夢って、儚いな。
なんて、柄にもなくそう思った。
いや、だってさ。
日本昔話風のアジトを、女の子っぽい、いかにも魔法少女のアジトって感じの可愛い感じに改造するっていうのがさ。
ずっと、あたしの夢だったわけよ。
それが。それがさ。
こんな形で、叶っちゃったって言うか。
でも、やっぱり、微妙に叶ってないって言うか!!!
うむ。
わけ分らんよね?
順を追って話そう。
えーと、あれだ。
魔法少女を狩る妖魔、
洞窟の魔女さんと、魔女さんの劇的に女子らしく可愛いお部屋だったのだ。
いや、外から見たら、まったく全然、いつも通りの日本昔話風のアジトだったんだけど。
中に入ったら。中に入ったらさあ!
なんか、人数が増えて来て全員集合すると、ちょっと手狭感が出て来ていたアジトが広くなっていてね。
でね。日本のあばら家じゃなくて、洋風な感じのお嬢様とかが住んでそうな部屋になってるんよ。もう、壁紙とか、アイボリーにミニバラの模様とか入っててさ。こげ茶色のアンティークな感じの棚に、レースの飾りとかが付いてたりなんかして。中に並んでいるガラスの瓶とかも、絶妙に可愛いフォルムをしていて、やっぱりレースのリボンが巻かれていたり、縁の模様が可愛いラベルが貼られていたりしてね。ま、まあ、中身はね。魔女さんの持ち物だけあって、キラキラ可愛い感じのもあるけど、あんまり直視しない方がいい感じのものもあるっぽいけどね。それは、ほら。危険地帯を見ないようにすれば、全体的には十分可愛いし!
んでね。
部屋の真ん中には、横長の真っ白テーブルが置いてあった。テーブルには、お茶とケーキとクッキーが人数分用意されていて、お茶会の準備万端でさ。長方形の長い辺の方には、五つずつ椅子が用意されていて、魔女さんは、長方形の短い方にある椅子に座って、紅茶のカップを傾けていた。
なんか、当主様って感じ?
んで、誰もいないはずのアジトに、それでも一応「ただいまー」言うて帰ってきたあたしたちを、さ。
「おかえり。まあ、くつろいでくれたまえ」
なんて言って、出迎えてくれたのだよ。
いや、ここ。
あたしたちのアジトですよね?――――――――なんて、ちょっぴり思ったりもしたけれど。
いろいろあって、疲れていたせいもあって(本当にいろいろあった)。あと、美味しそうな紅茶とお菓子につられたっていうのもあって(これは、あたしだけかもしれんけど。いや、ルナは絶対にあたしの仲間のはずだけど)。
あたしたちはフラフラと、花の蜜に吸い寄せられる蝶々のように、それぞれ適当に椅子に座っていった。
ちなみに、先にアジトへ帰ったフラワーは、すでにお茶をしながらくつろいでいた。
「大分、お疲れのようだね。どうぞ、好きに召し上がってくれたまえ」
「はい! いただきます!」
「やったー! いただきまーす!」
魔女さんに促されて、あたしとルナは大喜びで、何のためらいもなくセットされていたフォークを握りしめてケーキへ突撃!
あうぅ!
甘い幸せに脳が蕩ける! 幸せ!
「……………………いただきます」
後から、ぽつぽつと「いただきます」の挨拶が聞こえてきたから、躊躇っていたと思われるみんなも、あたしたちにつられて次々とテーブルのへのお菓子へ手を伸ばしていった……んじゃないかと思います。うん。目の前のお菓子のことで精一杯で、みんなのこととか見てなかったから、よく知らんけど。
で。
甘い幸せに、十分心が癒されたところで、魔女さんへの質問タイムが始まった。
「ご馳走様でした。それで、どうしてこんなことになっているのかしら? ここは、私たちのアジトのはずよね?」
初っ端は、月下さん。
飲み干したカップをソーサーに置くと、挑むように魔女さんを見つめる。
薄紫色のふわふわした長い髪をした魔女さんは、相変わらずエンジのジャージを着ていた。長い前髪で、片方の目が隠れているのが、なんかミステリアス。
何でもお見通しです、みたいな眼差しと喋り方が特徴で、売れっ子の腕利き占い師さんってこういう感じなんじゃなかろうかという勝手なイメージ。
「ああ、失礼。スムーズにお茶会にお招きしたかったものでね。君たちの帰宅に合わせて、この部屋の入り口と君たちのアジトの入り口を繋いだだけさ。安心したまえ。入り口の設定は、今は元に戻してある。君たちのアジトへは、そこのクローゼットから行き来できるようにした」
「は?」
「ふぇ!?」
な、なんですと?
あたしは、後ろを振り向いた。魔女さんが、チラッてあたしの背後に視線を投げたからだ。
あ、先にテーブルの並びを説明しておこうか。
えっとね。長細いテーブルの、短いところに魔女さんがいて。魔女さんの右手側が、あたしの向かい側になる。向かいの方は、魔女さん方面から、月下さん、
あたしたちが入って来たドアは、魔女さんの反対側、月華やフラワーたちの座っている方にあって、クローゼットはあたしの後ろにある。んーと、大体そんな感じ。
で、話を戻そうか。
んーと、魔女さんの話を確かめるために、心春が、ドアの方を見に行った。なので、あたしはクローゼットを確認してみることにする。
えーと、どれどれ?
これまた、アンティークな感じの、可愛くてお高そうなワンピースとかがいっぱい入っていそうなクローゼットなんですが。
開けてみたら――――。
「ふわっ! ホントだ! ホントにアジトに繋がってる!」
「ホントだー! 行ってみよー!」
お、おおっと。
いつの間にか後ろにいたルナが、あたしを押しのけて先にクローゼットの中へ入っちゃったよ! クローゼットの中っていうか、開けたらもう、見慣れたアジトの板間が広がっていてさ。アジトへ通り抜けたって感じですが。
と、とりあえず、あたしも行ってみよう!
