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第118話 お月様はミラクル、かもしれない。

 無事に水たまり用の穴も掘り終えて、「さあ、ショーの始まりだー!」って時に、タイミングよく魔女さんのところへ遊びに行っていたルナとココが帰ってきた。

 シュークリームのお土産付きで!

 魔女さん、気前いい! 好き!

 お月見団子じゃないのは残念だけど、そっちは夜咲花よるさくはなにおねだりしよう。

 こうなってくると、月華つきはな雪白ゆきしろがいないのが残念だけど、これまた仕方ない。いつ帰ってくるか分からないので、今回はあたしたちだけで控えめに楽しむことにした。こんな時でも、息抜きは大事だし!

 それに、なんかもう。月見サンが待ちきれない感じでね? 一人で張り切っているし……。延期とか言い出せる雰囲気じゃない。

 で、とりあえず。

 お土産のシュークリームは、後で食べようってことで、いったんアジトの中へ置いて来てもらって、それから。みんなで水たまり用の池(……ん? なんか、おかしいような? まあ、いーか)の手前に集まって座り込む。

 月見サンが、「あたしにまかせてー☆」っていうので、おまかせすることにして、あたしとベリーも観客側に回る。


「さ! みんなー! 準備はいいかなー?」

「はーい!」

「はいです」

「はーい……」

「茶番はいいから、早く進めてちょうだい」


 くるくるとマジシャン・ステッキを華麗に回転させてから、ピタッとステッキの先をあたしたちに向けて、ノリノリなテンションで月見サンが司会進行を開始する。

 ルナが元気に返事をして、そのルナの腕の中でココが律儀にお返事をして、付き合いであたしも一応返事をして、月下さんはちょっと呆れた感じですげなくあしらっている。他のみんなは、一人でテンションを爆上げしている月見サンについていけずに、曖昧な笑顔を浮かべながら、曖昧に頷いている。

 うーん、それにしても。

 しっぽと耳付きのアニマル系魔法少女に抱っこされる子ギツネ……。いい。すっごく、いい。もーう、見てるだけで癒されるぅ。


「もーう、みんな、ノリが悪いぞー! ま、いーや☆ んじゃ、お月さまのマジカルシャワーで地上……ゆーても元居た世界のことじゃなくてー、闇底の地面の上って意味だけどー! 闇の地上に落ちた月っぽい水たまりを作っちゃうゾー☆ なショータイム開始ー!――――の前にぃー!」


 ……………………え? 何? 何が始まるの?

 月見サンが一人でテンション高めではしゃいでるのは、いつものことだけど。

 お月見ショータイムの前に?

 前に何があるの?

 聞いてないよ?

 え? 何が始まるの?


 ベリー、もしかして、何か聞いてる?


 戸惑いながらベリーをチラ見すると、ベリーは微妙そうな顔で首を横にふるふるした。

 えーと。他のみんなは、どんな反応なのかな?

 紅桃べにももは、と。あ、なんかどうでもよさそうな顔して、体育座りした膝の上で頬杖をついているな。で、ルナとココは純粋に楽しみにしているみたいだね。うん、知ってた。あと、夜咲花は……と。あ、こっちもワクワクしてるよ? 目の奥で星が瞬いている。うん、可愛い。……えー、で、月下さんは、あ、月下さんはもう月見サン見ていないよ。楽し気なルナと夜咲花を見て、優しく微笑んでいる。ショーの始まりを楽しみにしている子供たちを見守るお母さんになってる。

 げ、月下さん…………。


「さあ、刮目せよー! 月の光で幸せを! ミラクル・ムーンライト・コスチューム・チェーンジ☆」


 え? 何? 長いよ?

 ん? コスチェンジ? コスチェンジなの?

 いっつも、語尾を伸ばす系な月見サンが、やたらと活舌よくカタカナっぽい単語をずらっと並べて、頭にちょこんとのっかっていた水色のシルクハットを宙へと投げる。つられて追いかけた視線の先で、シルクハットはポンと音を立てて弾け飛び、月見サンの衣装カラーのピンクと水色の光のシャワーというか滝みたいなのが、どわーっと月見サンの上に降ってくるというより落ちて来て。

 そして。

そして、ピンクと水色のハレーションが収まると、そこには。


「じゃ、じゃーん! 新生☆お月見系魔法少女、セクシーかつキュートに登場! どーよ、このお月見感! もーう、満載でしょぉ!? あ、セクシー&キュートよりもエロキュートの方がいいかな? ね、どう思う? 紅桃君!」

「お、俺に聞くな! てか、好きにしろよ!」

「えー? じゃ、エロキュートにしよ! こっちの言いやすくて可愛いし! もっと、ジロジロ見ていいよ☆」

「み、見ねーよ!」


 ピースサインで敬礼してウインクを決める月見サンは、確かにお月見感満載だった。

 お月見感満載で、それで水着になっていた。

 うん。なんで水着?

 お月さまの池で遊んだのが、そんなに楽しかったの?

 その水着が、お月様色に輝くきわどい感じのビキニタイプで。月見サン、巨乳とかじゃないけど、高校生のお姉さんらしく普通よりちょっと大きめくらいのサイズで、スタイルいいし。うん、まあエロいよね。羨ましくなんて、羨ましくなんて、ある!

 あのスタイルだけは、羨ましい!

 全体的には、絶対に真似したくないけど!

