「おい、
「…………まあ、いいでしょう。少しは、付き合ってあげてもいい。では、こんなのはどうかしら? フラワー・ガード。それから、フラワー・ガーディアン」
それが当然みたいな顔をして、
ベリーがクサリちゃんだったころは、怒りと屈辱を隠そうともせず、華月を憎々し気に睨みつけつつも、体を張って言われたとおりにするしかない感じだったけれど。
フラワーといえば。
うん。なんか、いつものフラワーな感じで、割とどうでもよさそうに、素っ気なくしっとりと呪文的なことを囁いている。
一応、言われたとおりにはするみたいだ。
で。
囁くような呪文…………のとおりのことが起こった。
華月のセーラー服が、色とりどりの小花で覆われていったのだ。スカートの、裾の方から、ゆっくりと。
しゅるしゅるしゅるしゅるしゅる、って感じで。
やっているのがフラワーじゃなかったら、魔法少女の変身シーンみたいなんて、ときめいちゃっていたと思う。
それくらい、なかなかにファンタスティックだった。
でも、やっているのがフラワーだと思うと、途端にホラー感とかオカルト感とかが漂いだすというか、なんかの呪いなんじゃないかっていうか。
華月は、一人で勝手にひどい目にあうんじゃないかなって気がしてくるのだ。
――――なんてことを考えながら、鳥肌腕をこすっている内に、華月のセーラー服は小花仕立てに変わり、フラワーとおそろいの服を着ているみたいになった。
これが、たぶん。フラワー・ガードの方なんだろう。どういう効果があるのかは知らんけど。月華や月下さんの攻撃を防げたりは、さすがにしないんじゃないかと思うけど。でも、あたしたちの精神に多大なダメージを与えているのは間違いない。
あ。これが、呪いの効果か。
はっ。これだと、華月じゃなくて、あたしたちがひどい目にあっている? い、いや。いやいやいや。きっと、華月にも何か効果があるはずだ。だって、フラワーだもん。フラワー以外のみんなに、何か害があるはずだ!
ん?
華月が花まみれになるのと同時に、フラワー・ガーディアンとやらの方も完成している、ね?
えーと、まあ。その名の通りの、花で作った人形?
大きさは、大人のマッチョな男の人、くらい。フラワーボールの頭に、フラワー胴体とフラワー手足がくっついている仕様。なんていうの? 小花を編んで作った、丸と楕円をつなぎ合わせて作った人形みたいな。生垣アートのお花版みたい、でもある。
顔とかが描いてあったりするわけじゃない、すごいシンプルな人形で、何か武器とか持ってたりするわけじゃないのに、なんか怖い。
フラワーというだけで、怖い。
とにかく、怖い。
そんな恐ろしいフラワー・ガーディアンは、なんと二体いた。
月華と月下さんから華月を守るように、華月の前に立っている。
月華と月下さんは、横並びになって華月と向かい合っていたんだけど、フラワー・ガーディアンは、華月の真ん前に横並びになってガードしている。
ちなみに、フラワーは華月の後ろで、しっとりと優雅さすら感じさせる佇まいで立っていた。伏し目がちで憂いを漂わせているけど、どこか他人事っぽくもある。
いや、君、当事者だよね?
とゆーか、ある意味、黒幕だよね?
なんで、そんな誰かが置き忘れた花人形みたいな目で華月を見つめているのかな?
見つめているっていうか、観察しているのかな?
な?
「どういうつもりで、こういうことになってるのかは知らんけどー、人形を戦わせて、自分は華月のために動くつもりは一切ないみたいだねー。さっすが、フラワー。絶妙なやる気のなさー」
月見サンの乾いた笑い声が聞こえてきた。
ああ。まあ、確かに。そうですね。フラワー自身は、華月の後ろから一歩も動いていないし。たぶん、この後も、戦闘はガーディアンにお任せして、あそこから動くつもりはないんじゃないかな? いざとなったら、自分であの花鎖も立ち切っちゃいそう。
フラワーらしいといえば、フラワーらしいけどね。
そんなことを思って生ぬるく笑いながら、チラッと他のみんなの様子を確認してみる。
ルナは、この事態をまるで気にしていないというか、まあよく分かっていないんだろう。
そして、ベリーは。
ベリーは、心配と怒りのメータが爆発しそうにグーンって上がっている最中に、なにかがおかしいことに気づいちゃったみたいな、背景が宇宙になっちゃってるみたいな顔で、やっぱり固まっていた。
ベリー…………。
うん。今は、そっとしておこう。
心の中でそっと涙を拭い、視線を下に戻すと、月下さんが盛大にため息をつきながらこめかみを人差し指でぐりぐりしているところだった。
長い長いため息をつき終わると、ぐりぐりしていた方の手で、ブチっと乱暴に髪の毛を引っこ抜く。そのまま、ブンと腕を振り下ろすと、長い髪の毛はそのまま細身の剣に姿を変えた。
なんか、カッコいい!
月下さんは、剣を構えながら、もう片方の手で数本の髪の毛を引き抜くと、それを空へと放つ。放たれた髪の毛は、この前の時みたいに針金で作った蝶々へと姿を変えた。
ひー、ふー、えーと、5匹いるかな。
何の合図もなく、蝶々は超スピードで華月に向かって襲い掛かっていく。
同時に、月華も月光ブーメランを構えながら、華月に向かってダッシュ!
ふわお! 息、ピッタリ!
華月は、余裕の顔をして、その場から一歩も動かなかった。
フラワー・ガーディアンにお任せしちゃうつもりらしい。
それ、本当に信じていいの?
信じちゃって大丈夫?
いや、あたしが言うのもなんだけどさ。
お任せされたガーディアンたちは、ゆらりと揺れながら、一歩前に出た。ゆらり、と両手を前に突き出して。ゆらり、と肩の上まで上げていき。ゆらり、とバンザイポーズでスタンバイ。
うーん? なんか、風が吹いたら、そのまま吹き飛んでいきそうなんですけど?
いや、これ。
蝶々たちは、躱したり突き抜けたりしながら華月のところまで行っちゃいそうだし。
月華は、あっさり簡単に花人形を切り捨てて、華月のことも一刀両断にしちゃいそうだよね?
未来が見え……見え…………ええ!?
信じてお任せしていた魔法少女の実力にあっさり裏切られて、華月あっけなくご臨終の未来がくっきりはっきり見えていたのに。
星空の未来予想図は、ふんわり粉々に破り捨てられた。
フラワーによってフラワー的に。
この戦い、どうなるかさっぱり分からない!
もしかしたら、まず倒さなければいけないのは、フラワーなのかもしれない。
フラワー祭りになりつつある下の戦い(なのかどうかも、もはや分からん)を高みから見下ろしながら、あたしはそんなことを思った。
ある意味。
華月以上の難敵なのは、間違いなかった。