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第120話 可愛いは連鎖する。

「出来たよー」


 シュークリームを食べ終わって(美味しかったー♪)アジトの中でまったりしていたら、夜咲花よるさくはなの弾んだ声が聞こえてきた。

 お月様液を手に入れた夜咲花は、シュークリームには目もくれず、錬金魔法部屋に閉じこもって何やらつくっていたみたいなんだけど、どうやら自信作が出来たっぽい。

 茶の間にやって来た夜咲花は、コトリと音を立てて、ちゃぶ台の上に何かを置いた。

 甘さに癒されて床の上でゴロゴロを満喫していたあたしが、体はそのままで目だけを上に向けると、ちゃぶ台の上で仄黄色く光っているものが見えた。なんか、丸い。さらに、上の方に視線を移すと、満足げに笑っている夜咲花と、その隣で自慢げに腕組みをして胸を反らしているベリーが見える。

 ベリーは、夜咲花と一緒に錬金部屋に籠っていたんだったっけ?

 なんで、べリーまでそんなに自慢そうにしているの?


「ふふん。私のアイデアで作ってもらったのよ。悪くないでしょう?」

「ん。ベリーと合作した」


 あ、そゆこと。

 しかし、ドヤ顔でピースサインを決める夜咲花、かわいいな。

 ゆるふわっとしたショートヘアと、お子ちゃまな体形(人のことは言えないけど、でも、あたしの方が少しだけマシなはずだ!)、得意そうなやんちゃ顔。

 うん。かわいい。

 可愛さをしみじみと噛みしめながら、よっこらせと身を起こすと、ちゃぶ台の上にさらなる可愛いものが見えた。

 近著バチくらいのサイズの綺麗でかわいいヤツの周りに、小さくてかわいいのが並んでいる!

 くらげさんだ!

 ひー。

 なにこれ。かわいい!


「海月型の金魚鉢の中に池の水を詰めてみたら、魔法の海月型ライトみたいで素敵かと思って、いろいろ試してみたんだけれどね」

「最終的に、金魚鉢じゃなくて、ただのクラゲライト? ランプ? みたいになった。というか、した!」

「金魚鉢サイズのも綺麗だけれど、手乗りサイズのを作ったら、ひたすら可愛いんじゃないかと思って、おまけで小さいのも作ってもらったの」

「ん。いい仕事した。ベリーも、ナイスアイデア!」


 おー。おおー……。

 足のところにまで、ちゃんとお月様液が入ってるよー。

 大きいやつは、粒粒の飾りみたいなのがついていて繊細な美しさというか、なんというか。綺麗で幻想的で、でもちょっとかわいさもあって。

 手乗りサイズの方は、わちゃわちゃってした感じの足で、とにかくひたすらかわいい。

 どこにも切れ目がないみたいだけれど、どうやって中にお月様液を入れたんだろう?

 魔法みたい。

 …………あ、魔法なのか。

 そういや、あたしたち、魔法少女だったね。

 アジトでひたすらまったりしていると、たまに忘れそうになるよ。


「ふうん。いいんじゃない? アジトには合っていないと思うけれど、まあ、こういうインテリアがあってもいいわよね」

「まあ、女子はこういうの好きなんじゃね?」

「うん。かわいい。この、ちっさいのかわいい」

「“地上”に持って行ったら、結構いいお値段で売れそうだよねー。まあ、持って行けないんだけど!」

「おー、あれ? なんか、ぷにぷにしてるよ? 見た目と違う!」


 感想は、月下げっかさん、紅桃べにもも、あたし、月見サン、ルナの順となっております。

 うん、月下さんの言う通り、確かに日本昔話風のアジトには似合ってないね。でも、たとえ似合っていなくても、小物だけでも可愛く女の子らしくしたい。もっと、他にもこういうグッズ欲しい。でも、自分で作ると何か微妙なものが出来上がるんだよなぁ。つまりは、センスがないってことなんだろうか? へこむー。

 んー、で。紅桃。心春ここはるがいないからって、ちょっと気を抜きすぎじゃない?

 月見サンは…………何も言うまい。

 で、ルナ。なんか、さっそく小さい方を指の先でツンツンしてますけど。え? 何? これガラスじゃないの? 見た目はガラスだけど?

 どゆこと?

 とりあえず、あたしも真似してツンツンしてみることにする。

 お? おお!?

 ほんとだ! ぷにぷにしてる! 柔らかい!

 もしかして、こっちの綺麗な大きいクラゲさんもなの?

 まーるいところと、足のところと、両方をツンツンしてみると、こっちもやっぱり柔らかい感触!

 ふえ?

 小さい方は、短い足が、わしゃわしゃしてる感じだし、まあ、何とか立つのかなと思うけど。こっちの、大きいクラゲさんは、大分華奢で繊細で細っこいおみ足をしているのですが!? え? こんなに細くて柔らかかったら、上の胴体? 部分を支えられないんじゃないの? 液体が入っているんだし、それなりに重さはあるはずだよね? くにゃくにゃペシャーンってなったりしないの?

