お月シャワー見会は、残念ながら延期することになった。
いやね?
アジトに帰る途中で、ふと気づいちゃったんだよ。
うん、まあ。
散々、お池ではしゃいでおいて、今更何言ってるんだよって感じではあるんだけどさ。
あれは、ほら、ね?
ついテンションが上がっちゃって、そんなことはすっかり忘れちゃってたっていうかさ。
まあ、すんだことは仕方がないよね。
でも、気がついちゃった以上は、何ていうの? 自重? した方がいいよね、ってことになったんだよ。
いつ華月が襲撃してくるのか分からない状況じゃ、お月シャワー見も心から楽しめないしね。
てなわけで。
せっかく汲んできたこのお水はどうしようかーって、お空の上で、みんなで固まって話し合っている最中に、あたしたちは遭遇してしまったのだ。
出来れば見なかったことにして飛び去りたいアレに。
あたしはもう、スルーしまくる気満々で、池の水はなんならアジトの周りの草原の水やりに使ってもいいし、ガラスの入れ物に入れてライト代わりに使ってもいいよね、何て一人で勝手に思いながら“ソレ”に背を向けて飛び去ろうとしたんだけれど、うまくいかなかった。
ミッションは失敗してしまったのだ。
「ねえ、何あれ? なんか、闇底には不釣り合いな夢の国にあるお城みたいなのがあるんだけど。ネズミ妖魔のお姫様でも住んでいるの?」
「あー。ベリちゃんは、アレに遭遇するのは初めてだったかー」
ベリーが興味を示してしまったからだ!
しかも、辛口な口調とは裏腹に、瞳はめっちゃ輝いていて興味津々を隠し切れない様子で、ゆっくりではあるんだけど、少しずつお城のある方へ近づいていく。引き寄せられるみたいに。
あー。これは、接触もやむなし?
まあ、初めてじゃしょうがないよね。あれがどういうものだか、ちゃんと知っておいた方がいいかもしれないし。たぶん。
気は進まないけど、最終的には一人で勝手に退場するから、そんなに害はないしね。うん。
「あれはねー、妖魔じゃなくてとある魔法少女が背景として魔法で作った幻のお城なんだよ。なので、住めません! ていうか、そもそも中に入れません!」
「え? あれ、幻なの? しかも魔法少女が作ったの? てか、背景ってどういうこと?」
「んー、プリンセス感をアピールするための背景?」
「姫系魔法少女!?」
「やー、お姫様を演じる一人芝居系魔法少女? まあ、そういう意味でも背景っていうか、大道具っていうか?」
「よく意味が分からないけど。あ、お城の前に誰かいるわね。………………? えーと、白雪姫のお后様を演じている最中…………にしては、さっきからコロコロ衣装が変わっているような? え? 何してるの、あれ?」
「あー、あれはねー。たぶんだけど、衣装合わせ中かなー? 会うたびに衣装が違う子なんだけどね。一人でいる時は、ああやって次の衣装を決めるための一人ファッションショーを開催してるみたいなんだよねー。たまーに、見かけるんだよ……」
荒野のはずれにそびえ立っているように見える、どこかの夢の国にあるみたいなお城。アジトでは劇場型魔法少女なんて呼ばれている夜陽の、背景として作られた幻のお城。
衣装は毎回変わるのに、お城はずっとあれなのは、あれしかお城を知らないからなんだろうな。まあ、よっぽどの城マニアとかじゃなければ、実際に見たことのある洋風のお城って、シンデレラのアレくらいだよね。
遠くの方に見えていたお城は、ベリーの後を追っていくうちに、いつの間にか目の前だ。
下にいる
お城を背景に立つ夜陽は、舞台・白雪姫の大道具っぽい大鏡の前で、次々とドレスをマジカルチェンジしてはポーズを決めていた。魔法少女の決めポーズじゃなくて、ファッションショーでモデルさんがするみたいなポーズ。で、その度に、傍に控えているタキシードを着たカッパ妖魔が拍手をしている。
てゆーか、これ。
この舞台裏っぽいの、見ちゃってもよかったの?
ベリーは声をかけたそうにうずうずしているけど、これ見てるのばれたら怒られない?
「ふむ。ドレス替えの真っ最中のようですね! 何かアドバイスできることもあるかもしれませんし、行ってみましょう!」
「そ、そうね! 黙って見てるより、その方がいいわよね? キノコもたまにはいいことを言うわね!」
「あららー。まあ、衣装替えを見られた時の反応なんかも気になるし☆ 行ってみますか☆」
「え? えええ!? 月見サンまで!? え、ちょ、ま! あ、あたしも行きますってー」
うわーん、置いてかないでよー。
夜陽に怒られるのは嫌だけど、みんなが行くならあたしも行くよー!