もし、戻って来れなかったら、ルナ一人になっちゃうし!
で、ルナの後を追いかけて潜り抜けてみたけれど。
あー。本当にアジトだ。
うーんと、玄関から見て左手の壁の方から出てきた感じになるのかな。
そうっぽいな。
一応、確認のために、玄関を開けてみたら、ちゃんといつも通りの草原が見えた。それから、夜咲花の錬金魔法部屋も見てみたけれど、うん。ちゃんと、と言っていいものかどうか分からんけど、フラワー仕様の錬金部屋になっていた。
後は、魔女さんのお部屋に戻れれば問題なし!
出てきた壁の方を見ると、あー、なるほどー。こうなるのかー。
こっち側から見ると、クローゼットじゃなくて、いつの間にか取り付けられていた押入れ(まあ、お部屋を連結した時に、魔女さんが作ったんだろうけどさ)が開け放たれていて、その向こうに魔女さんの鬼可愛いお部屋がある感じです。
んん。でも、この。
クローゼットとか押入れの中が、別のお部屋に繋がっているのって、なんかイイ!
魔女っぽい!
……………………ぽくない?
ん、まあ、いいや。
とりあえず、必要なことは確認した!――――と思うので、ウロチョロしているルナを捕まえて、魔女さんの部屋に戻る。
元の席に戻って、張り切って報告しよう!
と思ったのに、開け放たれたクローゼットから向こう側の様子は見えていたみたいで、すでに話は進んでいた。
…………寂しい。
あ、そうそう。心春が見に行ったドアの向こうは、魔女さんのお部屋に繋がっていた洞窟っぽい通路と同じ、魔素が全然ない真っ暗闇な暗闇だったようだ。…………ん? 真っ暗闇な暗闇……? えー……つまり、ものすっごい真っ暗闇ってことだ!
まあ、とにかく!
そんな感じで、みんな、魔女さんのお部屋とアジトがクローゼットで繋がっていることは、ちゃんと分かっているみたいだった。
アジトの方は押入れになってることは、あたしとルナしか知らない情報だけど。
えー。で、結局。それは一体、なんで?
ちょっと、あたしの知っている魔女さんのキャラと違うような気がするんだけどな。こういうの。
と思っていたら。
月見サンが、気まずげな顔で、魔女さんから視線を逸らしながら、月見サンにしては歯切れが悪い感じでこう言った。
「それでー、わざわざお茶会にお招きいただいたのはー、もしかしてカケラのことかなー、って思うんだけどー。えーと、それがねー?」
あ!
お菓子で頭が蕩けたり、クローゼットと押入れでびっくりしたりで忘れてた!
そうだ。そうだよ!
カケラといえば魔女さん!
そして、魔女さんといえばカケラ!
華月との戦いで、あたしたちはまたカケラを一つ手に入れた。
いや、あたしたちっていうか、正確にはフラワーが、だけど。
カケラは、華月が体内に持っていたみたいだった。
前に、闇鍋市場で暴れていた妖魔と同じに。
闇鍋市場の妖魔の時は、月華に倒された妖魔の残骸の中からカケラが見つかったんだけど。華月の時は、フラワーが直接華月の体内からカケラを取り出して、そうしたら華月が、月華のコスプレをした人型妖魔からモグラ妖魔へと姿を変えたのだ。モグラ妖魔になった華月は、体から黒い泡が出て来て、その泡に包まれるようにして消えてなくなってしまった。
今、思い出しても、ちょっとゾクリとする。
あれは一体、どういうことだったのか、魔女さんだったら分かるのかな?
いや、その前に、カケラだよ。
魔女さんは、カケラを集めていてあたしたちに捜索を任せてくれていたんだけれどさ。
華月から取り出したあのカケラは、フラワーが地面に埋めちゃったんだよね。
種まきならぬ、カケラまきみたいな感じでさ。
フラワーに、魔女さんにカケラを渡す気がなければ、もしかして喧嘩になっちゃったり、する?
ひー。
恐る恐る、フラワーと魔女さんを見る。交互に。
フラワーは魔女さんがカケラを探していることを知らないみたいだった。フラワーには、話してなかったっんだっけ? それとも、単にフラワーが月華にしか興味なくて話を聞いていなかっただけかな? そっちかも知れないな。
まあ、とにかく。フラワーは不思議そうに首を傾げていた。
そして、魔女さんは。
すべてを見通す占い師の水晶玉のような瞳をスッと細めて、口元にうっすらとした笑みを浮かべて、冷たくて暗い湖の底みたいな声で言った。
「知っている。埋められたカケラは、闇底に吸収されてしまったようだな。それとも、同化した…………というべきだろうか? 掘り返しても、今はもう何もないはずだ」
「あら? そうなの? 残念……いえ、この闇底世界そのものが、花として咲き乱れる……という可能性もありそう。それはそれで、とても素敵」
え? ええ!?
吸収!? 同化!? 何にもない!?!?
という驚きは、魔女さんの後に続いたフラワーの前向きなようでいて、フラワー本人以外的には後ろ向き?――――な発言によって、かき乱される。
いや、闇底世界そのものが花として咲き乱れるって、フラワー的にどういう意味?
一見…………いや、一聴?――――すると、確かに女子的に素敵な発想なんだけど。発言者がフラワーの場合は、フラワー的な意味でうすら寒さしか感じないんですけど。
もう、止めて?
フラワーさんてば、関係者真っただ中だけど、でも、それでも。
会話に入ってくるの、止めて?
世界がフラワーになっちゃうから――――。