルツの危険性については、納得したわ」

「うんうん、そうだよねー。だからねー、やっぱり、もう少し……いや、かなり大分威力というか射程範囲を抑えても、十分殲滅効果はあると思うし。んー、もっといろいろ抑える方向で、練習してみよっか!」

「難しいことを言うわね……………………」


 なるほど、そういう可能性もあるのか!

 まあ、滅多にそんなことも起こらないとは思うけど。でも、実際に起こったら……。うん、ダメ! 絶対! 

 大人しくて害のない妖魔を巻き込まないでね、という月見サンのお願いには、納得できない顔をしていたベリーだけど、さすがに、これにはあっさりと頷いた。

 あたしたちと同じように、何にも知らんまま運悪く闇底に彷徨い込んじゃった女の子を、妖魔退治に巻き込んで一緒に殲滅しちゃうなんて、さすがにベリーもやりたくないよね。

 でも、それにはあっさりと頷いたのに、威力を抑える練習の提案には、返答通りの難しい顔をした。

 初めてなのにあっさりと魔法を使いこなしたベリーだから、器用にやってのけると思ったのに、コントロールは苦手系?


「難しいから、ひとまず、ストロベリー・ワルツは封印することにする」

「え? そうなの? んー、もっと威力とか範囲を調整できれば、強力な切り札になりそうなのに。んーと、じゃあ、どうするの?」

「新しい技を試してみるわ。星空、次の獲物、探してきて」

「うぇ!? うー、わ、分かった」


 あたしが探してくるんかーい。

 なんだろ、ベリーの、この月見サンとあたしの扱いの差。

 なんか、あたし、便利に使われてない?

 月見サンは、ちゃんと頼りにされてる感じなのにさ。


 ちょっと納得がいかないけれど、まあいいさ!


 キノコを回収がてら、お次の善良そうじゃない妖魔を探してくるとしますかー。


 うーん、しかし。なんだろうな。

 あたしは、魔法少女になったはずなのに。

 なんか、悪者の手先になった気分。


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