 ツンツンふにふにしながらちゃぶ台の脇に立ったままの夜咲花を見上げると、夜咲花はふふんとない胸を精一杯反らした。


「ま、錬金魔法製だからね! 見た目はガラスでちゃんと強度もあるけど、落としても割れないように、あとクラゲの質感をだすために、ぷにっとさせてみた。本物のクラゲは触ったことないけど! イメージで!」

「な、なるほどー。まあ、別に本物には似てなくても、これでいいと思うよ。ちょうどよい触り心地。しっとり冷たくて指の先に吸い付くような感じもあるし、つい触りたくなるー」


 ツンツンふにふにしていたら、夜咲花とベリーを抜かした他のメンバーも興味津々でクラゲさんを突き始める。ルナは小さいヤツの一匹を床の上に転がして遊んでいるけど。そして、その転がされたクラゲをココがモフモフの足先でそっとかまっているのが、ちょ~かわいい。かわいいの連鎖!

 夜咲花とベリーは、そんなあたしたちを、「そうでしょう、そうでしょう」という顔で見守っている。二人はたぶん、錬金部屋で散々いじりまくって満足しているんだろうな。


「あ、そうだ。月下、はい、これ。頼まれてたやつ」

「あら。ありがとう」


 小さいクラゲをルナの頭に乗せたりして遊び始めたら、夜咲花が月下さんに仄光るペットボトルを「んっ」と差し出した。三日月のラベルが貼ってある。言われてみれば、さっきからそんなの持っていたような、いなかったような。クラゲさんに釘付けで、目に入っていなかったよ。

 でもさ。最後の一つのジョウロに入っていたお月様液は、夜咲花と月下さんの二人で分けることになっていたんだけど、夜咲花が錬金部屋にこもる前に、月下さんの分はもう渡していたよね? 月見サンが、透明な水筒を魔法で作って、その中に入れて渡していたと思ったんだけどな?

 夜咲花が月下さんにペットボトルを手渡すのを不思議そうに見つめていたら、ベリーが教えてくれた。


「外の水たまりで放置されているのと、普通に魔法で作った容器で保存しているのと、夜咲花と錬金魔法で作った容器で保存した場合とで、何か違いが生じるか確認したいんだって」

「ええ。そうなのよ。この光がいつまで持つのかとか調べてみたくて。それに、魔素も含まれているみたいだし、普通の魔法で作った容器と、錬金魔法で作った容器で、魔素の量とかに差が生じるかとかにも興味があってね。まあ、本当は誰かに飲ませてみて、どうなるのかを確認してみたいんだけど」

「ちょっと、パトロールに……」

「冗談よ」


 月下さんが最後に漏らした、割と本音っぽい一言を聞いて、小さいクラゲをにぎにぎしていた月見サンが立ち上がろうとしたんだけど、立ち上がり切る前に月下さんがその手を掴んでグイッと引っ張り、強引にまた座らせる。

 月見サンが座った後も、掴んだ手を離さないところに、月下さんの本気を感じる。

 とても、冗談では済まなそうな感じがプンプンしているんですけど!?

 月見サンも、その不穏な雰囲気を感じ取ってか、月下さんから顔を背けてなるべく離れようとしているんだけど、振り払おうと頑張っているんだけど。けど。

 月下さんが、それを許さない。

 がっちり握りしめちゃっている。


 え、えーと?


 この隙に、ルナを連れてお外に行った方がいいのかな~?

 年少組で魔法少女体実験をするつもりはさすがにないみたいで、生け贄にするなら月見サンって決めてる感じもするから、大丈夫かな~とも思うんだけど。

 あー、でも、どっちにしろ、ルナはココとちびクラゲを取り合う遊びに夢中になってるな。これを、お外に連れ出すのは難しそうだ。


 どうしよう?

 月見サンは、助けを求める視線を必死で送りまくってくるけど、さ。

 あたしには、月下さんを止めることは出来そうもない。

 視線を感じながらも、気まずくて月見さんから目を逸らしたまま、顔も逸らして少しずつ距離を取っていく。

 ふと気づけば、紅桃とベリーが傍にいた。

 二人ともやっぱり、微妙に固い顔で床の上の何もないところを見ている…………けど、見ていない。全神経は背後で繰り広げられているお姉さんたち二人の無言の戦いに集中しているから、視線は床に固定されているけれど、今、床の上で何かが起こっても(小人さんが突然現れて踊りだしたりとかしても)、たぶん二人とも気が付かないと思う。

 もちろん、あたしもだ!

 ああ~。早く、解放されたい。

 月華つきはな雪白ゆきしろ、早く帰って来てくれないかな?

 雪白なら、止めてくれそうだし。

 ………………ん? あれ? 待って? 一人足りなくない?

 月華で思い出したんだけど、月華大好きっ子の夜咲花は、どうしたんだろう?

 一緒に避難しているわけでもなく、ルナたちと遊んでいるわけでもない。

 あたしは、両手でガードしながら、手の隙間からチラッと背後を覗き見る。

 夜咲花は…………。


 うわ!

 キラッキラしたお目目で、ペットボトルの蓋を開けた状態で待機しとる!