……………………………。

 はい。えー、で。

 紅桃は「見ねーよ」と言いつつ、顔を真っ赤にして、横目でチラチラ月見サンのお胸のあたりを見ているようです。ま、男の子だからね。うん、まあ仕方ないよね。てゆーか、エロさが刺激的すぎて、全体的な違和感には気づいていないみたいだね、紅桃は。


「ふっふふーん! どうよ? いまだにあたしの名前をたまに間違える月下ちゃんのために視覚的に訴える衣装を考えてみました☆ 今ならショーを盛り上げるのにも、ちょうどいいしー。チャンスと思って、ここでお披露目してみました☆」

「そうね。今後はもう、間違えることはないと思うわ。それはともかく、“ちゃん”は止めてって言ったわよね?」

「おっと、うっかり。ごめん☆ てへ☆」


 月見サンのコスチュームチェンジは、あたしが聞いている限りではこれが三回目で、最初はマリンっていう名前で正統派の魔法少女コスだったらしいんだよね。

 でも。正統派って、どこまで正統派だったんだろう?

 結構、疑わしいんじゃないかって、今、あたしは思っている。

 よく言って、正統派崩れってとこじゃない?

 だって、だってだよ。

 まあ、これが、月見サンの個性だって言われると、まあそうなんだろうなって感じなんだけどさ。


 解説しよう!


 まず、新コスチュームのメインは、さっきも紹介したお月様色に輝くきわどいビキニ。これは、まあ。なんで水着なんだって言うのはさておき、スタイルのいい月見サンによく似合っている。天女の羽衣風の半透明の布を羽織っていひらひらさせているのも、なんで水着の上に? っていう疑問は残るけど、まあ月見サンだしありかなって思う。

 ちょっと癖のある髪をポニーテールからツインテールにして、両サイドの前髪をそれぞれウサギさんの顔(片耳が折れてて、口はばってんのマーク! 普通に可愛い)のヘアピンとお月見団子のヘアピンで留めているのは、月見サンの顔立ちとか雰囲気にも合っていて可愛いと思う。キュート感出てる。てゆーか、あたしもそれ欲しい。


 問題は。


 問題は、二つあって。


 まず一つ目は、足元。

 水着とおんなじ色のヒールでも履いておけばいいのに、なぜか草履。

 水着なんだし、せめてビーサンにしようよ! 水辺感出しておこうよ!

 いや、羽衣とは、合っている……のか?

 んー……、まあ、いいや! 次!


 二つ目!

 これがまた、極めつけ。

 いや、お月見感は出てる。

 お月見感は、確かに凄い出てるんだけどさ。

 月見サンは、なぜか背中に大量のススキを背負っていた。

 しかも、穂先の方が仄かに光っていて、風もないのにさわさわ揺れている。

 お月見と言えば、確かにススキだけどさ。

 足元に生えている分には、背景として申し分ないと思うけどさ。めっちゃ、雰囲気出るけどさ。

 魔法少女が背負うもんじゃないと思う。

 夜陽に張り合ってるの?

 似た路線ではあるけど、あのお城には負けてると思うよ?


 まあ、こっちも。

 羽衣と草履とは、それなりにマッチしている?

 ん、んんー。

 つまり、水着に問題があるってことか!?

 …………目のやり場的には、確かに大問題かもしれない。

 うーん。本人はドヤ顔してるけど、なんて言えばいいんだろう?


「似合ってるわよ……」


 あ、ベリーが投げやりな感想を。

 褒めてないけど、褒めてるようにも聞こえるセリフを、嫌そうな顔で!

 うん。まあ。何だろう。

 似合っているというか、すごく月見サンらしくはある。

 何かがミスマッチなところが、すごく。

 際どい水着路線で行くか、羽衣和テイストで行くか、どっちかに合わせればいいのに。

 エロキュートと天女っぽい神聖さのミスマッチっていうか。

 でも、そこをあえて混ぜちゃうところが、月見サンっぽい。

 これぞ、月見サンって感じではある。

 あれ? じゃあ、これでいいのか…………?


 ぐるぐる悩み始めたら、拍手が聞こえてきた。

 ルナとココと夜咲花だろう。

 確認してないけど、間違いない。


「変身したー! 月見、すごい! それ、面白い! ルナ、前のよりもそっちの方が好き!」

「え、と。お名前をよく表現した衣装だと思います」

「うん! すごい! 名前にマッチしてる! 月見って感じする! 月見のこと知らない人も、一目でお月見の人って分かると思う!」

「そーでしょー! ご声援、ありがとねー☆」


 拍手とともに褒められて、月見サンはご満悦だけど、褒められている内容は割と微妙だと思う。内容は微妙なのに、本気で褒めているところがまた、さー。何とも言えなさを醸し出している気がする。


「さ☆ 新衣装が概ね好評で、満足したところで☆ いよいよ、始めるよー☆ 月の光で幸せをー☆」


 満開の笑顔の月見サンがぱちんと指を鳴らした。

すると、掘ったばかりの穴の上に、お月さま入りに光り輝く大きなジョウロが現れる。

 一部から、歓声が上がった。

 一部がどの辺かは、言うまでもないよね?


 あー。

 やっと、始まるのか。

 なんか、ここまで長かったな。

 あんなに楽しみにしてたのにな。


 今は、もう。

 なんか、どうでもいい。


 早く、シュークリーム食べたいなー……。


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