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第115話 二人の門出を祝してその愛を閉じ込めたい

 アジトの中は、微妙な沈黙に包まれていた。


 帰って来て早々に、心春ここはる夜陽よるひの旅立ちのことを報告したからだ。

 帰って来たばかりのあたしたち…………あたしと月見サンとベリーの三人は、まだ板の間にすら上がっていなかった。玄関口に立ったまんま。

 それだけ、早くみんなにお伝えしたかったのだ。


 月下さんは、ちゃぶ台の前で姿勢正しく正座したまま、何とも言えない顔をしている。

 紅桃べにももは、はしたなく板の間に足を投げ出した格好で、渋い顔をしていた。

 夜咲花よるさくはなは、いつものごとく錬金部屋に籠っていたみたいなんだけど、あたしたちが帰ってきたことに気づいて板の間に出てきてくれて、その後はそわそわしながら、うずうずとあたしの顔を見つめている。あたしの、仄黄色く光る顔を。うん。まだ光ってるんだよ。いつ消えるんだろう、これ? とにかく、話の途中から板の間に出てきたのと、あたしの顔の方が気になるせいで、夜咲花は心春たちの話は全然聞いていないみたいだった。


「…………末永く二人で暮らしてくれる分には構わないんだけどさ。むしろ、そうしてほしいくらいなんだけどさ。………………連れて来たり、しないよな? あいつらが組み合わさった時の化学反応の仕方が未知数すぎて恐怖しかないんだが……」


 渋い顔をしていた紅桃が、投げ出していた足を胡坐に組み替えながら、恐ろしいことを言った。

 あたしたちはみんな、それぞれ思い思いの衝撃ポーズで固まる。

 ガラガラガラ、ドーン、ピシャーン!――――て感じだ。

 あ。あたしたちみんなは、間違いだった。

 あたしたち三人、が正解だった。

 月下さんは、美しい姿勢を乱すことなく(でも、軽く魂は飛ばしているみたいだった)、夜咲花は、やっぱりあたしの顔を見ながら手をワキワキさせている。頼むから、あたしの顔を錬金釜に突っ込むのは止めてほしい。


「その時は、そうね。アジトも少々手狭になったことだし、心春に、アジトの外にシンデレラ風キノコ城でも作ってもらって、そこで二人で暮らしてもらったらいいんじゃないかしら? 二人の蜜月が何者にも脅かされることがないように、外から鍵をかけて、絶対に破れないような強力な結界を張ってあげるわ」

「アジトの外? どっか、見えなくらいに遠くの方がいいんじゃないのー?」


 ちゃぶ台の上で手を組みながら、月下さんが今後についての考えを述べた。顔は平静そうに見えたけど、声はちょっと震えている。それを、月見サンが楽しそうに混ぜっ返した。

 月見サン。本当に楽しそうですね。

 そう言えば、さっきの衝撃ポーズも、あたしとベリーがやってるのを見て、面白そうだから乗っかってみたー、って感じでしたね。

 なんでも楽しむその姿勢。見習いたいような、そうでもないような?


「いいえ。近くの方がいいわ。結界が破られないか、常に監視できるもの」

「うわお。怖いこと言ってるー」


 真顔の月下さんが怖い。

 本当に怖い。

 ベリーと紅桃も、引きつった顔になってるし。

 月見サンだけが(会話にまったく加わっていない夜咲花を除く)楽しそうだ。怖いとか言いながら、むしろ楽しそうだ。


「あれ? そう言えばさー。月華やアニマル組はどうしたのー?」

「ん? ああ。月華たちは、外の様子を見てくるって言って、さっき出て行ったとこ。ルナはココ連れて魔女のところに遊びに行ってる」

「あー。じっとしてるの苦手そうだもんねー、月華。で、ルナッちは魔女さんのところかー。ふうむ」


 はっ。本当に、そう言えば。

 心春たちのことが衝撃的すぎて、早く誰かに伝えたい一心すぎて、メンバーがそろっていないことに気づいてなかった。

 ルナは魔女さんのところか。ルナ、魔女さん、好きだよね。いや、お菓子と牛乳目当てなだけかもだけど。


「ま、いいかー☆ あの二人はー☆」

「何なの?」

「んー? ベリーの新技のー、お披露目会をしようかと思ってさ☆」

「え? いいわよ、そんなことしなくても」

「いやいやいやー☆ あれ、結構衝撃的にエグかったからさー。実践前に、みんな一度見といたほうがいいと思うんだよねー。ほら、実践中に突然アレを見せられたらさ、衝撃すぎて固まっちゃってピンチになっちゃうかもしれないし☆」

「あ、確かに。心構えが必要かもしれないですね。うん。みんな見といたほうがいいと思います。自分のために」

「………………」

「じゃ、お外へレッツゴー!」


 月見サン。何か考えてると思ったら、そう言うことかー。

 ベリーは少し不満そうな顔をしているけれど、あたしは大きく頷いた。

 うん。それ、賛成。

 絶対、見といたほうがいい。

 でも、月華とルナは、あんまりこういうの気にしなさそうだから、ま、いっかな。って、あたしも思います。そっちも、賛成。

 で。

 月下さんと紅桃は、顔を見合わせつつも、そのエグさがどれほどのものか気になるのか、割と積極的に腰を上げた。


「夜咲花も、行くよー。あたしの顔が光っている理由を、お外で教えてあげよう」

「え? んー、分かった」


 夜咲花は、お外と聞いて少しためらったけれど、光る顔の理由が分かると聞いて、頷いた。お外は怖いけど、でも、ちょっとワクワクしてるっぽい。

 お披露目会が終わったら、一緒に光る水たまり作って遊ぼうねー。

 先に行っちゃったみんなの後を追って、あたしは夜咲花と手を繋いでアジトの外に出る。夜咲花はあたしに手を引かれて、大人しく後をついてくる。心春がいたら、絶対に何か言われていたところだよねー。あー、平和。


 この平和が、いつまでも続けばいいのにな。


 …………って。

 今の、なんかフラグっぽいな!

 やっぱり、なしで!

 なしで、いいです!


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