「ストロベリー・ワルツ!」
真っ赤なイチゴの魔女っ子ステッキを振り上げて、イチゴショート系魔法少女が赤い光線を真っ黒な闇空に向かって放つ。
真っ赤なイチゴ光線は、お空の先へ行くほど広がっていって、闇空を赤く染める。
こう、ステッキの先から、三角に広がっていく感じ?
対妖魔専用(であって欲しい)殺戮イチゴ光線は、月下さんが練習用にと空へ放っていた髪の毛で作った式(たぶん、この字であってると思う。四季ではない……と思う)……とやらを、一瞬で跡形もなく消し去った。
「すげえ……。闇空が一瞬でレッドゾーンに……」
「え? これ……。妖魔だけに効くんだよね? 魔法少女は当たっても大丈夫なんだよね?」
「当てたことないから、分からないわ! でも、大丈夫よ! ちゃんと、周囲に魔法少女らしき人影がないことは確認済みだから! 誰も巻き込んでないはずよ!」
「ちょっと! それって、大丈夫じゃないってことじゃん! 月下美人! どうなの!?
どうなの!?」
「そうねぇ。今回は、確かに誰も巻き込んでいないと思うわよ?」
「そっちじゃなくてぇ!!!」
ベリーの新技お披露目第一弾終了直後。
場所は、アジトの庭先。一歩先はホタルモドキが舞う草原。
で、月下さんはというと、がくがく揺さぶられながらも、結構冷静に暗く静まり返った闇空を見つめながら何か考えているみたいだ。さすが、月下さん。何か、気づいたこととかあるのかな?
お披露目をした張本人であり、この場の混乱を生み出した犯人でもあるベリーは、最初にお披露目したときのあたしと月見サンの反応からこうなることを予想していたんだろう。開き直っちゃってる感じだ。ステッキを持ったまま腕組みをして、ステッキの先のイチゴで肩をトントンしている。
あたしと月見サンは、一歩下がったところから、大人しくみんなの様子を見守っていた。
月見サンが大人しくしているのは珍しい気がするけど、月下さんが考えているのを邪魔しないように気を使っているのかな?
「技はもう一つあるのよね? とりあえず、先にそっちを見せてもらおうかしら」
「分かったわ」
「じゃあ、今度は、あの辺、草むらの上あたりに飛ばしてみてー」
月下さんは、まとわりつく夜咲花を放置したまま、お披露目第二弾を要求してきた。
ベリーは腕組みを解いてそれに頷く。
大人しく様子を見守っていた月見サンが、ここでようやく話に加わる。でも、ちょっとだけ真面目なお姉さんバージョンだ。
月下さんは、髪の毛を数本抜いて、何やら呪文を唱える。すると、髪の毛は月下さんの手をスルリと抜け出て蝶々の形になって、さっき月見サンが指でさした辺りへと飛んでいく。
数メートル先の草むらの上で、三匹の蝶々が戯れている。
とても平和な光景なのに、この後、恐ろしい惨劇の幕が上がるのだ。
イチゴショートケーキ系魔法少女の手によって!
「クランベリー・ミスト!」
イチゴステッキの先が、蝶々たちに向けられる。
月見サンのアドバイス通りに技の名前は変えたんだね。
うん。ブラッディよりはクランベリーの方がいいと思う。技の内容は怖さ満点なんだから、せめて名前くらいは女の子っぽくしないとね。
魔法少女として、とてつもなく重要なことだと思う。
で、ステッキの先では。
舞い踊る蝶々たちを、赤い霧が包み込んでいった。
ん? あれ?
ハートの形してる? 前は球形だったよね? おまけに、霧の中にピンクに光る小さいハート型がいっぱい現れた! あれも、前はなかったはず。
これは、もしかして。ベリーなりに、女の子らしく改良した結果、ってことなのかな?
努力の方向性を間違っている気がする。
だって、これ。結果は、あれなんだよね?
…………ほらー、やっぱりー。
霧に包まれて、でもぼんやりと蝶々の輪郭が見えていたんだけど。その輪郭がだんだんと曖昧になっていく。それと一緒に、蝶々を包んでいた赤いハートの輪郭も崩れだす。
少しずつ、小さい粒粒となって赤い霧と同化していく元蝶々。同時進行で、赤い霧のハートは拡散して、薄く揺らいでいく。
赤い霧が、晴れていく。
霧は、霧に解けていった三匹の蝶々ごと、最初から何にもありませんでした――――みたいに消えてしまった。
後には、ピンクに光る小さいハートだけが残されている。
小さなハートは、くるくる回りながら合体していった。合体するにつれて、光が増していく。そうして、ついに、小さなハートは一つになる。
手のひらサイズになったハートは、ぱあっと一際強く蛍光ピンクの光を放ち、光が消えると同時に姿を消した。
「どう? 星空があんまり怖がるから、ちょっと、可愛くしてみたんだけど」
満面の笑みで、ベリーが振り返る。
カメラを前にしたアイドルみたいな、キラキラと輝く笑顔だった。
写真集の表紙を飾れそうなくらい、超いい笑顔。
「ピンクのハートは、いらんだろ。血みたいなおどろおどろしい赤い霧と、無意味に可愛いピンクのハートのコラボはねーよ。狂気を感じるだろ? ホラーゲームの中に無理やり突っ込んだ可愛さアピールの女子感が、むしろ狂気を感じさせるだろ?」
「なーに言ってるの? ピンクのハートは必要でしょ! むしろ、赤い霧がいらない。あのピンクのハートの中に閉じ込めて、最後の光って消えるところで妖魔ごと消えればいいんだよ! そうしたら、なんかマジックとか見ているみたいで怖くないし、むしろ拍手とかしたい感じで終わるし!」
「うーん。殺傷力は申し分ないけど、確かに無駄が多いわね。まあ、このショー的なところが、魔法少女らしいと言えばらしいのだけれど」
「………………結局、どうなのよ?」
ああ~。
晴れやかだったベリーの笑顔がみるみる曇っていく。
両手を腰に当てて、ふくれっ面でこっちを見てるよ。
「んー、そうだねぇ。夜咲花ちゃんの案を採用してー、技の名前をクランベリー・ハートにしたらいいんじゃないかな! ベリちゃんの妖魔への殺意を否定する気はないけど、もっと魔法少女らしさも大切にした方がいいと思うな! だって、あたしたち、魔法少女だし☆」
「そう? 私としては、ハート成分を一切排除して、普通に赤い霧だけでよいと思うのだけど。まあ、でも、確かに、他の魔法少女を怯えさせるかもしれないわね。魔法少女というよりは、悪役が使いそうな技だしねえ」
「わ、分かったわよ! クランベリー・ハートにするわよ! それでいいんでしょ!」
月見サンと月下さんの二人に畳みかけられて、ベリーがブチ切れたー。
腕組みをして、ふんっとそっぽを向いてしまった。
頭から蒸気が上がっているのが目に見える様だよ……。
月見サンはともかく、止めを刺した月下さんは素直な感想を言っただけで、そういうつもりじゃなかったんだろうけど。
でも、それがかえって止めになったんだろうなー。
はー、でも、よかったー。
あたしとしても、道を踏み外した魔法少女的なミストよりも、如何にもな感じのハートの方がよいと思います。
せっかく、コスチュームが可愛いんだからさ。
もっと、王道を行こうよ。王道を。
魔法少女の王道 = 可愛いは正義!
これ、絶対!!