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第130話 フラワー汚染

「結局、カケラって、何なのかしら?」



 フラワーが関わっていることに微妙さを感じつつも、それでもやっぱり綺麗なものは綺麗なわけで。

 幻想的なお花の鑑賞会をしつつ、自分が蒔いたらどんな花が咲くだろう、なんて予想話に花を咲かせていたあたしたちへ水を差すように、月下さんがポツリと呟いた。

 幻想的に綺麗なお花には目もくれずに、一人考え事にふけっていた月下さん。

 たぶん、少々浮かれていたあたしたちを諫めようとか、そういうつもりはまったくなかったと思う。

 考えていたことが、うっかり口から転がり落ちちゃっただけ、みたいな。

 そんな感じ。

 でも、その一言はなぜかあたしたちに重く響いて、あたしたちは雑談を止めて月下さんに注目する。

 けれど、月下さんはと言えば。

 自分の一言があたしたちに与えた影響に、全然気が付いていないみたいで、その後はすっかり黙り込んでまた、自分の中に入り込んでしまっていた。


「うーん。今の月下ちゃんの呟きを聞いて、ふと思いついちゃったんだけど。カケラはさ、取り込んだ妖魔に何某かの変化を与えたわけだけれどさ。その性質って、この花に受け継がれてたりとか、しちゃったりする?」


 さてさて、どうしたものかなー、なんて思っていたら。

 月見サンが、月見サンにしては珍しく、恐る恐るって感じで、そんな質問をする。その視線の先では、ジャージの魔女さんが静かに佇んでいた。

 魔女さんは、口の端にうっすらと笑みを浮かべて、簡潔に答えた。


「それは、検証が必要だな」

「あっちゃー。そうなんだー……」


 魔女さんの答えを受けて、月見サンが苦笑いを浮かべる。


「あ、あと、も一個聞きたいんだけどさ。華月かげつの願いって、月華つきはなになることだったのかな? カケラはその願いを叶えて、モグラ妖魔だった華月の見た目を人間タイプにして、力を与えたってことでいいのかな?」

「いや、カケラが影響しているのは、基本的には見た目の変化だけだな。元々は、君たちが“道”と呼ぶ空間に干渉する能力に特化した妖魔で、戦闘能力は低い。それは、カケラを取り込んだ後も変わらなかったはずだ。あの妖魔に力を与えたのは、直接的には……」

「華月に喰われた魔法少女たちの血肉ね」

「そういうことだ。ただ、力を取り込むにあたっては、カケラが影響している」

「どういうこと?」


 引き続いての月見サンの質問に、淡々と答えていく魔女さん……の言葉が途中で搔っ攫われた。犯人は、ついさっきまで月華と合体していた鳥型妖魔の雪白ゆきしろだ。

 今は、合体を解除して、スズメサイズの真っ白い小鳥になって、月華の肩に止まっている。頭のてっぺんにちょこんとのっかっているプリンセスクラウンの飾りが可愛い。

 魔女さんは、言葉を遮った雪白に気を悪くした様子もなく頷いた。

 いや、そういうこと、ってどういうこと?

 考えるよりも前に質問していた。


「ああ。妖魔にはね、自分が倒した相手の血肉を喰らうことで、その力を取り込むっていう性質があるのよ。でも、絶対じゃない。喰らった相手が自分よりも格上なら、その血肉は力になるどころか、むしろ身を滅ぼす毒になる」

「ど、毒…………」

「カケラから直接力を得たわけじゃないなら、華月は、喰らった魔法少女たちの力を自分のものにして、強くなっていったんでしょうね。その際、カケラは月華になりたいという華月の願いにより、毒を力に変える手助けをしていたってこと」

「ひょ、ひょえー」

「…………最初は、一見、魔法少女っぽく見えるあの見た目を利用して、相手を油断させて……っていう戦法をよく使ってたらしいわ。そうやって、格上の相手の血肉を手に入れて、力をつけていった…………ってことよね」


 答えてくれたのは雪白。で、その後に、ベリーが苦ジュースを飲んだ時みたいな顔で、華月に捕まっていた時に、華月から聞いたらしきことを、ポツリと漏らす。重苦しい、呟きだった。

 華月が、カケラと出会わなければ…………。

 ううん。華月が、月華のコスプレだけで満足していてくれれば、な。

 もしかしたら、仲間になれたかもしれなかったのに。

 なのに、華月は力を求めた。

 月華と同じ力を手に入れようとして、魔法少女を喰らって、そして。

 月華となり替わろうとした。

 だけど、結局。

 フラワーにカケラを奪われて、それで。

 取り込んだはずの力が、毒になっちゃったってこと、なのかな?

 華月の最後が、浮かんで来た。

 でも、あたしはそれを、わざと遠くへ追いやった。


「まあ、華月の話は、一旦終わりにしましょう。それよりも、検証が必要ってことは…………。もしも、どこかの妖魔がこの花を食べたりしたら、カケラを食べたのと同じように、その妖魔の希望を反映した何某かの変化が起こるかもしれないってこと?」


 重い空気を振り払うように、雪白が白い翼をバサリと広げながら言った。

 おかげで、黒い霧が晴れたような気がしたけれど、発言の内容は、むしろ霧を呼び寄せちゃう感じのものだった。

 いや、だって。それって、さ?

 場合によっては、第二第三の華月とか、某カエル妖魔みたいなのが生まれちゃうかも、ってこと?

 そ、想像しなくても、血が凍る。

 ゾッとしながら、幻想的な花を見下ろす。

 呪いのアイテムを見る時の目で。

 う、うう。

 や、やっぱりぃ。綺麗なのは見た目だけで、フラワーに汚染されちゃってるよぅ。

 鳥肌三昧の両腕をスリスリしながら震えていたら、魔女さんの声が静かに響いた。


「いや。検証は必要だが、恐らくそうはならないだろう」


 え? え? どういうこと?

 もったいぶらないで、続きをプリーズ!


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