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第126話 フラワーのお時間

 これ一体、どういう気持ちで見ていればいいんだろうな。

 えー、只今。

 現場である、アジトの周りにある草原を抜けた先の荒野では――――。


 月華つきはなは、フラワー・ガーディアンと“じったりじりじり”した鬼ごっこを開催中だし。

 月下さんは、フラワー・ガーディアンにぎゅってされたまま、モフモフナデナデされてて、なんか放心中だし。

 そんな中、あたしたちの敵であるはずの華月かげつは――――。


「おい、おまえ! どういうことだよ! おまえは、ボクの使い魔、ボクの魔法少女だろう!? 勝手なことをするな!」

「お断り。あなた、私の好みではないし。あまり役に立たなかったし。期待外れも、いいところ」


 使い魔の魔法少女にもてあそばれちゃった華月は、フラワーに向かってキーキー騒いでいるけど、なんか、まったく相手にされてないっていうか、あっさりいなされちゃっていてさ。

 うん、どうしよう?

 あいつ、嫌なヤツだし、許せないヤツだし、敵なのに、可哀そうになってきちゃったよ?

 てゆーか、フラワーが悪役にしか見えないんですが?

 だって、しっとり余裕の表情で、なんかさ、華月よりもずっと勝手なことを言ってなかった?

 眼中にないっていうのは、こういうことですよーっていう、お手本を見せられているような、そんな感じなんですが?

 あたしたちは、これを見て。

 一体、何をどうすればいいの?


 いや、だって。

 これ、これさ?

 マンガとかアニメとかだったらさ?

 クライマックス、っていうの?

 本当だったら、いっちばん盛り上がるシーンになるはずのところだよね?

 強敵とのラストバトル!――――と思って現場に急行したら、仲間の一人が捕まっていた!――――とかさ!

 めっちゃ、ハラハラドキドキ、するところだよね?


 なのに、なんでこうなってるの?

 捕まったはずの仲間は、洗脳されたわけでもないのに、一人で勝手なことしてるし?

 ラスボスだったはずの妖魔は、可哀そうでしかないし?

 本当に、どうすればいいの?

 どうすればっていうか、本音を言えば、もうアジトに帰りたい。

 だって、結末を見届けたくない。

 だって、だって。

 フラワーな予感しかしないもん!


 ――――――――なーんて、脳内で一人会議をしていたら、ベリーがポツリと呟いた。

 背景が宇宙になっているみたいな顔をしたまま。


「前回はさ、正直、足手まといになっていた自覚はあるわけよ。私が捕まっていなかったら、あの二人、もっと本気で戦えていたと思うのよね。だから、今度こそ、あいつを仕留められるって、そう思ってた」


 いやいやいや! 足手まといだなんて、そんなこと思ってないから!

 だって、前回は。ベリーを助けることも大事な目的の一つだったし。それに、そもそも最後の最後で華月を仕留めそこなったのは、ベリーのせいじゃないし。月華が、おさるさんだったせいだし。月華がもう少しかしこかったら、あそこで終わっていたと思うよ。本当。

 そう言いたかったけれど、ベリーがさっきのセリフで一番言いたかったことは、そこじゃないっていうのもなんとなく分かったので、今は口を噤んでおく。

 代わりに、月見サンが合いの手を入れてくれた。


「あー、うーん。今回はー、なんていうか、いろんな意味で、フラワーがダークホースになっちゃってる感、あるよねー」

「うん。二人が失敗したら、その時は私が、って。ずっと、思っていたのに。…………今は、まったくそんな気にならないわ。むしろ、あの空間と関わり合いになりたくない……」

「それは、みんな思ってるよー……」

「このまま、あいつら置いて帰っても、問題ないような気もするけどな。なんかさー、しれっと全部が解決しているか、振出しに戻って仕切り直しになるか、どっちかって感じだよなー。とはいえ、本当に帰ったら、置いていかれた月下美人が荒れ狂いそうだからなー。やっぱ、ナシだよなー…………」


 月見サンが乾いた笑い声を虚ろに響かせ、紅桃べにももが力なく本音を漏らした。

 あー、そうか。

 そうだね。帰りたいけど、帰ったらダメだよね。

 月下さんを怒らせたら、怖そうだもん。


「もう! 何を言っているんですか! お三方の愛の行方を、しっかりと最後まで見届けなくては!!」


 心春ここはるだけが、目を爛々と輝かせて、興味津々で身を乗り出すようにして、足元の状況を見守っている。

 さらっと華月の存在を無視しているところが、さすがだ。

 てゆーか、お三方って言ったけど、月下さんの役回りは、どうなるの?

 は!?

 それとも、お三方って、フラワーと月華と華月のこと?

 存在を無視されたのは、もしかして月下さんの方ってこと!?

 ちょっとだけ、気になる。

 でも、聞かない。絶対に、聞かない。

 あたしは、存在をギラつかせている心春から目を逸らし、癒しを求めた。

 いろいろと分かってなさそうで、結果的にマイペースなルナを見て和むことにした。

 ルナは、花の塊にモフモフされている月下さんが気になってるみたいだね。じっと見てる。

 もしかして、ルナもやってほしいのかな?

 ふふ。あれが、羨ましいなんて、ルナは可愛いなー。お胸のサイズは、可愛くないけど。あたしは、そっちの方が羨ましいかなー。

 ううん、癒されたけど、傷つけられた。

 あたしは、真の癒しを求めて、月見サンの空飛ぶ竹ぼうきの後部座席にいる夜咲花よるさくはなに目を向けた。

 夜咲花は、あたしたちの間に漂う微妙な空気に気づかないまま、月華を見つめていた。フラワー・ガーディアンに圧されてジリジリ後退中の月華を、心配そうに見つめていた。

 ちょっと、胸がキュンとした。

 だって、夜咲花ってば、フラワー的な意味で心配しているんじゃないっぽいんだもん。

 背後にフラワーがいるから、そこが心配…………とかじゃなくて、純粋にフラワー・ガーディアンに手こずっている月華を心配しているんだ。

 たぶん、夜咲花の中では、まだ黒幕は華月のままなんだろうなー。

 とっくに、フラワーに乗っ取られちゃってるのに、月華を心配するあまり、その後のフラワー劇場は目にも耳にも入ってなかったんだろうなー。

 夜咲花っぽいな。可愛い。


 で、その黒幕を乗っ取ったフラワーが、今、何をしているのかというと。

 えー。猿回しならぬ、妖魔回し?

 なんかねー。

 怒り狂ったおサルさんみたいになっている華月の猛攻を、うまく花鎖も使ってあしらいつつ、ひらりひらりと優雅に躱しているんだよね。

 余裕すぎて、襲われているというよりも、ペットと遊んであげているみたいになってるんですけど。

 フラワーの独壇場って感じなんですけど。

 なんか、もう。

 前回の戦いは、何だったんだろう…………って気分になってくる。

 いや、ベリーを助けた大事な戦いではあったんだけど。

 この現場に急行するまでは、華月ってすごい強敵だと思ってたのに。

 今は、ただのザコ敵っぽい…………。


 なんて、すっかり気が緩み切ったその時。


 事態は、大きく動いた。


 いや、え?

 何?

 どゆこと!?


 フ、フラワー!?!?


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