 麗しき“月の悪魔”の手先になっとる!


「ふふ、月見。ほら、夜咲花も期待しているわよ? 大丈夫よ。お月見ガールとして、ちょっと、内側からも光り輝いてみましょうよ?」

「いや、ちょ、さっき、冗談だって、言ったじゃん!」

「うーん。そのつもりだったんだけど、でも、ほら。夜咲花も、興味があるみたいだし。年長者として、その好奇心を後押ししてあげるべきかなって思ってね?」

「えっと、ほら! あたしってば、そんなアイテムに頼らなくても、すでに内面から満月のように光り輝いた素敵なお姉さんだし!」

「あら、私が言っているのはそういう精神的な意味じゃなくて、もっと物理的に内側から光り輝いてみましょうって意味よ? そういうの、好きでしょう?」

「そうそう。内側からも外側からもムーンライトアップ! 大丈夫、触って大丈夫だったんだから、飲んでも大丈夫だよ! ちょっと、お腹の中が光るだけ。うまくすればお腹の光が外まで透けて見えるかも! 月見、ビキニだからよく観察できそう。期待できる」

「ひー! 夜ちゃんまで~! しかも、あたしが狙われてるのって、そういう理由!?」

「あら、私はそれだけじゃないけれど。まあ、試すならやっぱり月見よね、って思って。ここは、ほら。お姉さんの出番でしょう? 大丈夫よ、月見。だって、あなたは魔法少女なんだもの。絶対に、大丈夫よ? だって、魔法少女なんだもの」

「い、いや~! お腹の中が光ってるのが透けて見える魔法少女はいや~! なんか、虫っぽい~! 気持ち悪い~!」


 う、確かに気持ち悪いかも。

 お腹の中から妖魔が生まれるとかよりは、マシかもだけど。


「な、なあ? 月下美人は、どこまで本気なんだ?」

「………………わ、分かんないよう! なんか、楽しそうに笑ってもいるから、もしかしたら月見サンのこと、からかって遊んでるだけかもしれないけど」

「ま、まあ、本当に飲んでも大丈夫だから、なのかもしれないし?」

「いや、でも、大丈夫だったとしても、俺はあんな光ってる水は飲みたくねーぞ?」

「あたしだって、嫌だよ! 体的にどうかとか関係ないよ。妖魔が浸かったかもしれないってだけで、もう大丈夫じゃないよね!? 体が大丈夫でも、心が大丈夫じゃないよね!?」

「妖魔が浸かったかもしれない水に、自分も浸かったりはしていたけどね」

「う、それは、そうだけど! ちょっと、テンション上がってその時は、気にならなかったし! でも、浸かるのと飲むのは全然違うし!」

「まあ、それはそうね。私だって、絶対に嫌だし。平気なのは、ルナくらいじゃない?」


 一回、夜咲花の様子を確認した後は、完全にちゃぶ台方面からは背を向けて、あたしは関係ないとばかりに背中を丸める。同じ姿勢の紅桃とベリーと一緒に、ダンゴムシの井戸端会議状態で、声を潜めつつも割と語尾が強めにコソコソ話しを始める。

 ちゃぶ台方面からは、楽しそうな月下さんと夜咲花の笑い声がたまに聞こえて来て、それから割と頻繁に月見サンの悲鳴が聞こえてくる。

 どうなっているのかは、怖くて確認できない。したくない。

 ルナとココがこの状態でどうしているのかも、分からない。

 月下さんがこんなに楽しそうにご乱心なの、初めてじゃない?

 なんで、夜咲花はあんなにノリノリで参加できてるの?


「まあ、こうなったら俺たちに出来ることは一つだけだな」

「そうね」

「そうなの?」

「ああ」

「月見のご冥福をお祈りしましょう」


 え、ええ~!?

 出来ることは一つって、それ、何も出来ることはないと同じじゃん?!


 ああ~!!

 どうしよう。華月と戦う前から、月見サンが大ピンチだよ!


「た、助けて! 月華~!! 月の女神様~!!」


 きゅっと目を閉じてお祈りポーズをしたその時。

 まるで、あたしの願いを聞き入れてくれたかのように、アジトの戸がガロンと開いた。


「ただいま、帰りました~!!」


 ……………………でも、残念。奇跡じゃなくて、ただの偶然だったみたいだよ。

 キノコが帰ってきやがった。

 キノコが一匹増えたところで…………いや、待てよ。これは、つまり。月見サンに代わる新たな生贄が自らのこのこやって来てくれたということでは!?

 相手がキノコなら、見捨てた罪悪感ってヤツを、あんまり感じなくても済む!

 そう思いついて、ガバリと身を起こして玄関口を見やると。


 キノコは、なんかもうすでにビカビカしていた。


 …………………………………………。

 うん。決定。


 月下さん、魔法少女体実験をするなら、こいつにしましょう。

 なんか、もう。

 見た目的には、魔法少女かどうかも怪しい感じではありますが。

 でも、だからこそ。月見サンを犠牲にするよりは、心が痛まなくて済むというか。

 ね?

 どうですか、月下さん?


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